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母は何も言わない

作者: クラウン

これは僕と母と父と妹と兄と弟の話だ。

母はよく、仕事を頑張り過ぎる事もあり、よく寝込んでしまう時が何度かあった。

父は母とは違い仕事もロクにせず、いつも夜遅く帰って来ている。

兄は高校三年生の受験生と言うこともあってか部屋に入ったきり五時間も姿を見ない日が日に日に数を増していった。

妹は弟の一歳早く生まれた。妹は良く喋る方で去年までは大好きな僕の兄と自慢話をしていたのだが、受験生になってからパッタリと口を聞いてくれないことに妹に静かな時間が増えるようになった。

僕はまだ中学二年生だ。クラスメイトは僕の父が仕事をさぼっていることを知って酷いイジメにあった。

僕は父と母の事が大嫌いだ。父と母のせいでクラスのみんなから冷やかされたからだ。

それに父は朝は何故か早く、帰りは遅いのでイジメの事を言えなかった。 

母は仕事熱心だけど、集中して家族の話を聞いてくれない。

一カ月前から母はパッタリと仕事を休むようになった。

そんなせいで貧しかった暮らしが更に貧しさを増していった。

僕は父も母も兄も面倒を見ないため、変わりに世話をしている。

今日は十二月二十三日。母の誕生日だ。

誕生日だと言うのに母は朝から病院の検査だと父に聞かされた。

一体何事なのか僕は分からないままでいた。

妹と弟は一生懸命母を探しているのだが、そこにはいない。

兄はこの事を一切知らずに部屋で勉強している。

それからというもの母の姿は家になかった。

これにはさすがに妹と弟は泣き叫んでいる。

僕にもどうする事も出来ない。

今日は父の帰りが早かった。

父は真剣な顔をしている。

いきなり、みんなを呼び始めた。もちろん兄にも。

そして今までの事を語った。


『みんなには悪いことをしたと思っている。見ての通り家は貧しい。まずは妻の話をする。』『母は仕事で倒れる事は前からあったがふと見ると倒れ方が明らかにおかしかった。お金が無い中、病院に検査をしたらガンだと言われた。この事は伝えて入院する事になった。それがみんなの疑問だっただろう』


『次は僕の話をする。前の仕事を辞めてアルバイトをする事になった。いつでも駆けつけられるように。夜が遅いのは友達に妻の入院代を借りるためだ。これも全て余命三ヶ月と言われたあの日からだ。しかも今日がその三ヶ月後だ。』


二時間後、一本の電話が鳴り響いた。

病院からだ。宣言された通り経った今息を引き取った。

あの三ヶ月、僕は母にどれだけの事を伝えられただろうか。



あれから十年、僕は成人を迎えて四年経った。

兄は名門大学卒業して、エリート会社で働いている。

そして弟は十九歳になった。 

妹は成人した。

家族は今、一段落ついた。

今思う事は、母も父もガンの事を告白してくれなかった事だが、今となってはどうでもよくなっていた。

あの日の電話には続きがある。

実は亡くなる前に母はこう言ったと言う。

『どうか、どうか子ども達がこの世界で強く生きて下さい』

あの日から僕は強くなろうとした。

イジメてきた人に言い返してやった。

父は相変わらずのんびりと暮らしている。



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