アイス
『龍ちゃん今日何か暑くない?』
朱音さんは暑さを感じさせない爽やかなトーンで言った。
『もう7月だしね』
僕は額の汗を拭いながら簡素な返事をした。
『じゃーさーあそこのコンビニでアイスでも買おうよ!』
千島高校の通学路にある事で千島高校の生徒から絶大な人気を誇るロー◯ンを指差しながら朱音さん言った。
『うん。いーよ』
僕は暑さで脳が焼かれてしまったので思考停止気味に返事をした。
『『涼し〜!』』
ロー◯ンの自動ドアをくぐるとシンクロしながらそう呟いた。砂漠でオアシス見つけた時ってこんな感じなのかな。僕が砂漠人?の気持ちを考えていると朱音さんはすたすたとアイスコーナーへ歩を進めた。僕もあわててその後を追った。
『どれにするか決めた?』
『僕は雪◯大福かな?』
『え〜普通雪見大◯って冬食べるもんじゃん!』
僕が雪見◯福をアイス売り場から持ち上げると、朱音さんはニタと笑いながら◯見大福を馬鹿にしてきた。
『別に美味しいから良いでしょ!で、朱音さんは何にしたの?』
僕は頰を少し膨らませながら聞いた。
『よくぞ聞いてくれました!なんと私はパ◯コです!』
朱音さんは天高らかににパピ◯を上げながらドヤ顔してきた。
『なんとって◯ピコは結構定番じゃない?』
『でも美味しいから良いじゃん』
僕たちはこんなたわいも無いアイストークをしながら会計を済ませ、再び砂漠という名の通学路に足を踏み入れた。
『『いただきまーす』』
再び声をシンクロさせながらお互い自分の買ったアイスに手をつけた。
『ねぇねぇ、友達から聞いた話なんだけど、龍ちゃんは何で雪見大福とかパピコが2個ついてるか知ってる?』
『分かんないけど、一個じゃ物足りないからじゃ無い?』
『ぶっぶっー!』
朱音さんは両手に持っているパピコでバツマークを作りながら言った。
『違うかー、じゃもう分かんないな、正解教えて』
僕がそうお願いすると、朱音さんは再びニタと笑った。
『正解は……好きな人同士が一緒に食べれるようにするため……でしたー』
『ヘー、ソウナンダ』
『知らなかったんだ。夏なのに雪見大福買うからそういう気でもあるのかと思ってたのになー』
『そんな訳ないでしょ!』
僕は結構前から赤面してる顔を誤魔化すため、強めの口調で言った。
『そんなに交換が嫌なら一口だけでもくれない?私、雪見大福食べたい気分なの』
朱音さんはそうあからさまに演技っぽく言うと僕の応答も聞かずに目を閉じ口をアーンとしながら近づけてきた。やばい。この食べかけの雪見大福を上げたらいわゆる間接キスという物が出来上がってしまうのでは。でも上げないというのも何か気がひけるし、どうすれば?
パクっ
『あれ?これ食べかけじゃない?』
朱音さんは目をパチクリさせながらまだ手を付けてなかった2個目の雪見大福を頬張った。
『折角だし。そんなに食べたいなら新しいの食べて欲しくてね』
僕は冷や汗をかきながらそう言った。あの一瞬で僕が食べていた雪見大福を戻し、新しい雪見大福を取るのは至難の技だったが何とか成功しこの状況をやり過ごす事が出来た。
『ふーん。そんなに私と間接キスするのが嫌のね』
どうやらまだやり過ごせてないらしい。朱音さんはジト目でこちらを覗きながら言った。
『いや別にそういう訳では……』
僕は朱音さんの視線から逃れるように目を泳がせた。
『じゃ私のパピコ食べてよ!』
朱音さんは若干剥れながら先程まで食べていたパピコを差し出してきた。
『わかった。食べるよ』
僕はそう言い数秒パピコと向き合っていると横槍を入れるように朱音さんがニタと笑った。
『もしかして高校生にもなって間接キスが恥ずかしいって訳ないよね』
煽るような口調で僕を急かしてくる。
『ハハ、マサカネー』
僕は汗をダラダラに流しながら片言になりながら言った。
『でも顔赤いよ』
『暑いからね!』
結局パピコは食べれませんでした。