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電話

電話は不思議だ。遠くにいるって分かっているのに、僕の耳に届く声は機械の音だって分かっているのに、まるで耳元で囁かれてるみたいでドキドキする。

「あ、今龍ちゃんドキッとしたでしょ?」

朱音さんは相変わらずのエスパーっぷりで僕の心を読んでくる。だが今はお互い自分の家で電話中、シラを切ればドキッとした事がバレる事はない。

「そ、そんなしてる訳ないでしょ!僕の事見えてないのに適当言わないでよ」

「ふーん」

朱音さんは電話越しでも分かるからかう様なトーンで言った。

「じゃビデオ通話しよ!」

「え?な、何で?」

「何でってついさっき龍ちゃんが顔も見てないのに適当言うなみたいな事言うから、顔が赤くなってないか見てあげようと思って」

ま、まずい。今ビデオ通話何てしよう物なら顔が赤い事がバレてしまう。だが断れば顔が赤い事を自白する様なもの。どうすれば……そうだ!これだ。

「そ、そうだったね。じゃいいよ、ビデオ通話しよう」

 

「あれ、龍ちゃん長袖のジャージ着てるの?」

よし!気付いてくれた。

「う、うん。少し寒がりでね」

ごめんなさい嘘です。実際今僕の部屋クーラーガンガンだし、お母さんにバレたら絶対に怒られる。

「でも顔赤いよ。もしかしたら熱いんじゃない?」

「そ、そうかも。ちょっと熱かったかもしんない」

僕はそう言いながら長袖ジャージを脱いだ。計画通り、完璧なシナリオと名演技で何とか顔が赤いのを熱いせいにする事が出来た。しかもビデオ通話にした事で電話特有の耳元で囁かれてる感覚も無くなり心無しか顔の赤さも消えていってる気がする。

「ビデオ通話やろって言ったの私だけど部屋とか普段着とか見られるの恥ずかしいね」

朱音さんはあんまり恥ずかしそうにせず演技口調で言った。そう言えばさっきまで赤面してる事を隠す事で精一杯で朱音さんの服とか意識してなかったが今見ると普段着が別に悪いという訳ではないがラフな部屋着はちょっとはだけてて……

「龍ちゃんのえっち……」

「別にそういう事考えてないよ!」

朱音さんはニタっとした笑みを浮かべ服を隠す様に手を両肩に当てた。クソ!朱音さんエスパーすぎる。こんな目線でバレるなら僕朱音さんの事見れないじゃないか。

「じゃ服じろじろ見て何考えてたの?」

「いやその部屋着朱音さんに似合ってるなって思って」

僕は即興にしては良い言い訳を少々演技口調になりながら言った。

「ふーん。じゃどこが私に似合ってるの?」

ま、まずい。僕はファッションに疎い。つまり服の評価が出来ないのだ。ここは服の具体的な評価じゃなく見た時の雰囲気とか言うしかない。

「え、えっと普段着も全然良いんだけど、部屋着のラフな感じがのびのびした朱音さんっぽいなって思って」

何を言ってるんだ僕?自分で言っててもよく分からないぞ。これでは朱音さんに叱咤される。される。そろそろされる。もうされてもいいんじゃない。僕は判決を待つ罪人の気分で目を閉じていたが一向に返答がないので恐る恐る目を開けた。

「朱音さん?」

「え?あ、そう言う事ならじろじろ見てた事は許してあげる」

無罪!無罪を勝ち取ったぞ!これは後世に語り継がれる大誤審だな。

「妹よ!お風呂だぞ」

携帯越しに朱音さんの兄らしき男の声が聞こえてきた。

「あ、お風呂だって」

「うん」

「また変な事考えた?」

「考えてないよ!」

「冗談だって」

お風呂とかそう言うのはね。意識しないよう意識しちゃうですよ。朱音さんはお風呂に呼ばれたのに一向に切る気配がない。

「「朱音さん〈龍ちゃん〉切らないの?」」

電話のラグがあると言うのに二つの声は一つに重なった。

「龍ちゃん電話切りたくないの?」

「うんまぁ……てか朱音さんこそどうなの?」

「私?切りたくないよ」

朱音さんはニタっとした笑みで甘ったるく言った。その言葉で僕の思考は完全に溶けてしまった。

「でもお風呂って言われちゃったからね、いっせーのせで切ろ?」

「う、うん」

「「いっせーのせ」」

 

もう携帯から人間を模した機械の声は聞こえず、代わりとばかりにピコッンというLINEが来る音がした。

「私ボタン押してないから切ったの龍ちゃんだね!おやすみ」

どう考えても最初のいらないでしょ!それにおやすみって僕の頭はまだ甘い声の余韻に浸っている。

「眠れるわけないじゃん……」

 

「お!我が愛しの妹よ。やっと出てきたか」

私が部屋を出ると扉の前で私の兄が仁王立ちしていた。

「何してるの?お兄ちゃん?」

「可愛い妹の顔が見たくてね。それにその服凄い似合ってるじゃないか!」

似合ってじゃないかという言葉をトリガーに私の頭の中にまだ残る彼の言葉が蘇る。

「いやその部屋着朱音さんに似合ってるなって思って」

社交辞令、社交辞令と。

「妹よ、顔を赤くしてどうした?もしかしてお兄ちゃんに似合ってるって言われて照れちゃったのかい?」

「お兄ちゃんに言われても嬉しくない」

私は前に立つ兄を横切り風呂場へと歩いた。

「これが思春期なのか!?待ってくれ妹よ!」

お兄ちゃんのうるさい声を風呂場のドアを閉じて遮断した。部屋着数枚しか無いから新しいの買わなきゃ。

「次電話した時龍ちゃんどんな顔するかな?」

私は龍ちゃん妄想で緩んだ表情を引き締め湯煎に入水した。

 


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