エンジェルリングストーリーズ(3)
「預言書の救世主とは、片翼の騎士のこと。この者は無翼の者ではないか。このような下賤の者とは似ても似つかぬ!」
「アポロニアン様は、魔物も心底憎まれているが、下界の地上人も、本当はお嫌いなのだからな。無理もない。」
ライダーの1人がつぶやいた。
「しっ!アポロニアン様に聞こえるぞ!地上人を御嫌いなどと、我らが主神の御方のお耳に入ったら、それこそ一大事。滅多な事をいうものではない!それこそどんな御咎めを受けるかわからんぞ。」
慌てて他のライダーが諌める。だが怒り絶頂の今のアポロニアンの耳には、全く彼らのささやきなど届いていない。
「閣下!たいへんでございます!」
上空から黒色のペガサスに騎乗したライダーが、息も絶え絶えに空を駆け下りてきた。
「閣下、このラグナの北、東、南の3つの方角より、黒い塊が押し寄せてきます。あれは、魔物の群勢!しかも、その数は・・・」
黒のライダーは、全てを伝えきる前にゴクリと喉を鳴らした。瞬時にその場にいるもの全てに強い緊張が漂う。
「その数、そ、その数は・・・およそ100万以上!」
「なっ!?」
「馬鹿な!そのような群勢聞いた事もない。」
「何かの見間違いだろう!」
「そもそも100万の数など数えられまい!」
親衛隊のトップたちは口々に否定した。アポロニアンが、ゆっくりと黒のライダーの肩を持った。
「誠なのだろう?」
「は、はい。数は数えられませんが、此度の我らが退治しつくした魔物どもの総数は、およそ1万でした。それから考えると100倍は軽く超えております。間違いなく・・・」
「わかった。」
アポロニアンは、黒のライダーの肩を一旦離し、そして今度は強く叩いた。黒のライダーは、その勢いで場にうずくまった。
「しかと報告を受けた。大義である!」
「ブリュンヒルデよ。この状況、貴様の責を今問いただしている暇も惜しい!我らペガサス騎士団は、これより、魔物どもの征討にかかる。貴様はラグナの門をすぐさま閉じ、上空をヴァルキリーで固めよ!一歩もこの門より中に入れてはならん。奴らの狙いは、月のライタルストーンと、それを守る我が妹アルテミスの命。死んでもこれを守らねば、明日のエデンはない、わかるな!」
ヒルダは頷き、しかし、次の瞬間、その翼を大きく羽ばたかせ、一気に飛翔した。そして、ラグナのおよそ100メートルほどの上空で、陣形を編成しつつあるペガサスの一団をさらに飛び越え、遥かな高みへと舞い上がった。
「あれか!」
ヒルダがラグナの門の前方を見ると、夜明けの後の雲海の美しさは既になく、黒く蠢めく波のように、大小様々な魔物たちが押し寄せてくるのが見て取れた。
「せっかく待ち望んだ啓示の君が現れたのだ。宮様に御目通しするまで、死ぬに死ねん!我がグニングルの槍にかけて、ここは通さん!」
ヒルダは、そういうと、自らの槍を天空に向けた。すると雷雲が瞬く間に集まり、そして、たなびく雷の一つが彼女の槍を打った。
「ぐっ!!」
あまりの電撃に彼女は一瞬意識を失いかけるが、持ちこたえた。円錐状の槍先が、まるでドリルのように高速の回転を始めた。するとさらに、槍自身が稲妻を発し始めた。そしてそのまま、ヒルダは狙いを定めて、押し寄せる魔物たちの群勢に向かって、雷を帯びたグニングルの槍を一気に投げはなった。