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W・M・S (Warlock Magus System)  作者: 渡野さら
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第1話 私と彼

 



 -----それは3年程前の事



 ストラスバルト王国 682年

 ベルン平原




 目の前の平原で繰り広げられる世界は圧倒的だった。



 私の傍には創神教の神官さん達と神殿騎士さん達、後ろには万を超えるストラスバルト王国の軍勢が詰めていて、皆が言葉無く平原での戦いから目が離せなくなっていた。


 この陣地からあの戦場まで3~4キロは有ると思う。比較の対象物が無いから良く分からないけど………

 それだけ離れていてもハッキリと分かる。巨大な古代竜エンシェントドラゴンの姿が。


 そしてその相手も異常だと。この距離だから当然人影は粒の様に小さく、見えるか見えないか。

 なのに、古代竜が吐き出した巨大な炎弾を弾き飛ばした残火や衝撃波が此処まで届く。彼の打ち込んだであろう拳や斬撃の衝撃波でアノ周囲1キロ程が更地になっている。


 私はその異次元の戦いに見惚れ、感動し、放心し、恐れた。

 恐怖と緊張で身体の震えが止まらない。

 思考が纏まらないし身体が言う事を聞かない。最初の1歩がでない。


 でも、行かなければ。彼の元に。

 『魔人』の異名を持つ、最強の冒険者である彼の傍に。

 私が行かなければ。他の誰でもなく私が。

 何故?それは私が選ばれたから。

 創世神様に選ばれたから。加護を頂いたのだから。



「い、行き…………ま……………………す」


 緊張でカラカラの喉から、掠れた声を何とか捻り出し、右足を1歩前へだした。

 すると、何とか2歩目が出た。3歩目も出た。

 相変わらず身体は重いし膝もガクガクしていたけど、歩幅も小さいけれど、それでも足は出て進む事が出来た。

 以前の私からは自分でも考えられない。こんな、大それた事。

 私はボルドー伯爵家次女で、いわゆる深窓の令嬢と言われる貴族子女。屋敷から出るのは神殿でのお祈りか淑女のお茶会くらいで、屋敷の庭園が私の世界の大半を占めていると言っても大袈裟では無い程。


 そんな私が大軍を背に、古代竜と彼が戦う戦場に1歩1歩近付いている。

 この緑豊かな草原地帯は戦いの余波で無残にも荒野に様変わりした。地面は隆起し、陥没し、火の手が上がり、爆炎と土砂が舞う場所に。

 まだ数百mしか進んでない。なのに”邪竜”が随分近くに見える気がするの。

 遠くに黒煙の上がる場所が見える…………この地に一番近い国境の町。城塞都市ベルン。

 既に邪竜によって成す術もなく陥落。

 その向こう、国境を越えた場所に有る隣国のオストラバ王国は、邪竜により滅亡しました。

 小国とは言え強力な軍事力を持っていたにも関わらず、抵抗すら出来ないままに国土を蹂躙され地図から消えました…………


 そんな邪悪で暴力の化身と戦える彼も、既に人の枠を超えた存在なのかも知れません。

 そこに私も?正気の沙汰ではありませんね。でも…………きっと、彼の力になれるはずです。この加護の力があれば。

 どのみち、彼が倒れればこの大陸はお終いなのだから、選択肢なんて最初から無いのですけどね。





 目的地まで1キロを切りました。邪竜なら数歩で届きそう。だって、身の丈が150mは有るでしょうから。

 お供の騎士達が何か叫んでるけど、周囲の爆炎と衝撃波で良くきこえない。

 私達は皆、頭から土砂を被り何度も衝撃波と地響きで倒れながらやっとここまで接近した。

 巨大!その事実が圧倒的で頭がうまく動かないの。夢遊病者の様に。

 すると突然、”その声”は澄み切った様に耳に届いた。



「オママゴトじゃないぞ!直ぐに連れ戻せ!俺が引き付けておく内に!!」


 彼はそう叫ぶと邪竜に手を向け、巨大な氷の槍を打ち出し始めた。

 私は騎士達に、戻って下さいと告げて走り出した。

 怖かった。恐怖で震えて関節もうまく動かないけど、夢中だった。


 漸くたどり着いた。その瞬間、邪竜は身体をのけぞらせながらも暗黒のブレスを吐き出した!

 私は瞬時に【魔力障壁】と【聖光】を発動させ防ぐ。


 それには彼も邪竜も驚いたように見えた。

 不浄を祓う【聖光】が効いたようで、ブレスは消え邪竜が怯んだ様に後退った。

 その隙に彼が私を左腕で抱き上げながら後ろに飛び退り、話掛けてきたの。


「少しは殺れそうだな、いけそうか?ん?お前、アノ女神サンの加護持ちか!」


「咄嗟でしたが何とか………創世神様に貴方と共に在る様に言われました」


「は?…………何を企んでんだか。もっとストレートに助けろっての!ま、いい。名前は?」


「アーシャです!アーシャ・フォン・ボルドーです!」


「俺はメルツェリン・ニルヴァーナ、メルでいい。いくぞアーシャ!」


「はい!」



 防御と牽制は任せた、と言いながらメル様は邪竜に飛び掛かり剣戟を叩き込む。

 自分に障壁を展開しながら衝撃波を防ぎ、【聖光】を浴びせる。怯んだ隙にまた叩き込む。

 邪竜が長大な尾で叩き潰そうとメルに迫るも、私が【魔力障壁】と【聖障壁】の重ね掛けでメル様を防御して、その隙にメル様が邪竜の頭を上から殴り落とす。

 ドドドドドドドドドッと、爆音そのまま拳の連打で叩き潰す。

 私は障壁で自分を守るけど、彼が殴る衝撃波で障壁がビリビリ揺れてる。


「いい流れになって来た。このまま奴の体力を削るぞ!」


「はい!」



 この後、数十分?何時間?私が防御と牽制をして、出来た隙にメル様が攻撃、を繰り返して徐々に邪竜を追い詰めていった。

 もう無我夢中だった。体力なんてとっくに限界を超えてたし、魔力や神聖魔法がどこまで持つのかも考えられなかった。

 身体中汗まみれの泥まみれで失禁もしていても気付かない程に張り詰めていたの。

 すると彼が…………


「そろそろ殺るか。数十秒、頼む」


 そう言って左腕を上に向けたの。

 その間に私は、邪竜の上から【聖光】と【聖障壁】で抑え付け時間を稼ぐ。



「またせた。喰らえ!【落雷嵐ライトニングストーム】」


 メル様が左腕を振り下ろすと無数の雷が四方八方から邪竜を襲い落雷の轟音が響き渡る。

 数十秒間、極太の稲光が数百本発生して辺りは眩い光に包まれる。その間にメル様が左手の人差し指を出し、炎を出す。あっという間に巨大な炎になると、今度は小さく縮み始める。

 物凄く高温高圧の熱量と魔力量の小さな炎の玉が完成した。



究極燃焼アルティメットバーニング


 メル様が人差し指を邪竜に向け、その”小さな玉”を投げ付けると同時に、私を自分の胸に抱き締めてコートで包み込まれた。


 瞬間!物凄い光と爆音と衝撃波と地響きで、彼の胸にしがみ着いてギュッと目を閉じた。




 どれ位で収まったのか分からないけど、彼に抱かれたままゆっくり目を開けた。

 どれ位?2キロ程かしら?クレーターになっていて、私達はその中。その中心で邪竜は左腕と左翼が消失して焼け爛れ、横たわったままピクリとも動かない。

 抱かれたまま一緒に邪竜へ近づくと、彼はボソリと”さよならだ”と呟き、私を胸の内に収める。

『ブゥン』『バシャバシャ』と、静まり帰ったクレーターにその音だけが響く。

 場違いに”優しいんだな”なんて思いながら、彼を見上げた。



「終わったぞ。よく、頑張ったな」


 凄く優しい声色で囁く様に小さく、でも確りと伝えてくれた。

 そんな風に言われちゃったら…………途端に鼓動が早鐘を告げて響く。彼に聞こえてないか心配になる位に。

 様々な覚悟や恐怖、緊張と安心が混ざりあって涙が溢れる。



「…………ぁ…………うぇ、と…………」


 うまく言葉に出来ない。顔を見たいのに涙で滲んだ、彼の仮面しか見えない。

 そのまま私の視界は暗くなって、意識を失った。









 うっすらと目を開ける。

 何処だろう?静かな室内のベッドに横たわって毛布が掛けられているのは分かる。

 すると、横から声が聞こえたの。


「大丈夫か?痛む所は無いか?」


「ぁ、ど…………」


 喉が掠れて声が出ない。

 すると彼が頭を起こして何か飲ませてくれる。

 あ、おいしい。果実水かな?”こくっこくっ”っと喉を鳴らして飲む。

 チラチラと目だけ動かし彼を見ながら少しづつを一生懸命飲んで、少し心地が着いた。



「あ、あのっ!…………か、お顔が、見たい、です」


 何だか緊張して変な言葉になってしまったけれど、彼は”ん?ああ”とか言いながら背中の大刀に触れた。

 すると、大刀と顔の仮面が消えて素顔が露わになった



 その、何て言うか…………中性的な綺麗な顔立ちに、グレーの瞳にグレーの髪の毛。うん!いい!良いと思います!ドキドキが凄いです!創世神様、有難う御座います!!

 私だって乙女なのです!幾らお告げでも、粗野で下品で顔立ちの残念な殿方と共に在れといわれても、ハイそうですか、とは行きませんもの!と言うか無理です!

 でもメル様なら安心です。背はかなり高いけど、筋肉質で引き締まった身体。キレイなお顔と瞳。優しそうな声と気遣い。

 で、何と言っても大陸最強の冒険者!今回の事で名実共なのは間違い無し!絶対確実優良物件!!

 良かったぁ~!お告げを受けてからはバタバタしたり覚悟も要ったりで、こんな事まで考えが及ばなかったけど、この先ずっと共になんて婚姻と変わらないじゃないですか!

 あの時、孤児院でお会いした方ですよね………


 そんな事を考えながら見つめていたものだから段々恥ずかしくなって来て、何か言わなきゃとおもいながらモゴモゴしてると………


「どうした?どこか異常が有るのか?」


「っう、あの…………その、えっと、む胸が、ちょっと………」


「ん?胸?フム。先程調べた感じでは擦り傷と打ち身の外傷以外に異常は無いと思ったが。肉体と魔力は極度の衰弱状態だったが【治癒】を掛けておいたから問題無いハズなんだが、もう一度掛けておくか?」


「あ、そうなんですね。種類の違うドキドキ、いえこちらの話で………ならあんし…………え?今、調べたと…………」


「ああ。悪いとは思ったが、あのまま放置もできなかったしな。洗うついでに怪我も確認しておいた」



 え?メル様の言葉と状況が…………私はゆっくり視線を毛布に移したの。足元の方には綺麗になった司祭服と下着が畳まれて置かれていたの。

 これって、アレですわよね…………私は毛布の内側で左手をモゾモゾ動かして毛布を少しだけ浮かせて中を確認……………………まぁ、そうなるわよね。

 いえ、分かりますよ?確かにあのまま放置されるなんて、残念どころか乙女としての終わりと同じなのですから。でもですわよ?だからって裸にして隅々調べて洗うなんて、同性でも戸惑う事を殿方にされるなんて!乙女の柔肌と純潔を屋台の串焼きか何かと勘違いされてません?これは抗議が必要です!

 私は真っ赤になって、無言で彼を見つめる。もう泣きそうだった。



「あーゴホン、悪いとは思ったぞ?だが、あの状況で君をあのまま放置出来ないだろ?」


 じ―――――


「駐屯してた軍も君の護衛連中も来るのに、あの状況で良かったのか?」


 じ―――――


「色々と汚れてもいたし、それを人目に晒すのも酷だろ?女官が来るかも分からんし」


 じ―――――


「かなり衰弱してたし、怪我だって心配だったしな」


 じ―――――


「普段、野盗やモンスターから女性を救出した時はほぼ、全裸だから安心しろ」


 じ―――――


「いや、どうし」じ―――――


「…………すまん」じ―――――


「もうしw」じ―――――


「ぅぐ、責任を取れと言うn」ㇹんとう、ですかぁ?」


「ま、まぁ、未婚の貴族女性の肌を見たん」じ―――――


「えっと…………」じ―――――


「…………」じ―――――じ―――――


「」じ―――――じ―――――じ―――――


「婚約してお」はい!此方こそ不束者では有りますが、末永く宜しくお願い致します。旦那様!!」


「は~、まったく。何を」ぉぃゃ、ですか?」


「嫌ではない。その、美しかった。まぁ、後程、ちゃんと話す。今は邪竜討伐の話だ。いいな?」


 はぃ………と、消え入りそうな返事しか出ず、毛布で鼻先まで隠して話を聞くことにしました。



「まず、討伐成功、頑張ったね。で、気絶。放置はマズイと思い洗って治癒を掛けた。怪我も心配だったし。切り傷や打ち身は大した事無いモノばかりだったから、完全に痕も残らないから安心してくれ。綺麗な肌だったから。あ、服も洗って乾かしたから大丈夫だ。それから王国軍の先陣が来てな、ここに陣地構築して研究班と素材解体と警備な。本体はあそこで駐留と引き上げ。冒険者ギルド、魔術師ギルド、商人ギルド、等々が今から合流するみたいだ。君の護衛と」アーシャです」アーシャの護衛達は向かってるみたいだな」


「あの方達は創神教の神殿騎士で、神官さん達も居ますが女官は居ないので。あ、あの、これから、どうなる、ん、でしょうか…………と、言いますか、ここは何処なのですか?」


「そうか、なら面会は止めて暫く寝ていればいい。ここは邪竜を倒したクレーターの中。で、この部屋は俺のテントの中だから誰も来ないし人目も無いし安全だ。安心しな」



「えっ?テント………なのですか?静かだし、どこか屋敷の一室かと思う程です。それと、喉が渇いてるのと少しお腹がすいたので何か手に入りますでしょうか?」


「水差しはテーブルの上に置いて置く。食事は何とかなるな。俺ので良ければガウンでも着ておくか?それから、あのドアがトイレであっちが風呂、真ん中のドアが調理室だ」



 そう言いながら右手で何処からともなくガウンを取り出し調理室に入っていった。

 まだ、かなり怠いけどベッドから起き出し、ガウンを着て椅子まで這って行き、何とか座り果実水を飲む。

 少し落ち着いて来たみたい。ゆっくり室内を見渡すと、簡素だけど広くて綺麗な室内。とても静かで落ち着くわ。さっきは極まってたけど、落ち着けば一連の事も仕方ないと思えて来る。感情は別ですけど。

 いま、外はどんな事になっているのかしら?お父様やお母さま、お兄様夫婦とお姉さま夫婦に弟。屋敷の皆も心配しているでしょうね。

 これから私を取り巻く環境も変わって行くのでしょうし、先行きが少し不安ではあります。

 そんな事をつらつらと考えていたら、メル様が部屋に戻って来ました。



「簡単な物で悪いがこんな状況だ、すまないな」


 そう言いながらテーブルに置かれた物は、サイコロステーキに野菜サラダ、クロワッサンにスープと言うう普通に食事で想像と違っていて驚いた。


「あの…………これって」


「ん?普段の食事には劣るだろうが戦場だ、我慢してくれ。他の冒険者や軍隊ならもっと酷いぞ?」


 って言いながらニコって笑われても顔が赤くなるのですが?


「いえ、想像と違って普通の食事に驚いています。では、頂きます」


 私が小さい口で静かにモソモソ食べている間、メル様は向かいに座りワインを瓶ごと飲みながら色々と話掛けてくれた。気を遣ってくれてるのでしょうね。



「とても美味しかったです、御馳走様でした。これはメル様が?」


「そうだよ?」


「お料理もお上手なのですね?食材が手に入ったのも驚きです」


「ま、この程度なら。さあ、まだ万全じゃ無い。今はゆっくり寝ていろ」



 そう言われてゆっくり立ち上がったけど、足に力が入らずよろけてしまう。

 そこを素早くメル様が支えて下さって、抱かれてベッドまで運ばれる私。毛布を掛けられると、段々と現実味を帯びて来て、また震えが止まらなくなって来たの。怖い。どうしよう…………震えが涙が止まらない。

 気付くとメル様に抱き締められて腕の中で泣いていた。


 随分長い事、泣いていたと思う。次第に意識が薄れて眠りに落ちていく私だった。




自分でも、今後がドキドキします。


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