服屋
朱音さんは気まぐれだ。映画を見に行こうと約束したのにカラオケ行きたいって言ったり、映画見に行くと約束したのに公園でぶらぶらしたいとか言ったり、今日だって映画を見に行く予定だったのに服を買いたいとか言い出した。もしかして映画嫌いなのか?
「どう?似合う?」
「うん……」
「じゃこれは?」
「似合う……」
僕は今近所の服屋プレゼン朱音さんファッションショーを見せられている。僕は前にも言った通り服についての知識がない上に夏という事もあり朱音さんが着る服はどれも肌色が多く刺激が強すぎる。おかげでまともなコメントが返せない。
「龍ちゃん適当に返事してるでしょ?」
「ち、ちがうよ」
「じゃ何でごもごもした喋り方でうんとかすんとかしか言わないの?」
朱音さんは言葉とは裏腹にちっとも怒ってないニタっとした笑みを浮かべている。さては僕をからかおうとしてるな。でもまだ大丈夫。これには逃げ道がある。
「だから僕にはふ……」
「服の知識が無いはなしよ。だって服の事分からなくても着た時の雰囲気とかは言えるじゃない」
逃げ道なくなりました……。ここは素直に言うべきか?でも言った瞬間にからかわれるし何より僕が恥ずかしい。僕はどうすればからかわれないか必死に逃げ道を模索していると思わぬ方向から声がかかった。
「朱音に龍生くん、こんな所で何してるの?」
僕が声の主がいる後ろに振り向くと短く切り揃えた黒い髪に丸い眼鏡。
「石井さん!いい所に!いま朱音さんが新しい服欲しいって言って試着してるんだけど僕に女の子の服はよく分からなくて、良ければ石井さんが見てくれない」
「そういうことなら……私も試着するわ」
え?そっち行っちゃうの!?まぁでもさっきの話をうやむやに出来たから結果オーライか。
「どう?」
石井さんは普段はぶかっとした服を着がちだから体のラインとか分からなかったけど、いざぴったりの服を着ると朱音さんに及ぼないながらもスタイルが良かった。
「似合ってると思うよ!」
「ありがとう。全然照れてくれなかったけど……」
最後は何言ってるか分からなかったけど石井さんが喜んでくれて良かった。
「和美終わった?」
「うん」
「じゃ次私行くね。どう?」
これはほんとに石井さんが着てたのと同じ服か?朱音さんが可愛いのは知ってたがここまでとは。
「同じ服なのに何で?朱音だとあんなに顔赤くしてして……」
「黙ってないで教えてよ。感想」
「え?あ、うんいいんじゃない?」
「それだけ?それにせめて顔見て言ってよ」
朱音さんは僕の横向いた顔を真正面に戻そうと手を伸ばした。やめて。別に見ていけない訳では無いのだが見ちゃダメだと思う脇が見えそうになる。僕はそう思い顔を横で固定した。
「別に似合ってるって言ってくれてもいいじゃん……」
朱音さんの霞むような声が僕には確かに聞こえた。
「あの、顔を横に向けてた件は別に朱音さんが似合ってなかったからではなく、むしろ似合いすぎててだから……」
「ふふふ。結局何言いいたいのよ?」
朱音さんは僕が考えのまとまらない言葉を必死に探しているのを見て笑いだした。
「だからまとめるとその服すごい似合ってるなって」
「あの言葉冗談だったのに……」
朱音さんはニタっとした笑みを浮かべた。それと裏腹に勘違いで余計な気遣いしてしまった僕は顔を沸騰させてしまった。
「でも、ありがとう!」
「うん!」
こんな幸せな時間を過ごせるなら気まぐれもいいかもしれない。でも今日は天気の◯見たかったな。