釣り合い
「龍ちゃん、カッコいい〜」
朱音さんは先日僕がカッコいいと言われるのに弱いと知ると弱点を突かんとばかりにカッコいいを連呼してくる。連呼されたからと言って朱音さんのカッコいいの効力が弱くなる訳もなく、今だって手元にある夏休みの宿題の内容が全く入ってこない。
「朱音さん、今カッコいい何て言われても嬉しくないから、そんな事言ってないで手を動かそうよ」
「龍ちゃん、可愛い〜」
「別にカッコいいがダメだったからっていって、可愛いって言われるのが嬉しい訳じゃないんだけどな……」
「可愛いって思ったのは本当よ。だってカッコいいって言われて嬉しいのに背伸びして、ニタ付いた顔隠してる気なのが可愛いくて」
クソ。相変わらず全部お見通しだし、僕そんな顔にやけてるか?僕は赤くなった頰をを確認するように弄った。
「僕をからかってないで勉強しよ!」
「龍ちゃんそんなに勉強勉強って……それじゃこの問題どっちが解けるか勝負しよ!勝ったら相手に何でも言う事聞かせられるって事で」
朱音さんは夏休みの宿題の一つである数学のプリントの中でも一番難しい問題を提案してきた。
「……うん、いいよ」
ふふふ。朱音さんは一枚しかプリントを持ってきてないから分からないかも知れないけどこのプリントは本来二枚組。答えが二枚目のプリントに書かれている。しかも僕の二枚目のプリントは朱音さんから死角の位置に運良くセッティングされてある。この勝負悪いがもらった。
「よし終わった」
「僕も終わったよ」
「じゃ答え合せしようか、龍ちゃん答えのプリントとって?」
「あぁ。はい」
僕は朱音さんの死角にあった答えのプリントを差し出した。すると朱音さんは二枚のプリントを見比べ、自分のプリントに丸と大きく書いた。さすがは成績学年上位者、こんな問題らくらく正解か。
「正解だったよ、これで龍ちゃん正解じゃないと負けだよ」
「わかってるよ」
朱音さんは僕にプレッシャーをかけながら答えのプリントを渡してきた。僕は貰った答えのプリントと己のプリントを見比べ大きく記号を書き込んだ。
「はい……間違ってたよ。勝負は朱音さんの勝ちだね」
「え?あ、私の勝ちだね!やったー!」
朱音さんはやはり全てお見通しなのだろう。少し驚いた様な表情を見せた後にぎこちなく喜んだ。
「私が勝ったので一つ言う事聞いてもらいまーす。じゃ龍ちゃん目を閉じて」
またキス!?と思わせて違うことなんだろうな……。僕は何度か体験するこの状況に少し余裕を持って待っていると
「龍ちゃんカッコ良かったよ……でも何で……」
朱音さんは甘ったるい声を出しながら耳元で囁いてきた。やっぱりお見通しだったか。
何でって「龍ちゃん、かっこいい〜」と言われたからだよ。なんて言えるわけも無く
「何でって何のこと?」
すっとぼけることにした。その後朱音さんは深くこの話を掘り返す事はなくこの話は終わった。
朱音さんに釣り合う男にはまだなれなそうです。