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大罪の執行人  作者: 明天日
7/12

罪状Ⅵ 喧嘩 Wake_Up_The_Dream

最近は物語の終わらせ方に悩んでます

 この街は数百万という老若男女が住んでいる。

 時はまだ夕方。いつもなら道に溢れんばかりの人があるいているはずの時間帯。

 今日は。

 打って変わって誰もいない。

 否、正確にはいる。彼らがこの戦慄の空間を作り上げていた。

 ガギィン!と、金属音で何かが鳴った。

 合わせられているのは糸鋸と足。

 悲鳴を上げているのは糸鋸の方であった。

 『意識切断』は苦虫を噛みつぶしたような顔になる。想定外の出来事だったようだ。

 それもそうだろう。『意識防御』による蹴りは見事に糸鋸の刃の部分を砕いていた。

 咄嗟に距離を取る。

 そこへ。

 ドガガガガガガ!!と連射音が響く。

 少年晴樹は横を見た。

 アールダがアサルトライフルをぶっ放している。


(面倒くさいなあ…正直人の喧嘩に入るのは乗気じゃねえんだが)


 そう心の愚痴をこぼしつつ、晴樹も同様に虚空より銃を取り出した。

 と、そこへアールダ。


「おい貴様」

「なんだ?」


 ライブ会場の音量にも負けず劣らずの銃声にかき消されそうになる。

 それでも、アールダは口を開く。


「なんで私の銃を使っている?」

「あ、え、あ…すんません」


 少女は一度銃を下した。

 そして。

 ボゴオオォォォ!!!と、銃声に負けず劣らず晴樹の腹から悲鳴が聞こえた。

 見れば、少女の華奢な右足が食い込んでいる。

 晴樹は数メートル吹っ飛んだ、そしてうずくまってしまう。


「ぐっ…うぅッ!?」


 微妙に吐き気を催したらしい。恐ろしやアールダさん。


「ほら、早く立て。もう喧嘩は再開しているぞ」


 そう声をかけられ、少女が指差す方向に目を向ければ、先ほどと同じく火花が散っていた。

 その向こう側では何が起こったのか分からないが、電気少年と沖が同じく喧嘩を勃発させていた。


(ええ…あいつらまで対立関係なのかあ?めんどくせえ…)


 と、不意に。

 ビュォオオオ!と、風を切る音が聞こえた。

 火の玉3つ。晴樹の方向へ放たれている。

 そして次の瞬間には。

 ズバヂィイ!と、光が迸った。

 晴樹は、その光を感じ取っていた。

 これは電気。つまり何かしらのトリガーが必要となっている。

 それを晴樹は見ていたが、火の玉がこちらへ向かっている途中に放たれることを踏まえ、思考を巡らすと一つの答えに行きついた。


(あえて空中で迎撃して爆発を起こさせる…か)


 呑気にそんな考えているほど楽なものではないが、自らの身に直接的な被害が入らないとわかれば、この攻撃は重荷ではなくなってくる。

 そう、この攻撃以上に注目すべき点は。


(あいつらァ!仲悪かったんじゃなかったのか!?いつの間に仲良くなっていやがった!?こりゃめんどくさくなるぞ…)


 次の瞬間。

 ドゴォォオオオオ!!!と、盛大に爆発音が響いた。

 光の線は正確に3つの火の玉を射抜き、空中で爆発させる。

 

 狙いは、『意識防御』だった。

 

 そう、晴樹は勘違いをしていた。最初から俺たちを狙っての攻撃じゃないのか、と。

 しかし考えてみれば攻撃の第一優先対象は『意識防御』に決まっている。

 あれほど厄介な防御方法を持ち、なおかつその防御は衰える尻尾すら見せない。

 ならば、耐久戦に持ち込まれる前に倒してしまおう、という寸法。

 何が起こって彼らの仲が良くなったのかは分からないまま。

 その爆発は見事に『意識防御』を捉えていた。

 しかし、先ほど5発の火の玉をもってしても破れなかった銀色の肌の装甲。

 今度はそれを破れるのか。


「チィッ…」


 やけに明瞭に響いた舌打ちが答えを開示していた。

 否である。

 火柱の中から、人影が見える。

 なまめかしく銀色に光る肌が一瞬にして人間味を帯びた。

 沖が次の作戦を練り始めた、その次の瞬間。

 ガギィィィイイイン!!!と、二者がかち合った。

 『意識切断』と『意識防御』、その人たちである。

 その右手は鎌と化していた。死神を彷彿とさせるその首を刈り取るための刀身。

 それに対して、『意識防御』は左足を軸に後ろを振り向き、勢いそのまま右こぶしを付きだす。

 競り合い一瞬。二者が距離を取る。

 しかし、その一瞬の攻防の中で晴樹はなにかを見出していた。


(反射しなかった...?一瞬だけだが、明らかに攻撃のベクトルが反射されなかった。つまりどういうこと

だ?)


 答えが分からない。

 なおも、『意識切断』の攻撃の波は収まらない。

 鎌による連撃は止まる勢いを見せず、押しているようにも見えた。

 と、そこで。

 一つ、大きな変化があった。

 カチャッ、と沖が手に持っていたライターが地面に投げ捨てられた。

 一瞬、沖の表情が険しくなる。そして、口を開いた。


「委員コード312、Surtr_Fire」


 次の瞬間。

 炎が場を支配した。熱波がコンクリートさえ焼いた。

 ボゴォォォオオオオオ!と、音を立て現れたのは十数本にも上る火柱だった。

 晴樹はとっさに口と目を閉じた。

 閃光にも似た炎は3秒ほどで止んだ。しかし、問題はここからである。

 見れば、沖の姿が異様に巨大になっていた。

 その体はゆうに3メートルを超し、その体には炎を纏っている。

 沖から放たれた言葉、その中にスルトという単語があった。

 スルト、北欧神話における炎の巨人。

 その炎が世界に放たれた日には、世界は火に支配され文字通り焼滅する。そんな伝承すら残っている強力な巨人である。

 だが、それを晴樹が知る由もない。

 一拍、晴樹の思考に空白が生まれ、すっかり変わり果ててしまった友人の姿にただ茫然と見ているだけの時間が生まれてしまう。

 状況が、動いた。

 ボォォオオ!と、音を立てながら現れたる物は炎を纏う剣だ。

 およそ3メートルはあるであろうその剣を前に、炎の巨人は晴樹を見据えていた。


(第一優先は俺に切り替わってる…いやでもまずはあいつをどうにかしないといけないってわけか…)


 次の瞬間、その炎を纏う剣が上段に構えられた。

 斬撃が、来る。ねらいは一直線に晴樹へ。

 凄まじい風切りの音とともに、火の粉さえ幻想的に見えてしまうその剣が、その身の終焉を知らす物と化す。


(…熱波は四方八方に広がる。どっちにしろ被害を受けることは確実だ。ならばッ!)


 最優先事項は我が身。それを守るべく思考を巡らす晴樹。

 が、そこで横やりが入った。

 ガゴォォン!!と、その炎を纏う剣の行く先が逸らされる。

 見れば、『意識防御』が拳を銀色にし、その剣を横から殴っていた。

 その拳は特異であることは、晴樹も沖もわかっていた。

 反射。その拳は攻撃のベクトルを逆にしてしまう性能が備わっている。

 それ故に、凄まじい速度で振り下ろされた剣は、いとも簡単に弾かれた。

 ドゴォォォオオ!と、音さえ焼かれるようなその炎が地面を焼き、しかし晴樹は生き残った。

 そして、爆風と熱が吹き荒れた。

 まさに地獄絵図。街路樹の葉はすでに焼滅し、その幹は灰と化した。


「ぐぅっ!!?」


 苦悶が漏れる。

 だが、状況は嵐の如く変化する。


「ふひひ☆」


 と、場の状況に合わぬ、舐めたような声を発したのは少年。

 一拍。

 ズバァァァアアアア!!と、先ほどとは比べ物にならないほどの電撃が視界を埋め尽くした。

 ドォォオオ!!と、晴樹の爆発が応戦する。

 二者の攻撃が拮抗することはなかった。

光が全面を覆い尽くした。

 

 目を閉じ、瞑想をする男が口を開く。


「状況が面白くなってきたようだ。あの少年の『力』が見えるかもしれない」

『そろそろだろうな』


 白き部屋に身を置く男。

 その声色は楽しそうにも見えた。


「あの『力』は私の願望。どんな手段を使ってでも少年には力を発揮してもらわないと困るのでな」

『「執行人」どもはどうするつもりだ。あのとりまきは貴様にとっても面倒事になると思うが』

「例の反逆話か。あれは私が知ったことではないが、まあ私の『計画』に支障が出るようであれば問答無用で倒しに行くだけだ」

『彼らはあの少年を手札としている。例の反逆話もそうだが、早めに片を付けておいたいいと思うが…』


 既に『執行人』たちの計画は外部に漏れている。

 この会話よりわかることだが、当の本人たちは気づく由もない。


「その程度の理解か。あの少年が『執行人』の手札に加わるわけがない」

『その根拠は』

「時機わかるさ。いやでもな」


 その男はまた楽しげに笑った。

 

 晴樹が『息を呑んだ』。

 それが意味すること。

まだその身が消滅することはなかったという事。

 何が起こったのか。

 『意識切断』が、その光から晴樹を守ったという事。

 具体的にはその手が剣と化し、文字通り光を断ち切っていた。

 目の前を横切るように、その剣を振るい電撃を消した。

 ドシャァ、と着地する音と同時にその剣が斧に変えられる。

 見据えるは『意識防御』。どうやら喧嘩は続行中のようだ。

 晴樹は『意識切断』を視界の端に収めつつ、いまいる最大の敵を見据える。

 スルトという名の沖。

 親友であり、高校に入ってからも慣れ親しんだ幼馴染。

 今は、違う。

 倒す。否、話を聞きだす、という表現が今の晴樹の考えに近いだろうか。

 決して倒すつもりはない。というより、倒してはいけないと考えている。

 それは晴樹の生きる上で一番大切にしている心臓たるものであるゆえ。


(あくまで喧嘩。命の奪い合いなんかじゃねえ)


 そう晴樹は自分に言い聞かす。

 そして動いた。前方へ、晴樹の体が飛ぶ。

 それに応えるようにスルトも動いた。

 その炎を纏う大剣を右から左へ、薙ぎ払うように振るう。

 コンクリートをえぐり、地面を焦がす音が迫る。

 それに対して晴樹は冷静だった。

 頭上に爆発を発生させる。その方向は、下。

 腰をめいっぱいかがめ、ほぼ転がるようにして薙ぎ払いを避ける。

 そして、見てみれば晴樹の手には銃が握られていた。

 長い銃身に、先端部分のとがった弾。俗にロケットランチャーと呼ばれるものである。

 その名の通りえげつない破壊力を誇るロケットを対戦車へぶっ放す、なかなかに重量級の代物である。

 それゆえに、反動も凄まじい物ではあるが。

 晴樹はその狂気的な武器をスルトの胴体、ど真ん中へ構えた。

 一拍。

 ガゴォォォオオオオオン!!!と、街全体へ響き渡るほどの爆音が鳴った。

 煙が上がる。

 晴樹は反動をもろに、それに加え爆発さえくらってしまう。

 その身が吹き飛ばされ、向かいのビルのガラスを割った。

 時機、その煙が晴れてくる。その身が、露わになる。

 確かに効いてはいたようだ。

 証拠に、着弾地点の炎は無くなっていた。その身もクレーターの如くへこんでいる。

 だが、そこまで。

 スルトはバランスを正し、剣を構え直した。

 まだ戦える。つまりそういうことを自ら示していた。

 晴樹はそれを見て、

 

 ニィッ、と狂暴に笑って見せた。

 


(おもしれえ)


 内心、晴樹は不安であった。

 倒せるか、という事ではない。

 沖がロケットランチャーをくらったことによって、死ぬことを危惧していた。

 この期に及んでこの友人思いの気もちは消えないらしい。

 晴樹はガラスの破片にまみれた店を出る。

 ドッ、と地面を蹴る音が聞こえた。

 一拍。ドゴォォォオオ!!と、爆発が晴樹の足元に発生した。

 その体は大きく宙を舞った。そのままスルトへ突っ込む。

 それに対して応じるようにスルトは上段へ剣を構える。

 待たずに、その剣が振るわれた。

 それに対して晴樹はどう対処したのか。

 予想外だったであろう。

 

 静電気の少年にとって。

 

 スルトの足元にいたその少年に向かうように、晴樹は方向転換をした。

 体の前方に横方向の爆発を発生させる。間一髪のところで斬撃は回避される。

 続けて、下方向へ自らの体の横に爆発を発生させ、横方向へ移動するベクトルをそのまま、横下へ移動するよう調整する。


「ふひひッッ!!?」


 少年は予想外の出来事に拍子抜けした声を漏らしてしまう。

 その声が、少年の困惑している様を伝えていた。

 晴樹はそのまま少年へと突っ込む。その右手は包丁。

 肩より上へ、その拳を構える。

 なんとか状況を呑みこんだ少年は、応じるべくみずからの『能力』を使う。

 


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