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W・M・S (Warlock Magus System)  作者: 渡野さら
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第6話 勝負の行方

 馬車なら3日程度だが、ルーダのお陰で丸1日。翌日の深夜には到着した。

 したが実は少し手前だ。国境予定だったのだが【邪竜】が国境の城塞都市ベルンを襲い、落としたからだ。

 仕方なく、セレスト平原を挟んだ反対側に陣地を構築し様子を窺う。

 対決はセレスト平原になるだろう。それにしても奴め、我慢出来なかったか。忌々しい。

 俺は地上に降りて仮りの本陣天幕に居る。



「金クラス1位、魔人のメルだ。ヘルゴラント将軍かビスマール将軍は居るか?」


「ヘルゴラント将軍ならいらっしゃる。少し待て」



 どうやら西方軍が主力の様だ。護衛の兵士に取り次ぎを頼み待つ。

 周囲は慌ただしく動き回り、仮設本陣を建設と防御陣地の構築に大忙しの様子だ。

 状況を見渡していると天幕に呼ばれたので向かう。



「よう!メルではないか!お主が討伐本命だと早馬が来たが、大丈夫なのか?」


「ま、問題無いでしょう。ベルンが落とされたのは痛いが………まだ宮廷魔術師連中や聖女も遅れてます。様子見ですね。到着までに動きが有れば仕掛けます。セレスト平原からは出しませんよ」


「頼もしいじゃないか!出来れば俺も個人的に殺りたいくらいだぜ!後続の話は聞いてる。そうだな、陣の準備もまだだし、様子見だな。」


「ですね。将軍と2人で突っ込みたい位ですよ。流石に皆さんの面子や利権を無視出来ませんからね。明日の午前中迄待てば合流するでしょう、途中見掛けましたから」


「ああ。仕方ねえから我慢するかよ。お前さんもゆっくりしな。俺達はやる事無いからな。おい!軽食でも持ってこい!」



 その後はヘルゴラント将軍、数名の側近と近隣諸国の近況や雑談をして仮眠で別れた。

 俺は自分のマジックテントを出す程でも無いので天幕の隅で横になって目を閉じ奴の波動を監視しながら夜が明けるのを待った。



 朝5時、宮廷魔術師10人と魔術師団員100人が合流して挨拶を交わしていると、中央軍の10,000と補給部隊が合流して朝食がてら、顔合わせと担当、討伐後の割り振り等の話合いが行われたが、問題無くスムーズだった。

 司会はイッツェハーフェン筆頭宮廷魔術師だ。



「ではの、僭越ながらこの場の最上位と言う訳で、爺さんの儂が纏め役じゃの。一番乗りのヘルゴラントには申し訳ないが。まず、今回討伐の主役はこのメルツェリン・ニルヴァーナじゃ。金クラス1位の化け物。それと、遅れておるが創神教から【聖女】殿が向かっておる。メル坊自体は討伐に問題を感じておらんが、戦闘の余波が問題じゃの?あの【邪竜】の膨大な魔力からして攻防の際の衝撃波が途轍もない規模になりそうじゃから、部隊の前列に其々障壁担当を配置せねばの」


「ああ。自分の感覚でも衝撃波は数キロに達するだろう。後は”ヤツ”の吐き出す炎弾だな。通常の火炎ブレスと腐食のブレスはそこまで飛距離が無いそうだ。それから、聖女の能力次第だが”ヤツ”の体力と魔力が多過ぎる。トドメを刺す迄に時間が掛かりそうだ」


「だな。障壁班を各隊列の前列、治療班は中程、宮廷魔術師は何時でも動ける様に位置取りして欲しい」


「その後、じゃがの。西方と言う事でベルンの救出と維持管理はヘルゴラントの部隊で。本陣と討伐陣地はビスマールの部隊。魔術師団の大部分はベルンじゃの。追加で王都の各ギルドが此方に向かっておる。邪竜の素材解体や研究、搬出だの。買い取りは国が行う故、軍には陣地構築と安全、規律と機密、不法流出の管理を行って貰う。これらは女王陛下と宰相殿の承認案件じゃから異議は受け付けん。が、問題は随時報告してくれ。特にベルンは絶望的じゃ、何が起こっておるかも分からんでな」


「では、細かい所は各自で調整してくれ。報告が有れば調整に動くでの。暫く待機じゃな」



 が、この場の連中は部下に指示を出してこの場で休憩の様だ。まあ、無駄が無くて良いが。

 武人や魔法使いは自分に自信が有り、我の強い奴等が多いが、この場は俺も面識の有る人間が殆どで比較的に友好的なのが幸いだな。お互いに魔法や剣術の話で盛り上がっていた。





「報告しますっ!!【邪竜】に動き有りです!」

「ついにかっ!」

「メル!頼むぞ!辛くなったら言え、代わってやるぞ!」

「よーし!気合入れろ」


 各々にヤル気十分のようだ。ま、俺が殺るけどな。


「ふむ。メル坊、頼んだぞい。いざの時は総力戦で援護するわい」

「任せてくれ。エリダとも約束したからな。くれぐれも衝撃波被害は頼む」

「む。確りの。聖女殿は到着次第に向かわせるでな」



 俺は頷き、皆を見廻して天幕を出てゆっくりと進む。

 陣地最端でセレスト平原の向こう、黒煙立ち上る城塞都市ベルンが見える。

 そこから【邪竜】が此方に向かって移動している。


 2万の軍から少し離れた当たりで自分の殺気と魔力と霊力を開放する。

 ふん、ヤツも俺を意識したか。待ってな。盛大な花火を上げてやるからな!

 時速80キロで走りながら、長さ30メートルの氷の槍アイスジャベリンを10本空中に浮かべ、発射!

 そのまま飛び上がって【魂喰い】(ソウルイーター)を抜き身のまま時空術から取り出し、ヤツの顔面に叩き付ける!先ずは相手の防御手段と防御力の確認だ!

 連撃で食らわせ氷の槍も全て直撃する。


 ドドドドドドドドドッと轟音と共に衝撃波が拡散していく。

 ヤツが口を開け、至近で炎のブレスを吐くがコートで包み耐える。多少火傷をしたが既に治癒が始まっている。良し、これで耐性が付いた。

 このコートもドラゴンの革とミスリル繊維を編み込んだ特別製だぞ。俺の魔力を流せば殆どの攻撃は無効だ!


 左腕を振りかぶり爪で攻撃するつもりか?同時に火炎弾を撃ち込んで来やがった!炎弾は障壁で防ぎ爪の攻撃は腕ごと蹴りで吹き飛ばす。身体1つ分程吹き飛ばしたが、地響きと衝撃波が酷い。

 倒れたヤツに追撃で剣戟の連続攻撃を喰らわせて障壁を揺るがす。


 防戦になってる間に氷雪の巨大旋風を仕掛けて、隙に全力の左拳を左の腹に打ち込むと素直にめり込む!と同時にもの凄い雄叫びを上げ苦しむ。

 この隙にまた剣戟を連打で入れる!最初の4発は入ったが後は障壁に防がれたか。


 こりゃ、長丁場になりそうだ。1日で終われば良いが………




 ----------



 遂に【邪竜】との闘いが始まった。

 始まったが、なんじゃ?人とはあれ程早く走れるモノなのか?ぬを!走りながら魔法を!しかもあの巨大な氷はなんじゃ?儂の目がオカシイのか?

 飛び上がりおった!30メートルは飛んだぞ?魔力で視力強化しておるから、ハッキリ見える!

 刀を振り被って、魔素がスパークしとる。マズイぞ!

「衝撃波が来るぞい!障壁じゃ!」

 ぐぬぬ!これだけの距離でこの衝撃!至近で喰ろうたら身体が弾けてしまうぞ!

 あやつ、本当に人間か?なんじゃ、あの、力は!

 ブレスを喰らって無傷じゃと!うお、、蹴り飛ばしおったわい!!

 地響きと衝撃波が。ぐぐ、ぬお?この咆哮は

「耳をふさげぃ!恐慌を起こすぞ!!」

 …………わし、宮廷魔術師筆頭なんじゃがの。付いていけんわい…………



 ----------




 同じような攻防が既に2時間か。疲れも感じ無いし焦りも無い。平常状態で推移している。

 少しづつだが体力は削れてる。明日の夕方にはトドメを刺したいモノだが、ん?何かが近づいて来る…………人間の男が10人、小柄な女が1人。【聖女】様の到着か?

 転びながら向かって来る。障壁も張れるようだが、帰した方が良いか?警告はするか。



「オママゴトじゃないぞ!直ぐに連れ戻せ!俺が引き付けておく内に!!」



 牽制と注視の為に氷の槍アイスジャベリンを10本打ち込み、次の10本を用意する。

 次を撃ち込んで【邪竜】が身体をのけ反らせた瞬間に腐食のブレスを吐き出して来た!

 マズイ、と思った瞬間!走り込んで来た彼女が【魔力障壁】と【聖光】を出して防いだ!やるじゃないか!

 この状況で此処まで来た根性も凄いが、中々、咄嗟には動けない。貴族令嬢には勿体無いな。感心感心。



 彼女を左腕で抱き抱えたまま後方へ飛び退り、距離を取る。向こうも警戒しているな。


「少しは殺れそうだな、行けそうか?ん?お前、アノ女神サンの加護持ちか!」



 純粋に驚いた。本物の加護を持つ【聖女】だった。俺も同じだから分かる。

 これならアテに出来そうだし、上手く行けば時間短縮で勝負出来そうだ。どの道、この娘が持たない。


「咄嗟でしたが何とか…………創世神様に貴方と共に在る様に言われました」

「は?…………何を企んでんだか。もっとストレートに助けろっての!ま、いい。名前は?」

「アーシャです!アーシャ・フォン・ボルドーです!」

「俺はメルツェリン・ニルヴァーナ、メルでいい。いくぞアーシャ!」

「はい!」


 頭から全身に土砂を被り、指先や膝は震えているのが分かる。必死に恐怖と戦っているのだな。

 一生懸命に錫杖を振りながら【聖障壁】【魔力障壁】を掛けて自分と俺の防御を行い【水弾】【聖光】で牽制を行っている。


 実際、良くやっていると思う。誰にも出来る事じゃない。凄い女性だ。

 俺とのリズムも良い。攻撃を防ぎながら俺が攻撃すると読んで直ぐに牽制を入れる。テンポ良く攻撃に移れるし定期的に”実弾が決まる”からダメージを蓄積させやすい。ほら、また減ったぞ。



 魔人には相手の能力を数値に表して見る事が可能だ。先程よりも目に見えて減り始めた。

 後はアーシャが何処まで持つかだが…………何?彼女、体力や筋力その他軒並み低いのは分かるが魔力と霊力と精神力が異常な程高いぞ?加護を得る前からの才能か?だから選んだのかもな。

 普通の人間と比べられない位に高い数値だ。魔力なんて俺の半分も有る!初めて見たぞ。霊力の潜在値が俺の3倍だと!!驚いた!これならクソ女神に選ばれても不思議じゃない。聖力の行使も楽で強力な筈だ。

 だけど。一番凄いのは、加護を貰っただけの貴族令嬢がこの戦場に来て、この巨大な【邪竜】を相手に戦える精神力だろう。称賛に値するよ。労ってやらねばな。



 あらから、更に2時間以上。彼女は限界を超えている。いつまで持つか分からんな。

 被害が出るかも知れんが強目の魔法で勝負するか。



「そろそろ殺るか。数十秒、頼む」


 左腕を上に上げて、空中に電気の帯を張り巡らせ圧縮する。もう少しだ。



「待たせた。喰らえ!【落雷嵐】ライトニングストーム


【邪竜】を中心に周囲から極大の雷が放たれる。

 この数百本の電撃で自由を奪う間にトドメをお見舞いするぞ。

 左手の人差し指の先に炎を作り巨大な炎に成長させ、同じ質量、魔力量を小さな球へと圧縮していく。



究極燃焼アルティメットバーニング


 俺は完成したを【邪竜】投げ付けて、アーシャを胸の中に抱き寄せてコートで包む。

 俺の中で縮こまっているアーシャを守りながら障壁を張る。





 轟音と光と熱と衝撃が収まってから立ち上がる。半径2キロ程、のクレーターになっていた。

 あの程度でこの威力か。使用には気を付けないとならないな。

 アーシャを抱いたまま【邪竜】に近付き、波動を確認すると、微かに生きていた。


「さよならだ」


 アーシャには切断を見せたくは無かったので胸に寄せて右腕の【魂喰い】でヤツの首を切り落とす。

 切断面から体液が勢い良く流れ出す。


「終わったぞ。よく、頑張ったな」



 なるべく優しく、伝えた。この素晴らしき女性に敬意を表して。

 成人女性とは言え、まだ15歳。実際凄いな。

 感、極まったのか言葉にならない様で、涙を流し始めた。と、思ったら気絶した。

 一応、彼女のステータスを見る。状態が衰弱になっている。あれだけの酷使だから仕方ないだろう。加護も受けたばかりで馴染んでないのだしな。


 取り敢えず【治癒】を掛けておいたが…………ドロドロだな。土砂と汗と、、失禁もしているな。どうするか…………


 いずれ軍の連中がクレーターの外輪を超え、やって来る。どうする?

 色々と考え2分悩んだが、放置は流石に可愛そうなので洗う事にした。どの道ゆっくり寝かせてあげたいし、好奇の目に触れさせたくも無い。

 創神教などは碌な事に彼女を利用しないのは分かり切っている。

 俺が保護してテントに入れておけば誰も手だしが出来ないから、そうするか。



 直ぐに解体の基地が施設されるから、少し離れた位置に土魔法で石壁を錬金して塀を作り、その中に俺のテントを置いた。

 見た目は1人用の小さなテントにドアが一つ付いただけ。だが、中の空間は広く10メートル×20メートル有る。ガランとしてはいるが仕切りを置けば問題無い。

 一応ベッドは2つ置いて有る。奥にはドアが3つ有り、トイレ・風呂・厨房になっていて宿暮らしと遜色無く過ごせる様になっている。



 先ずは洗うか。浴場に入り服を全部脱がせて全裸にする。全身を湯で洗い流して外傷が無いかを調べる。

 良かった。小さな打ち身や切り傷は有ったが、先程の治癒で治り始めているから問題無さそうだな。一応石鹸で身体と髪の毛を洗ってやり、髪の毛はターニャが使っていたオイルを塗って軽く流す。


 俺も下着以外は脱ぎ捨てて脱衣所に出て彼女を乾かす。

 ベッドに寝かせて毛布を掛けてから、俺も汚れを落としに風呂へ行き、ついでに彼女の衣類を洗ってから乾かしておく。

 俺も着替えてからアーシャの様子を暫く見てから外に出る。



 丁度、軍の先発隊がクレーターの中に入って来て、此方に向かっていたので待つ。


「ご無事でしたか!自分は中央方面軍第一連隊北方大隊所属、キルヒハイム中隊長です!邪竜討伐、お見事でしたっ!窪み内を確認後に本陣へ連絡!以降は師団単位で入場、現場設営に入ります。創神教の面々が来られる迄、我々がテント周囲を警戒に当ります!」


「ああ、お疲れさん。確実に息の根を止めたのは確認しているから、魔物と不埒者に注意してくれ。聖女は疲労が濃いので治癒は掛けておいたが睡眠中だ。暫くは安静が必要だろう。以上だ」


「了解しました!」



 何か凄いハキハキした奴だな。軍人はあんなモノかもな。

 暫くアーシャは起きないだろうから、邪竜の周りを見て回り異常が無いか確認する。勿論、本体の確認も行う。変わった部位は入手しておきたいしな。

 取り敢えずは氷風魔法で体表を凍らせておく。体液流出と劣化を防ぐ為の措置だ。


 しかし、改めて見ると大きいな…………中々こんなのと戦う機会は無いぞ?アーシャも頑張ったな。凱旋する迄はなるべく守ってあげ…………ん?そう言えばだが『創世神に共に在れと言われた』とか言ってたな。まさか俺とこの先一緒に居ろと言われたって事なのか?なのか?いやいや、まさかな。有り得るぞ?なにせ、『あの女神』だからな……

 アーシャの様子でも見に戻ろう。


 テントに入り、まだ寝ているのを確認してベッドの横にテーブルセットを出して椅子に座る。

 果実水を水差しとグラスに入れておく。


 改めてアーシャを見る。規則正しく胸が上下して身じろぎ1つしていない。

 綺麗な顔立ちと髪の毛も美しい錦糸のような金髪。染みの無い白く滑らかな肌。深窓の令嬢として大切に育てられたのだろう。少し低めの背と細い身体、大きな胸。

 これだけ揃ってて、更に優良な領地経営で財力の有るボルドー家の令嬢か。なのに未婚とは。

 これから聖女としても名を売られるのだから、大変な事になるだろう。俺と一緒に居るなど不可能だと思うがな。此処から帰る迄は守ってやらねばな。



不定期ですが安定まで頑張ります

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