全てを下ネタ変換する女の子の背景
彼女は一人だった。
彼女の周りにあるのは、父の大量のエロビデオと兄がたまに買ってきていたエロ本やエロゲーだけだった。
家族との会話はほとんど記憶にない。
それでもまだ小さい頃は、彼女がエロビデオで覚えた言葉をしゃべると、父や兄は笑ってくれた。
でも、そのうち誰も家に帰って来なくなった。
その頃にはもう、近所の子は誰も口をきいてくれなくなっていた。だから彼女は寂しさを紛らわすため、家にあるビデオや本、ゲームに没頭した。
彼女には、それしかなかったから。
父がATMの使い方を教えてくれていたから、お金に困ることはなかった。ご飯を買って食べて、家にある本を読みゲームをして一人の家で眠る。その繰り返しだった。静かだと眠れなくて、よくビデオをつけたまま眠った。
たまに外で、人としゃべることもあった。
でも皆、一言二言しゃべると彼女のことを気持ち悪そうに見て去っていった。優しそうな顔をしたお姉さんも、世話焼きそうなおばさんも、皆。
だから彼女はますます、2次元にのめり込んでいった。
本やビデオの中の女の子達は、たくさんの人から構われていた。ゲームでは、登場人物になったつもりで会話を楽しめた。
そこには、彼女を避ける人は誰もいなかった。そこは、優しい世界だった。彼女を受け入れてくれる優しい世界だった。
彼女は、もう、現実をあきらめていた。だって、物語の中の女の子達と同じことをしているはずなのに、現実の皆は、彼女のことを嫌ったから。
何がいけないのかわからなかった。
2次元の女の子はみんなに求められて、現実にいる彼女は避けられる。その違いが何故おきるのか、彼女には理解できなかった。
努力をした。画面の中の女の子達のように、元気に明るく振舞った。画面の中の女の子達のような言葉をしゃべった。口調だって真似した。似たような服だって買った。喜ばれる仕草を鏡の前で何度も何度も練習した。
でも、駄目だった。
彼女と会話を続けてくれる人は、一人もいなかった。
そんな時だった。彼に会ったのは。
どうせこの人も、20秒もしないうちにどこかへ行ってしまうんだろうな、そう思いながら口を開いた。でも彼は、何故だか怒りながらもずっと彼女と話し続けてくれた。
初めてのことに、彼女は戸惑った。
でも嬉しくて、言葉が止まらなくなった。
彼女が話しても話しても、彼は立ち去らなかった。ずっと彼女の話に付き合ってくれた。
彼女は胸がいっぱいになった。この気持ちが、2次元の女の子達がよく言う「好き」という感情なんだと思った。
心臓がドキドキして、自分が何を言っているのかわからなくなる、この激しい心の動きが。嬉しくて恥ずかしくて、どこかに隠れてしまいたいような、でもずっとずっと話していたいような。
その初めての気持ちが、怒りながらも言葉を返してくれる彼の存在が、嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて。
気づいたら彼女はプロポーズしていた。
「一緒にもっと幸せになりましょう!」