第4話 暗雲
投稿しちゃいました。どうぞ
ギルマスのダンカンと顔を合わせた。
ダンカン・グッドスピード。冴えない強面のオッサンではあるが、彼も現役当時は金クラス3位の冒険者だった。らしい。
「おう!悪ぃな。昼だし飯でも食いながらどうだ?」
「ああ。構わない。ターニャは?」
「お邪魔で無ければご一緒します」
じゃ行くかとか言いながらダンカンが出て行くので着いて行く。
表通りに出てから少し歩き横路地に入ると、小じんまりとした雰囲気の良いビストロが佇んでいた。
中に入ると内装も程良く品が有り、給仕係りも雰囲気を壊していない。
俺達は2階席に行き、腰を据える。
おれはエールを2杯とボアのステーキ。ターニャは果実水と海鮮パスタ。オッサンは肉の盛り合わせとエールを頼んでいた。肉の盛り合わせ?
「ターニャ、具合はどうだ?」
「あ、えっと、大丈夫です。有難う御座います」
耳まで真っ赤になって果実水を飲みながら誤魔化している。
「なんだ?おめぇ身体悪ぃのかよ?」
「い、いえ、大丈夫です」
「…………ま、いいけどよ。上手くやれよお前ら。こいつは人気有るらしいけどメルなら文句も出ねえってか。ギルドはその辺口出ししねぇからよ。っと、話ってのはそんな内容じゃねぇ。メル、お前さんデカブツ相手はどの位自信あんだ?」
「ん?なんだそりゃ。まぁ、大きさは関係無い。能力と状況次第だ」
そこで料理が来たので取り敢えず食べ始める。ふむ、結構美味いな。ターニャも嬉しそうだ。オッサンの肉を流し込む作業は見るに堪えん。アイツ絶対飲んでるぞ?
食べ終わり、ターニャはデザートを俺達はエールを頼む。
「話の続きだが…………隣国のオストラバに竜が現れた。昨日の半日で町が3つ消えたらしい」
「え…………」
ターニャがスプーンを落としてしまったので、魔法で綺麗にして渡してやる。
「その竜だが、報告によると全長150メートルを超える古代竜らしい。おまけに炎と腐食のブレスを吐く」
「ふむ、その位の相手じゃないと最近、運動不足でな」
ターニャは顔面蒼白で指先が震えている。
仕方無いのでテーブルの下で手を握って落ち着ける。
「間違い無く数日中にお前に討伐依頼が国から出るだろうな。オストラバか、滅亡した後にウチの国か、はたまた周辺の連盟でか。心の準備はしておけよ。多分、どの国がどの戦力を出しても無理だろう。討伐出来る可能性が有るとしたらお前さんだけ、だろな」
「任せろ。オッサンに鱗でもプレゼントしてやるよ」
「め―――メル様ぁ」
ターニャの涙腺が決壊したので一先ず店を出た。
ギルドに戻っても調子が戻らないので、休ませる事にして一緒に屋敷に戻り寝かせてから、派遣組合に行ってメイドの件を頼む事にした。料理はキッチンメイドでも良し、洗濯等も有るのでオールワークスメイドでも良し。今日中に面接して、明日には5人程向かわせるとの事だった。
住み込みで、同居人の関係上女性が好ましい事。侍女の仕事が出来る者が居れば尚良しで。給金は月額金貨2枚と銀貨5枚で衣食住はこちら持ち。昇給有り。
銅貨=100円程度・大銅貨=1,000円程度・銀貨=10,000円程度・金貨=100,000円程度・白金貨=1,000,000円程度・光金貨10,000,000円程度
夜中、眠る必要も無いので寝室のベランダに出てワインを飲んでいたらこっそりドアが開き、ターニャが入って来て俺の背中にしがみ付いてきた。
「怖いです。凄く。どうなっちゃうんでしょうか……」
「どうにもならん。俺が古代竜の首を落とす。それだけだ。もう寝ろ」
ターニャは渋っていたが、背中から離れて俺のベッドに入って行った。
溜息をつきつつ俺も仕方なくベッドに横になるとターニャが引っ付いてきた。これ位は仕方ないか。
しかし。どう言うつもりだ?とは言えんな。ターニャの気持ちは察しが付いている。
ソニアは……依存と義務感、罪悪感、存在理由や価値と言ったとこか。だが、そんな事は言い訳にはならんだろうな。未通女では無いのだから責任は………責任?どんな形が良いのだ?いつ死ぬか分からん冒険者業など遠慮して欲しかったとこだ。
それに俺は、いや。
まあ、金は有る。2人が一生どころでは無い額が。それを保険にして貰おう。一応な。
考えていたら朝が来た。
睡眠は必要ないので問題無い。無いが眠りたいとは思っている。
だが合理的では無い。だから眠らない。
彼女達の事も合理的に解決するなら金で保証する。愛人の様な都合の良い関係で納得させる。俺も含め、誰も交際やプロポーズなどは言葉にすら出していないからそれでも構わないはずだ。
だが、それは、人として駄目な筈だ。恐らく最低だ。壊れていても何となく分かる。不正解だ。
ならどうすれば?感情が薄い俺には分からない。
相変わらずターニャは俺にくっついて寝ている。
頭を撫でてみる。綺麗な栗色の髪の毛で小さい頭。
肩を抱いてみる。細く小さい。成人女性の平均的な背格好だとは思う。
皆、その小さな身体で一生懸命生きている。何かの縁でこうなったからには守らなくてはな。
本人達にも幸せの形が有る筈だ。希望を聞いてみよう。
まだ朝の6時。1人ベッドを抜け出し、服を着る。
守衛の連中に挨拶をして少しの雑談、庭に移動して刀を出す。
【魔人】は生まれながらに独自の時空術を持っているらしい。その中に個人専用のアイテムを持っている。
俺のは、この【魂喰い】だ。文字通り魂を喰らう。俺の許可なく触れた者は魂を喰われてしまう。
刀身150センチ、刃渡りが120センチの刀と呼ばれる型をしている。この大陸ではめったに目にする事が無い剣だ。
腰の剣帯に両刃のショートソードを差しているが、これはまだ師匠と一緒に居た頃に古代遺跡で入手した魔法剣で、刃毀れしても折れても自動再生する優れものだ。切れ味も鋭い。
なるべく毎日振る様にはしている。身体も剣筋も鈍るからだ。
2種の剣と刀を振ってる最中にソニアが起きて庭の隅で見ている。
鍛錬が終わると脱いだ服をソニアが持って一緒に屋敷に入る。俺はシャワーでソニアは俺の着替えと朝食の準備だ。
そうこうしているとターニャが起きて来てソニアと厨房に入る。仲は良さそうで何よりだ。
3人で朝の食卓を囲む。
普段、1人などの依頼で出ている時は食事をしない。必要が無いからだ。
何時からだろう…………食事も睡眠も必要無くなったのは。いや、明確な時期は無いな。徐々にだ。
全てが徐々に必要無くなった。気が付いたら疲れ難くなって眠気が来ず腹が減らなかった。危険や重圧に対する無駄な緊張も無くなり、常に一定の精神状態になり、人間が俺をどう見ようとどう扱おうと気にならなくなった。
魔物と一緒だった。邪魔なら排除する。それだけだった。
ただ、国や町は人間の作ったモノだ。最近はそれなりには気を遣ってはいる。排除は最終でいい。そう思う事にした。
でないとトラブルばかりが増えて煩わしいのだ。
理屈では分かってはいた。ソニアの件は俺にとって良かったのだろう。一緒に住んで守らなくてはならないから、気を遣った。
屋敷に居る時はなるべく一緒に食事を摂ったし眠る様にもした。ソニアの息抜きも考えて、出掛けてみたりもしたし買い物も一緒にしてみた。
俺に、少しだが人らしさ。を、思い出させてくれた。
そんな事を思った。
食後に3人でお茶を飲んでいる時に、2人が今後どうしたいのか聞いてみた。
「わた、私は、その、いつか…けっ結婚、したい、です。けど、贅沢言いません、から、おおお妾さんでも………せん」
ターニャはどもりながら答えてくれた。
『メル様は私の命なのでお傍に置いて貰えるなら何でも構いません』
ソニアは紙に書いて見せてきた。
やはり、2人には説明をしておいた方が良いだろう。
「2人共礼を言う。こんな俺に着いて来る女だ、幸せにしてやれるか分からんが、大切にしたいとは思うし守ると約束する。ここからの話は、お前達だけにだから他言無用でな。
俺は人間族では無い。魔人族の生き残り。その最後の1人らしい。その証拠に食欲、睡眠、性欲、精神、毒物……これらに耐性が備わっている。即死攻撃でない限り肉体も再生する。
俺には12まで一緒に生活し、冒険し、様々な事を授けてくれた師匠が居た。師匠が【混沌の者】と呼ぶ連中が偶にこの世界にやってくる。違う世界の者達らしい。師匠の最後はそいつ等と黒い渦に消えてしまった。師匠が言うに、俺の使命は、この”世界を守る”事らしい。
俺はその師匠の言葉を守ろうと思っている。色々と分からん事だらけだが、自分のルーツと師匠の行方を探る事が全てに通じて行くと感じているのでな。だから竜など心配するな。準備運動だ。
それから、俺が死ななくとも何らかの理由でこの世界に帰って来れなくても、お前達が一生、子を産めばその子達含めても使い切れない金は残して有るから心配はいらない。地下室に保管して有るから後で教える」
「その、お話は、分かり、いえ、何となく、分かりました。私達はご一緒、できません。だから、ここで、メル様の帰りを、毎日お待ち、します。ね?ソニアさん?」
ソニアも首を縦に振り、笑顔を向けてきた。
「あ、で、出来、ればで、こど、あの、お子が、授かれば、う、嬉しいです」
ソニアが激しく首を縦に振っている。分かったから。なるべくな…………
がんばります!