猫
「龍ちゃんもしかして猫触れないの?」
朱音さんはニタっとした笑みを浮かべながら道路の脇に座る白黒の猫を撫でている。
「そ、そんな訳ないじゃん」
嘘だ。僕は大の動物嫌いだ、何故そんな動物嫌いになってしまったのか、あれは忘れもしない小学六年生の夏休み
「お兄ちゃんみてこの柴犬可愛いでしょ」
「そうかな?」
「うん!撫でてみればわかるように」
僕は妹の言われるがままに手を柴犬に近づけた。その瞬間柴犬は僕の手にかぶりついた。僕はその出来事以来動物嫌いになってしまった。基本的に兄妹間の仲はいいがあん時だけは大げんかしたな
「ねーきいてる?」
僕が妹との思い出にふけっていると朱音さんは唇が重なってしまうんじゃないかって距離まで顔を近づけてきた。
「聞いてたよ」
「じゃ私がなんて言ってたか教えて」
朱音さんの質問に対し僕は答える事が出来ずだんまりすると朱音さんは普段見せないようなむくれた表情でこちらを見てきた。何それ可愛いんだけど。
「まぁいいけど、じゃもう一回言うから今度は聞いててよ」
僕は首を縦に振った。朱音さんはそれを確認するとニタっとした表情で
「龍ちゃん猫触れるっ言ってたから実際に触って欲しくて」
「え?あ、朱音さん僕が嘘ついてると思ってるの?」
僕は嘘ついてるとこがバレるとこだったが良い切り返しが思いつき何とか難を逃れた。
「うん!」
と言う訳でもなかった。
「朱音さん僕のこと信用してないの!?」
「普段はしてるよ。でも龍ちゃんよく分からないとこで見栄はって嘘つくからな、しかも分かりやすいし」
全て見抜かれている。やはり僕は朱音さんには勝てないのか?嫌ここで俺が猫を触れれば朱音さんの考察は間違っていることになる!そうだ僕、今ここで限界を超えろ!
「そこまで言うなら仕方ない。触れるってとこを見せてあげるよ」
僕は何とか余裕を取り繕い右手を猫の方に伸ばした。だが猫との距離30センチのとこから先に進めない。やっぱり怖い。
「もう。ほらここ触れば喜ぶよ。」
朱音さんはそう言いながら僕の手首を握り猫に触れさせた。だが僕の神経は全て朱音さんの手に入ってるので猫の毛の感触が全く分からない。
「龍ちゃん、私のこと考えてたから怖くなかったでしょ?」
「朱音さんの手の事なんて考えてないよ!」
僕は朱音さんに手を握られた事と今の言葉でノックアウトし赤面しながらそっぽを向いた。
「誰も手なんて言ってないんだけどなー」
僕は墓穴を掘った事で赤面にプラスして湯気まで立ててしまった。
今度は動物に触れるよう妹に協力してもらおう。