降臨、付喪神との出会い
「おお、ここがマースか・・・どこかは知らないけどのどかな風景だな。」
俺は気が付くと小高い丘の上に立っていた。
見渡すと遠くに山や森も見え、町や畑らしきものも見える。
本当にピクニックに来たみたいな気分になるな。
「ま、取り敢えず餞別に頂いた品々を試さないとな。」
まずは『次元鞄』からかな。
最後に女神ローラ様(流石にもう呼び捨てはまずかろう)から頂いた革袋を肩から下げている『次元鞄』に入れてみる。
すると、するりと鞄は吸い込まれるように入っていったが、重さを感じない。
なるほど、仕様の通りだ。
これで重い荷物を持っての移動はしなくていいから本気で助かる。
日本での買い出しの大変さなんかを思い出すよ。
そして次は『具現の弓』だ。
これは自分のイメージ通りの効能の矢を作り出して狙う対象に必ず当てられるという優れものらしい。
取り敢えずまずは普通に鉄の鏃が付いた木の矢をイメージして弓をつがえる恰好をすると、本当に矢が何処からともなく現れた。
「おお、こりゃ凄いな。よし・・・」
俺は上空を飛ぶ鳥に狙いを定めて矢を放つ。
感覚では上空10m以上の高さを飛ぶ鳥だ。
普通に考えてとても弓の素人の俺が当てられるとは思わない。
しかし、矢は吸い込まれるように鳥に命中し、鳥は落下を始める。
「凄まじいな・・・・一体どれだけ離れていおっと、無駄な殺生はいかんからな。」
慌てて俺は落下地点を目指して走り始める。
若返った体は元気に地面を蹴り、何年振りか分からない全力疾走を楽しみつつ、落とした鳥を回収する。
鳥は見た目としては鴨に似ているな。
後で調理してみたい。
何はともあれ、強力な遠距離攻撃の手段を手に入れたことが確認できた。
後は『陰陽の籠手』だけど、これは拳の部分も覆っているので近接戦闘時に殴るのに使うも良し、二の腕の半分ほどを覆う部分は硬い金属製なので防御にも使えるという優れものだ。
弓を邪魔しないのも良い。
もちろん、神器の名に相応しい特殊効果もある。
それは『状態異常耐性』と『自動回復』だ。
陰陽というネーミングから想像できるように常に体調のバランスを整えてくれるらしく、毒などの状態異常に対して強い耐性が付くということに加えて体力やダメージを徐々に回復してくれるらしい。
流石にこれを試すのは今は難しいので別の機会にしよう。
さて、後は最後の餞別の中身だけど。
俺がさっきしまったばかりの次元鞄に手を突っ込むと、頭の中に革袋とホーホー鳥という文字が浮かんで来た。
なるほど、中に入っているものが一覧になるけど、袋ごと入れると袋しか認識されないって訳か。
改めて革袋を取り出して今度は中身をそのまま次元鞄にぶちまけるように移す。
そして再び手を突っ込むと、今度はちゃんと中身が頭に浮かんできた。
・ナイフ×1
・ナッツバー×10本
・金貨×1枚
・銀貨×5枚
・銅貨×10枚
・魔法のポーション×1
・魔力回復薬×1
・水筒×1
・ホーホー鳥×1羽
・革袋×1
なるほど、これだけあれば町でも外でも暫くは大丈夫ってことかな?
ありがたい。
さて、最後に服以外で唯一元の世界から持ってきたテーブルクロスを仕舞うために次元鞄に入れようとするが、何と入らない。
次元鞄は容量は無限で入らないのは意識ある生命体のみ、という話だったはずだけど・・・
おかしいと思ってテーブルクロスを一旦ふわりと広げてみる。
すると、不思議なことが起こった。
レストランのテーブルをすっぽり覆うテーブルクロスはそれなりの大きさのはずだったのだが、シュルシュルと縮んでまるでランチョンマットのような長方形に形が変わり、無地の白だったはずが、何故か目と鼻と口のイラストが描かれている。
「なんだってんだ?」
『ふぁ~。おはよう~ってあんた誰~?』
「うぉい!?喋った?いやいや、お前が誰だよ?俺は神崎靖、当年とって78歳のしがない洋食屋店主だ。お前は俺の店のテーブルクロスだったはずだが?」
『うん、そ~だよ~。100年も大事に使ってもらったから丁度付喪神になろうとしてたんだよね~。』
「付喪神か・・・聞いたことはあるが、まさか本当にこの目で見ることになるとは。」
『う~ん、でもなんかちょっと違うんだよね。ってかここどこ?レストランじゃないよね~?』
「ああ、ここはレストランどころか地球でもないマースって世界らしい。こっちの世界の神様の喧嘩に巻き込まれて俺がこっちに来るときに掴んだんでそのままお前も来ちまったって訳よ。」
『あ~それでかな~普通付喪神になったって人と話なんて出来ないはずなんだけど、特別な何かが起こったってことかな~?そう言えば僕の知ってる神崎靖はもっとお爺ちゃんな見た目だったはずなんだけど、随分と若いね?まるで昔アルバイトをしていた時みたい~。』
「すげえな、そんな昔のことを覚えてんのか?そう、俺はこっちの世界に連れてこられた詫びに若返らせて貰ったって訳よ。」
『なるほど~そんなことがあり得るなら僕のこの状態も納得かな~。まさか喋れるようになるなんて思わなかったけど、これも何かの縁だからこれからも大事にしてね~。』
「おう、もうなんか驚くのも損だな。こっちこそよろしく頼むぜ。まさか元の世界への唯一の想い出が神様になっちまってるとはな。」
『代々大事にしてもらったからね~。』
「こりゃ寂しくなくていいや。ところで、付喪神ってのは名前があるのかい?」
『ないよ~。今日産まれたばっかりだからね~。なんか付けてよ~。』
「そうだなあ、のんびりと喋るテーブルクロスだから・・・クロで」
『え~白いんだけど~?』
「白いからシロじゃ芸がないだろう?じゃあクロこれから宜しくな。」
『こちらこそよろしく~。』
「良し、そんじゃあ早速町へ行ってみるとするか。」
『は~い。僕のことは頭にでも巻いておいてくれたらいいよ~。』
確かにヒラヒラする布をそのまま手に持って移動するのは邪魔くさいからな。
丁度顔の絵がおでこの上に来るように工夫して巻いて準備完了だ。
俺は籠手と弓も仕舞って足取りも軽く、町へと向かって歩き出した。