リズ先生との模擬戦闘
翌日、いつも通りに訓練場に行くと結構な数の冒険者達が集まっていた。
「おはようございます。リズ先生、これは一体どうしたんですか?」
「おう、おはよう。いやなに、おぬしとの実戦訓練の話を聞きつけた暇な冒険者共が娯楽として観に集まってな。一部では賭けなんかも始まってるようですっかり盛り上がってしまった。」
「賭けですか・・・皆さん娯楽に飢えてるんですね・・・」
「まあなあ、冒険者なんて基本的には野外で野宿しながら命懸けの魔物狩り。帰って来ても金は食費や装備に大半が消えて男ならたまに色街に繰り出すのが精々だからな。」
「あんまり考えたことなかったけど、皆さん町にいるときには何をしてるんですかね?」
「仕事以外でか?まあ、男なら酒場で飲んだくれて、女なら裁縫グループなんかに入って人脈を作ったりするのが普通かな。」
「なるほど・・・こういうイベントを専門でやれば儲かるかも?」
「何を変なことを考えているかは知らんが、博打は基本的にご法度だ。こういう仲間内で細々とやっている分には何も言われんが、警備兵にしょっ引かれたくなかったら余計なことは考えないことだな。さあ、始めるぞ。」
危ない危ない、思わず脱線してしまったけどギャンブルは割と好きだったからな。
果たしてこの模擬戦の賭けがどうなっているかは気になるが、まずは目の前の相手に集中だ。
ほぼ常に装備している籠手に加えて今回はメインウエポンの弓も取り出す。
「ほう、それがおぬしの武器か。そう言えばアーチャーだと言っていたな。矢も弦もないところを見るとただの弓ではなさそうだ。」
一瞬で初見の武器に対する大まかな分析を終えてしまうあたり、本当にリズ先生は優秀な冒険者だったんだろうな。
「来い、いつでもいいぞ。」
リズ先生も剣を鞘から抜き放って正眼に構える。
俺は胸を借りるつもりで鏃のない普通の矢をイメージして連続でリズ先生を撃つ。
避けてホーミング機能に焦ったところを狙い撃つつもりだったのだが、リズ先生は避けるどころかこちらへ突進しながら全ての矢を剣で中ほどから切り払ってしまった。
「なっ!?」
驚いている暇などなく、一気に間合いを詰めたリズ先生の上からの切りかかりが俺を襲う。
(おいおい、この剣ちゃんと刃引いてあるんだろうな?)
幾ら訓練でもこれって当たれば命に係わるだろ。
慌てて左籠手で斥力を発生させて斬撃を弾く。
斥力は引力の反対で物同士を反発させる力のこと、なので強い斬撃ならその分同じ力で弾かれる。
しかも俺の体から50cm位離れた所に斥力場が発生しているので間合いも狂う。
弾かれて間合いが離れた所で再び矢を連続で発射する。
今度は突撃こそはしてこないものの、体勢を整えたリズ先生に矢はやはり全て切り落とされてしまった。
「あんた、本当に一体何モンだい?ただの新人冒険者じゃないね?」
「いやいや、ちょっと良いもの持ってるだけで中身は本当に新人冒険者ですって。リズ先生が一番よく分かってるでしょ?」
「どこの世界の新人冒険者がそんな国宝級の魔道具持ってるって言うのさ!?」
「頂き物ですので、コメントは控えさせて頂きます。」
「ちっ、まあ仕方がないね。あたいの負けだよ。さっさと魔物狩ってレッスン料の魔石持って来な!」
なんと、いきなりの降参宣言に周囲がざわつきまくっている。
まあ冷静に考えれば今回の模擬戦の目的は俺がいきなり魔物狩りに行って死なない程度に実力があるかどうか測るものな訳だから降参ってより終了ってのが正しい気もするけど賭けに配慮したのかな?
大穴を当てた冒険者が配当を求めて胴元に詰め寄ってたりするけど、取り敢えずスルー。
「はい。今までご指導ありがとうございました。」
長かったな~。
ほぼ一カ月くらいになるか、冒険者ギルド内にほぼ軟禁状態での訓練は無事に終わった。
スキル発動はまだ出来ていないけど、それに足る身体能力を得て、何より魔法が使えるようになった。
いよいよ冒険の始まりだ。
魔法に弓矢に魔物狩りってゲームの王道だしな。(本当の王道は剣だとは思うが)
居ても立っても居られない俺は早速受付でこの辺りの魔物生息情報を聞いて魔物狩りに向かおうとギルドを出て町の外へ出ようと歩いて行った。
幸い水も食糧も神様に貰ったまま手つかずだ。
この次元鞄の凄いところは中に入れたものが劣化しないことだ。
何しろ外で狩ったホーホー鳥をギルドの厨房に差し入れるために取り出したらまだ暖かかったからな。
するとそこへ声を掛けてくるものがいた。
「お~い!ちょっと待って~。」
声を掛けてきたのは腰に剣を下げて革の鎧を身に付けたいかにも冒険者って感じの若い女の子だ。
しかし、鎧は明らかにサイズが合っておらず、大人の服を子供が着ている時の微笑ましさしか感じない。
金髪碧眼のロングヘアーで凄く可愛い。
うん、美人と言うより可愛い感じだな。
背も170cmしかない俺よりも頭1つ以上小さいし、全体に細くて小学生みたいな体形をしている。
顔立ちはパッチリとした大きな目が特徴的だ。
「ん?俺に声かけた?」
取り敢えず初対面のこんな可愛い女の子に声を掛けられる覚えは全くないので人違いの可能性を考えて確認してみる。
これで勘違いだったら物凄く恥ずかしい。
「うん、声かけたよ。あなたこれから魔物狩りに行くんでしょう?私も行くところだら、ソロで行くなら良かったら一緒に行かない?」