表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
W・M・S (Warlock Magus System)  作者: 渡野さら
2/117

第2話 彼を知りたい

 んぅ…………意識が浮かび上がって来る。


 うっすらと目を開く。

 彼が気付いて優しく微笑む。

 安心して、右手に繋がれた熱に安心して、再び目を閉じた。





 はっと目覚める。

 顔を動かし周りを見ると、私の背程のパーテーションでベッド周りが仕切られていた。

 彼が見えない事に、繋がれていたはずの右手の喪失感に寂しくなって、彼を探す為に起き上がる。

 まだフラつくけど頑張って立ち上がり、パーテーションに近付く。少し押してみると簡単に動いたので、隙間から出て行く。


 彼は離れた位置で床に座りショートソードの手入れをしている。そんな様な背中だった。

 緑色の作業着に似たズボンにタンクトップ姿でシルエットは逆三角形で露出の肉体は皮下脂肪の無い筋肉質の引き締まった身体。少し長めの灰色の髪の毛。

 無数に刻まれた傷跡が、彼の強さと歴史を物語っている様で撫でてみたい衝動に駆られる。

 ゆっくりと振り返った彼は、立ち上がり剣を腰の鞘に納めて近寄ってくる。

 私も、フラフラと彼に近寄り胸に寄り掛かる。

 そんな私をサッと抱き締めて支えてくれた。こう言うスマートな所も好き。


「よかった…………居てくれて」


 思わずそんな言葉が口から出てしまった。

 凄く恥ずかしいしドキドキして鼓動がうるさい!聞こえてないかな?とか考えていても、この安心感が手放せなくて満足するまで抱き締めてくれたの。


 一頻りして、何か食べるかと聞いてきたので飲み物だけにする。

 それとお風呂に入りたかったので、その旨を伝えると脱衣所まで支えて来てくれた。

 棚にタオルと着替えのワンピースを数着置いて出て行った。

 出て行ったのは残念だけど、まさか一緒に入る訳にも行かないのだからガウンを脱いでお風呂に入る。


 以外に広い浴場で驚いた。掛け湯をして石鹸で身体を綺麗に洗い、髪の毛も丁寧に洗髪し、流す。

 髪の毛を上で巻いて崩れない様に慎重に湯に浸かる。気持ちいい…………色々な事が溶け出していくみたいに軽くなっていく。その分自覚してしまったの。


 好き。

 さっき何気に自分の内で呟いた事。

 仕方無いじゃない。もう、そうなってしまったのだから。チョロイン?好きに言って下さいまし。

 まあ、それはそれとして恋愛ばかり考える訳にもいかないわよね。こんな状況で。


 ちゃんと温まって湯舟を後にし、脱衣所で身体を拭く。まだフラフラしてちょっと怖いけど、棚にもたれて服を見てみる。

 シンプルで色やサイズ違いのワンピースが数着。一番サイズが合いそうな物を着て、タオルを頭に巻き脱衣所を出ると、直ぐに彼が来て支えてくれる。


 手を引いて貰いながらゆっくり歩を進めて椅子に座るとテーブルには食事が置かれていた。

 スクランブルエッグにベーコン、パウンドケーキに紅茶だった。

 軽めで嬉しい。紅茶も。

 どうやって入手したのか聞いてみると、彼独自の”時空術”という魔法で疑似空間を作りだし収納しているのだと。ワンピースもそれらしい。

 女性を救出した場合、悲惨な事だけれど裸なのがほとんどらしく、その対応の為と教えてくれた。

 食べ終わってお茶を飲んでいると、彼が私の後ろに回り髪の毛を撫で始めた。

 どうしたのかと思ったら髪の毛が乾いていくの!手櫛の要領で髪を梳くと、端から乾いて驚いた私は方法を聞いてみたの!自分でもしてみたくて。

 これも彼独自の魔法らしくて………残念です。


 パーテーションの向こうにソファーとローテーブルが増えていて、抱っこされてそのソファーに降ろされて広目の膝掛け?を掛けてくれる。

 テーブルにお茶と本を数冊置かれて、詰まらないだろうけど暇潰し用にって事みたいでした。

 ソファーに横になってる私に手を添えて【治癒】を掛けてくれる。でも、これって…………


 彼が、メル様が、治癒魔法を掛けてくれたのだけれど、水属性のヒールとも、神聖魔法のヒールとも違う!

 こんな癒しの魔法は見た事も聞いた事も無い!だって私は両方使えるんだもの。こんな癒しらしい癒しの魔法って………これこそが本来の治癒だわ!凄い!こんな魔法を使える人が居たなんて!


 これも聞いてみたの。やっぱり彼独自の魔法で残念……

 この治癒は他には無い、病気や精神の癒しにも効くらしくて万能魔法です。

 でも、もしかしたら将来、私は使える様になるかもって。理由は教えてくれませんでしたけど。




 その後、彼は2時間私と共に過ごして、2時間外に出ている。と言う行動を繰り返していた。

 一緒に居てくださるの嬉しいのです。本音はずっと居て欲しいと思ってます。

 けど、彼もお忙しいのでしょうから我儘も言えないし…………でも寂しいし不安なのです。


 夜、夕食を食べながら疑問に感じた事を恐る恐る聞いてみる事にしました。


「メル様は私との食事はお嫌なのですか?」


 帰ってきた言葉は意外を飛び越えていました。

 偶に食べるけど基本的に食事が必要無いと。食欲すら無いのだと。だから私との食事が嫌では無く、食べないのだと。

 衝撃の内容でした。放心してしまいました。

 子供の頃はまだ、普通だったらしいです。ですが、強くなるにしたがって徐々にそうなって行ったみたいで、1日中戦闘をしても疲れない肉体、何日寝てなくとも睡眠欲求が無く、何も食べなくても食欲すら湧く事無く動き続ける事が出来、それによって精神が揺れる事も無い。

 食欲耐性、睡眠耐性、性欲耐性、毒物耐性、麻痺耐性、精神耐性、魔法耐性、斬撃・衝撃耐性………

 とても人では無いよ。まぁ、魔人なんだがって、苦笑いされてしまいました。


 黙って食事を摂り、食後のお茶も黙って飲みました。

 色々と衝撃的過ぎて思考がぐるぐると巡り纏まらなくて。でもベッドに運んで貰った時にはお願いしました。

 眠るまで手を握って欲しいと。



 私は今、ベッドに横になり両手で彼の左手を握っています。

 彼はベッドサイドにイスを置き、そこに座って右手で本を読んでます。

 私は彼を見つめています。

 彼は本を読んでいます。

 私は彼を見つめています。

 彼は本を読んでいます。いえ、彼の事ですから気付いてはいるのだと思います。

 でも本を読んでいます。私が見つめているのに。

 どうせ私は恋愛耐性の無いチョロインですから、見つめたら見つめ返して欲しい!!

 何て事では有りません。


 彼の話を聞いて孤独な人だと思いました。

 彼自信がそれを何とも思ってもいないし孤独に気付け無いのです。

 そして人に向ける仕草も恐らく反射的なもので、周りが不快や不信を感じない様にする為の防御策ではないかと思ったのです。

 ですが、あの笑顔や褒めて貰った時の優しい声は信じたいのです。

 だから、もっと彼を見つめたいし、私の事も見て欲しいと思ったの。

 この、手の温もりを一緒に感じたいの。



 少しゴソゴソ動いて、手を少しだけ強く握ってみました。

 案の定、此方を見てくれたので手を引き寄せましたら、諦めて本を閉じて身体ごと寄せて来ました。

 私も端に身体を寄せて手は握ったまま胸元に引きましたの。

 当然、顔の距離も近いです!鼓動はバクバクで耳まで赤いと思います!

 でも…………彼にこの鼓動と熱さが伝わって欲しかった。

 お互いに見つめ合ったまま、私は自分の鼓動がいつしか2種類有るのに気付いたのです。

 そう、彼と私の2人分でした。それが凄く嬉しくて溢れた涙が止まらなくなって、ハンカチで拭いてくれるのがまた嬉しくて。

 いつの間にか寝ていました。





 朝?起きると嬉しかったのは

 彼の手と腕と頭が私の胸元に有って、ベッド端にもたれて寝ていたのです。

 彼の頭を胸に着けて撫でていると起きたみたいで


「アーシャの温もりが伝わって安心出来たんだ。ありがとう」



 私は嬉しさの余り、もっと彼に抱き着いて頭を撫で続けた。



 その後の数日、凄く自然に距離が近づいたと思うんです。

 相変わらず体調が戻らず彼の特殊なテント?暮らしでしたけど、まったく不安も不満も有りません。

 恐らく、色々な柵や利権の駆け引きから守ってくれてたんだと。


 討伐から5日後、軍が用意した豪華な馬車に私とメル様、女性神官と女性騎士に守られて、3日の旅程で王都に戻りそのまま凱旋パレードで【聖女】としてお披露目されました。

 その間も彼は離れず面倒を見ながら守ってくれてました。


 王都の中を巡り、そのまま王宮へ直行。

 謁見の間で女王様からお言葉を頂き勲章を。私は正式に創世神様の加護を頂いた、救国の【聖女】に。

 彼は世界で只1人の【白金】クラス冒険者。2つ名、最強の【魔人】へと。




 そうして、私の【聖女】としての初の

 伯爵令嬢の私が【冒険者】としての初の

 最強の【魔人】のパートナーとしての初の


 邪竜討伐は終わりを告げた。


本当に、表現ってムズカシイです……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ