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神々との遭遇~地上に降りるまで

 目が覚めるとそこは見知らぬ部屋だった。


 白いベッドに白いシーツ、白い壁に白い天井。


 ついに気が触れて精神病院にでも担ぎ込まれてしまったのだろうか?


 自分が何故ここにいるのかもここが何処なのかも皆目分からない。


 「こうしちゃいけない、ランチの仕込みをしなきゃ。」


 ベッドから慌てて飛び降りると、傍らに白髪の老人が座っているのに気が付いた。


 「お、目が覚めたかの。」


 「おわっと、え~とどちら様?」


 「驚かして済まんの。儂はまあ、この世界の創造神という立場のものでな、そなたに詫びをするためにここで待っていたのじゃよ。」


 「え~と、神様?ってことは俺は死んだのか?詫び?済まんが全く分からん。」


 「無理もないな。順を追って話をするから落ち着いて聞いてくれ。」


 創造神を名乗る老人が手を振ると、老人が座っていた椅子の向かいにもう一つ椅子が出来、間にお茶セットが乗ったテーブルが現れた。


 手品というより魔法、英語では同じマジックではあるが全く受ける印象が違う。


 促されるままに席に座り、勧められるがままにお茶を飲む。


 それは日本で飲んできたお茶と全く味も風味も違う初めてのお茶だった。


 「変わった味だな。ほうじ茶とも麦茶とも緑茶とも違う、何ていうお茶なんだ?」


 「これはこちらでは最も良く飲まれているお茶でコヒ茶という。」


 「コヒ茶?コーヒーとも違うな、後で是非この茶葉を見せてくれないか?」


 「ほほほ、これから生き死にの話をしようという時にお茶が気になるとは変わった御仁じゃな。」


 「ああ、そういやあそうだったな。ついつい飯屋の性で初めてのモンは気になんのよ。まあいい、それで?ここがどこで、何で俺がここにいるのか何かをちゃんと説明してもらおうか。」


 「ああ、そうじゃな。何か聞きたいことがあったら遠慮なく聞くがよい。」


 そうして老人が語ったことは実に荒唐無稽な話だった。


 曰く、ここはマースと呼ばれる多くの神々が見守る世界。


 神界と地上の大きく2つに分けられた世界は地上の者たちからの信仰とそれに対する加護という形で繋がっている。


 神界も地上も日本の八百万の神々宜しく沢山の神と者たちが住んでいて、当然争いもそれなりにある。


 普通神界のものは直接争ったりしないのだが、たまたま合祀されている祭壇に供えられたものの取り分を巡ってある二柱の神々喧嘩をしてしまったのだそうだ。


 流石神々の力の衝突は凄まじく、その余波で次元にゆがみが発生して、その穴がたまたま俺の店に繋がって俺はそこに落っこちたんだそうだ。


 そう言えば、確かにそんな光景が何となく頭に浮かぶ。


 足元が真っ暗になって落ちていくのに抗おうと必死に手を伸ばして・・・・


 「テーブルクロスを掴んだような気がする・・・」


 「そうじゃ、それもここにある。面白い一品じゃない。」


 そう言って綺麗に畳まれたテーブルクロスを差し出して来た。


 「面白い?古いって意味じゃ面白いかも知れないけどな。」


 「まあ、それは兎も角、本当にうちの若いのが申し訳ない。二柱にはきつく灸を据えておいたが、それでもそなたが帰れないことに違いはないのでな。」


 そう言って創造神とやらは深々と頭を下げた。


 おいおい、神様が人間風情に頭を下げるなんて聞いたことないぜ。


 「帰れない?もう一度その衝突をしたら穴が開くんじゃないのか?」


 「その可能背はないとは言えんが、無数にある世界のどこに繋がるかはやってみないと分からんし、その都度お主のような犠牲者を出すリスクを考えると禁じざるを得んのだよ。済まないが分かって欲しい。」


 「う~ん、まあそりゃあ分からんじゃないけどなぁ。分かったよ、こうして詫びを入れてくれてるのを邪険にするのもなんだし帰れないのは理解した。それで?俺はこのままこの神界で過ごすのかい?」


 「おお、謝罪を受け入れてくれて感謝するぞ。お主には神界では詰まらんと思うのでな、是非マースの世界で新たな人生を楽しんでもらえたらと考えているんじゃ。」

 

 「おお、そりゃ悪くねえが、俺みたいな年寄りに今更色々新しい環境ってのは堪えるなぁ。」


 「心配には及ばんよ。せっかくの第二の人生じゃからな、若い体を用意する。お詫びの意味も兼ねてこちらの共通語も使えるようにするし、その他の特典も付けるつもりじゃ。その辺りの詳細はヒュームの主神に任せてある。では、儂はこれで失礼するが、楽しい第二の人生を送れることを祈っておりますぞ。」


 そう言うが速いか目の前の景色が変わり、今度は金髪の美少女が目の前に現れた。


 「うぉい!?いきなり何だ?心臓に悪いな・・・嬢ちゃんが主神ってのかい?」


 「はい。私がヒューム、あなた様の世界ではニンゲンと呼ぶ種の主神ローラと申します。創造神よりあなた様がマースで人生を楽しめるように取り計らうよう申し伝えられております。何なりとお申し付けくださいませ。」


 おお、神様と言っても何とも腰が低くて好感が持てるな。


 爺さんよりも可愛いのも悪くない。


 生憎と俺には子もなかったので孫もいなかったが、こういう孫がいたらうちの看板娘になってくれただろうに。


 「っといかんいかん、あまりの事態に頭が飛んでたわ。んで、取り計らうって言うけど具体的には何してくれるんだ?」


 「まずは肉体の若返りです。ご希望の年齢まで若返りをさせて頂きます。あるいは、こちらで新しい体を用意させて頂きます。それと、スキルか魔法の適性を選んで頂きます。その後餞別の品を選んで頂いてから地上のお好きなところに降りて頂きます。」


 「若返らせてくれるのか?それなら16歳がいいな。新しい体だと鏡見てひっくり返りそうだから遠慮しとくわ。それで、スキルか魔法の適正ってことは両方は選べないって訳かい?」


 「そうですね・・・あなたなら大丈夫かも知れません。一般的にスキルは肉体を駆使するためのもので魔法は精神の力で世界に干渉するものですが、どちらか一方しか適性を持つことは出来ません。ですが、異世界から来たあなたなら両方の適性を持つことが出来ますね。これは驚きです。」


 「ほうほう、それは有難いな。どんな選択肢があるんだい?」


 「スキルの方は力・速度・耐久・技術・感度の5系統ですね。技術に関しては剣技や槍の技術等と無数に分かれます。魔法の方は火・水・光・風・土の属性から選べます。」


 なるほど、ますます持って物語そのままだな。


 侮るなかれ、毎日店を開けるので旅行に行くこともない洋食屋の娯楽は実は読書だ。


 中でもファンタジーは大好物だったからな。


 え、テレビを観ないのかって?


 あんな反日メディア何ぞ誰が見るもんかい。


 「では、スキルは速度。魔法は水でお願いしたい。」


 「随分決めるの早いですね?一度決めたらやり直せないですけど大丈夫ですか?」


 「ああ、こちとら何十年も夢想してきたんだ。全く問題ないよ。」


 「分かりました。それではお望みの適性を与えます。」


 そう言って女神ローラが手をこちらに差し伸ばすと、そこから光の玉が2つ現れた。


 1つは水色、1つは緑色の玉で、ふわふわと漂ってきて俺の胸に吸い込まれた。


 「これで若返りと適性の付与は終りました。」


 「おお、これは凄いな。本当に若返ってる。適正ってやつはまだ分からんけどな。」


 「適正についてはあくまでも素質のようなものなので実際に使用したり修練したりして伸ばすしかありません。」


 「なるほど、まあそりゃそうだな。分かった、ありがとう。」


 「では、最後に餞別のお品を選んで頂きます。こちらへどうぞ。」


 ローラの後について行くと、荘厳な雰囲気のある扉の前に案内された。


 「この宝物庫にあるものから3つまで選んで持って行かれて構いません。創造神よりのせめてものお詫びとのことです。手に取ればその効能等が分かるようになっていますのでじっくりと考えて下さって構いません。いずれもマースでは神器に分類される逸品ばかり、必ずやあなたのお役に立つでしょう」


 「有難い。じゃあ、悪いけど少し待っていてくれ。」


 意気揚々と扉の中に入る。


 まるで民話に伝わる『マヨヒガ』の中に入ったようだ。


 そこには武器防具や装飾品に加えて日用品に至るまでありとあらゆるものが並んでいた。


 「いや、これは考えるのに物凄い時間が掛かりそうだな。」


 とは言え、大事なことを忘れていた。


 一度扉を開けて外を見ると、そこにはローラが変わらぬ姿勢で待っていてくれた。


 「もう決まりましたか?」


 「いや、選ぼうとはしたんだけどあまりにも種類が多くてね。選ぶ基準を作るために少しマースだっけ?というこれから行く世界について教えて欲しい。」


 「なるほど、確かにそれは必要ですね。では、掻い摘んでご説明しましょう。」


 ・マースにはヒューム族/エルフ族/ドワーフ族/獣人族/魔族/魔獣等多数の種族が存在する。

 ・ヒューム族に限って言えば多くの国に分かれている

 ・数で言えば圧倒的に多いのはヒューム族だが、肉体的に圧倒的に弱いのもヒューム族

 ・種としての強さと寿命は正比例し、繁殖力は反比例するので均衡がとれている

 ・ただ、ヒューム族と獣人族と魔族は支配欲が強く、勢力争いを常に続けている

 ・魔獣は野生の動植物のうち、体内に魔石を持ち強力な特殊能力を使えるもののこと

 ・ヒューム族は多くの国で王制を採用しており、貴族もいる

 ・ヒューム族の一般人の職種としては王家に仕える公務員や軍人の他は農家に商人や職人が主で、特殊な職業として「冒険者」がある

 ・冒険者とは元々は未知未踏の領域を開発/探索する者たちで、軍や国とも連携する国土開発や領土拡張の重要な役割を担っていた

 ・しかし、時の流れと共に仕事にありつけない若者が危険な仕事を請け負う代わりに国に縛られずに自由に動けるようにするための組織としてギルドを立ち上げた結果、ヒューム族の全国家に広がる一大勢力になっている


 「ざっとこんなところでしょうか。何かご質問はありますか?」


 「ああ、あるな。経済はどうなってる?貨幣とかは存在するの?」


 「はい、希少金属である銅・銀・金に代表される貨幣が物流の決済手段として種族を超えて使用されています。」


 「平均寿命とか分かったら教えて欲しい。」


 「平均寿命ですか・・・・なるほど、40歳前後と言ったところですね。」


 「随分若いな。医療水準の問題で乳幼児が早く死んだり戦争で若いのが死んじまうってことか?」


 「そうですね。お考えの通りで間違いないです。」


 「分かった。他にも聞きたいことはあるっちゃあるけど全部聞いたら詰まらないし、キリがないからな。じゃあ、も一回中に入って選んでくるよ。」


 ローラは黙って会釈をして俺を送り出してくれた。


 それにしても今一つ喜怒哀楽が感じられない子だな。


 同じ神様でもさっき話した創造神とはえらい違いだ。


 まあいいや、冒険者ってのは定番中の定番だけど、剣と魔法の世界にこいつがなくちゃ始まらないわな。


 いきなり異世界から来た俺が料理屋って訳にはいかんだろうから取り敢えず冒険者を目指すとして・・・


 それからたっぷり時間をかけて俺は3点の餞別品を選ばせてもらった。


 「大分待たせちまって悪かったな。お陰様でバッチリ決まったぜ。」


 「それは重畳。なるほど、『具現の弓』に『陰陽の籠手』に『次元鞄』ですか、良さそうですね。では、最後に行き先ですがどちらにしますか?」


 「どちらって言われても何も知らないから適当でいいよ。あ、でも人間・・いやヒュームの町が見える位の町の外で頼むよ。」


 「畏まりました。では、最後に私からも当座の物資を差し上げます。これは創造神からではなくヒュームの女神としての餞別だと思って下さい。」

 

 そう言って革で出来た袋を一つ差し出してくれた。


 「何から何まで悪いな。」


 「いえ、こちらの不手際で故郷を捨てさせてしまったのですから当然のことです。では、準備が宜しければ地上に転送しますね。これ以降は神界には戻れませんし普通のヒュームとして生きて頂きますので神々との直接の連絡はできません。」


 「ああ、了解したよ。じゃあ最後なんで言わしてもらうけどさ、ローラちゃん笑った方が可愛いと思うぜ。」


 「な!?仮にも女神である私にちゃん付で可愛いなどと・・・・」


 流石に無礼が過ぎたかと焦ったけど、よく見れば頬を染めて恥ずかしそうにしているだけだ。


 なんだローラちゃんやっぱり可愛いじゃないか。


 神様じゃなきゃ若返ったことだし口説いてたぜ。


 「ははは、済まん済まん。年を取ると遠慮がなくなってな。でも、そっちの方が可愛いぜ。」


 「もう、せっかく私が凛とした雰囲気で通そうとしてたのに・・・はいはい、じゃあもう転送しますね。比較的平和で治安が良くて政情も安定してそうなところを選んでおきましたよ。」


 言うが速いか俺は光に包まれて、気が付くと草原の丘の上に立っていた。

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