罪状Ⅴ 喧嘩 Attack_To_Opponent
数パートは喧嘩してます
「ふっ…なかなかに楽しそうではないか」
『そんなに彼らが羨ましいか。貴様が欲していたのは単純な力ではなかったか』
「私にだって寄り道をしてみたい気持ちはある」
何もない、まっ白な壁を見ながらその男は呟いていた。
ひとりごと、ではあるが会話相手はいる。
「あの少年もなかなかに特異なのだが」
『例の静電気の少年か。才能的にはそこまで優れているわけではないが、自力であのような所まで上り詰めるとは。貴様にどこか似ているな』
「そうか…」
『貴様は何の為にも力を付けたわけではない。あの少年もそうだな、自己満足によって実力を得てきた。貴様にそっくりだよ』
「もとより怪物の貴様に何が分かる」
『ははっ。それもそうだな』
この2人は高みの見物をしているだけか。
それとも、何かを探っているのか。
会話から読み取れることはフェイクかもしれない。
分かることは、まだ少ない。
ドガガガガガガッッ!!と、音が唸った。
ボゴォオオオオオ!!と、街並みが炎に照らされた。
バヂイィイ!!と、すさまじい光が駆け抜けた。
「クッ…!」
「ふん!!」
四方から攻撃が来る。
晴樹の行動は一貫していた。
すべてに対応する作戦を立て、絡めて攻撃につながる防御、回避を取っていく。
敵の行動を読み、相打ちをさせ、わが身だけは守っていくと言わんばかりにしぶとく生き残るすべを見出していった。
が、それも長くは続かなかった。
横やりが入ったのだ。
ズゥゥゥゥン…と、空気が振動し。
「ごはぁっ!?」
と。
沖が呻った。
その体は宙を舞い、雑居ビルの壁へと打ち付けられる。
沖が元いた場所には誰かが立っていた。
その腕は不気味に金属光沢のような光を発し。
どんっ!と、音が聞こえたかと思うと、その人物の足が輝いていた。
その人物が飛ぶ。
狙いは、沖。
これは自分たちの味方をしてくれているのだろうか。
いや、これはまだどちら側に立ったとは分からない。
刹那の思考の後、沖とその人物の衝突が起ころうとしていた。
その人物は光る右腕を掲げると真っ直ぐに、沖の体へ叩き込む。
だがその中で。
バヂィイ!と、音が鳴った。
狙いは沖に不意打ちをかけた、その人物。
一本の光の筋がその人物の左側から、あたる。
はずだった。
今まさに沖へ殴りを入れようとしていた右手を、電撃の方向へ持って行き、そのまま振るった。
それだけで、その光の筋があらぬ方向へ飛んでいき、ついには消えてしまう。
「ふひひ!?」
驚きを隠せない少年。
完璧な奇襲と踏んだのだろう、少年は目を見開き一歩後退りしてしまう。
だが、ここでは隙が生まれていた。
少年に対してではない。
照準が沖から逸れていたという事だ。
沖はその隙を見て、手元のライターを鳴らす。
3回、音が聞こえた。
更に逃げるべく、ダン!と、地面を蹴りその場を離れる。
半ば身を投げ出す形で、その人物の腕が届くゾーンを脱出、それと同時に手札である火の玉を三つ飛ばした。
空気を切り裂く音とともに、爆発音が鳴る。
はずだった。
晴樹がとった行動と全く同じ。
うざったるい感じで、その左手で、払いのけたのだ。
続く2発目も同じく左手、上方からの奇襲はまるでバレーのトスのような軽さで払いのけられる。
最後の3発目はまさかの右拳グーパンでの対応だった。
綺麗な付き、それは火の玉を送り主へ届け返した。
つまり沖へ。
「ッッ!!?」
不意を突かれた反撃にワンテンポ遅れてしまう。
だが、ここでやられるわけにもいかない。
彼には、彼のやるべきことが、まだある。
すぐに火の玉を制御し、自らの身との接触を防ぐ。
そして、また火の玉をその人物へ照準を合わせ、攻撃を仕掛ける。
カチカチカチカチ、と手元のライターが4回音を立てる。
退けられた2つの火の玉の制御はすでに聞かず、今手札にあるのは5つの火の玉。
(…あの人物の手には何かがある。少々賭けにはなるが、体を狙ってみるのも何か糸口をつかめる可能性が
ある)
と、思考を巡らす沖。
すぐに行動に移すべく、火の玉を操ろうとした。
その瞬間だった。
ギャィイイイイン…と、金属同士が当たる音が響いて。
遅れて爆風が吹いた。
爆風の中心地を見てみれば、腕や手が異様な銀色に輝く二人が衝突している。
一者は『意識切断』。
その右腕は2メートルほどのロングソードと化していた。
もう一撃、『意識切断』が懐へ刃を入れようとする。
今度は左手、その左手は長い爪のようになっていた。
アッパーカットのような振りで拳を入れる。
その前に。
ドガガガガガガッッッ!!と、弾幕が目の前を覆い尽くした。
『意識切断』は攻撃の主さえ見ず、その場を離れる。
ダンっ、と短い音が聞こえれば、後に残るのは体中を銀色としたあの人物。
アサルトライフルによる掃討はかなりの破壊力を誇るが…
その銀色の皮膚 (?) によってすべての攻撃は無効化されていた。
思考が追い付かない沖。
それは晴樹も同様だった。
だが、晴樹の思考の方が一枚上手。
(こいつら…全員『執行人』か!?)
先ほどの弾幕は明らかアールダによるもの。
一連の『執行人』同志の喧嘩か、と少々頭を抱えてしまう。
だが、ポツンと一人置き去りにされるのはいけ好かない。
よって。
ドゴォオオオオオ!!と、試しに銀色の肌をした人物へ爆発を仕掛けてみる。
(まずは、相手の手の謎を解かないとな…自然と俺が使える『魔術』も理解できるはずだ)
そして、爆発がその人物へ届く。
が。
爆発の威力が『逸らされた』。
(…あ?)
思考に空白が生まれた。
あの人物のとった行動は先ほどの沖の時と同じ。
その左手によって払いのけられ、爆発の方向は明後日の方向へ強制転換されてしまった。
どうにかして思考を巡らす晴樹。
先ほどのその人物がとった行動をフラッシュバックさせる。
そこで一つの答えにたどり着いた。
(…反射?)
と、いい感じの答えが出たかと思った次の瞬間。
ビュオォ!と、風を切る音が聞こえた。
それは数回続けて。
見てみれば、神秘的な炎を纏う玉がその人物に向けて撃たれていた。
沖が仕掛ける。
5発の火の玉はあえて同じ方向からの攻撃とした。
そうすることで。
(相手は体全体を手で守るようにするだろう、そうすれば…)
そうすれば、打ち返されるのは手に限った話となってくる。
そう沖は考えた。
さて、答えあわせ。
その人物がとったのは。
何も動かなかった。
ただ、目の前に迫りくる火の玉を見据えるだけ。
(あ?)
と、傍観していた晴樹でさえ頭の中が疑問符で埋め尽くされる。
次の瞬間。
ボゴォオオオオオ!!と、盛大に音を立て、神秘的な炎が立った。
続けて4発。
凄まじい明るさが、夜の海淵市街地を照らす。
それを見据えながら、炎を写す目が不安色になっている沖は何故相手が何も行動を起こさなかったのか、という問いの答えを模索していた。
(相手は何もしてこなかった…?これで終わるはずがない。まだ何か手札がッ!?)
そこで、沖は気づく。
先ほどの弾幕が迫っていた時。
あの人物はどのような行動を起こしていたか…?
気づいてしまった。
あの人物はいとも簡単に死の領域を切り抜けた。
それを実現させたのは。
銀色の肌。
正解、と言わんばかりに炎のなからから何か異物が出てきた。
炎の光を反射し、銀光するそのボディーは異質極まりない。
見れば、その肌は人間味を取り戻していた。
傷一つない服に肌。
(チッ…分が悪いな)
そう心で悪態を吐いたのは晴樹だ。
凄まじい殺人能力を誇る沖の炎さえ無力化させて見せた。
それは同時に、晴樹の勝率を底なしに下げてしまう。
隙さえつければ、と晴樹は思うが。
(…反射行動のように、無意識内で身を守る行動を起こしているのだろう。隙を突くなんてあまっちょろい考えじゃ勝てねえな)
自覚はしていた。
厳しい。
「おい」
不意に、横から声が聞こえた。
見ればアールダがそこにいた。
少女はこちらを見上げ、次にその人物を見据え、交互に見てから口をひたいた。
「あいつは『意識防御』だ。まあ、もうわかっていただろうが『執行人』の一人だな。使える『魔術』は名前から察してくれ。あいつは私たちと同じく神に対して反逆する立場をとっている奴だ、敵にはならないと思うが」
一拍、間をおいて。
「あいつは精神が硬いんだ。名前からもわかるだろう?あいつが生み出された目的は我々『執行人』が大罪に犯されないための手札ってとこだ」
「結論を頼む」
脅威は目の前まで迫っている。
沖は自分の十八番が無力化されたことにより、作戦を練っていた。
晴樹も現状打つ手なしの状態。
が、あの人物が自分たちの味方に付くというのなら話は別だ。
しかし、結論は厳しかった。
「貴様が不用意に攻撃を仕掛けるから、あいつは貴様が憤怒の感を持っていると判断しただろうな」
なんとなく察しがついた。
ついてしまった。
だが、万が一の可能性に賭けて答えを聞く。
「つまり…」
「あいつは我々の敵になる。今だけに限った話かもしれないが」
「…」
わかってはいた。
だが、答えだけを見れば最悪。
「そして最悪なことに、たぶんあいつの攻撃対象は貴様だけだ。言った通り、『意識防御』は罪の意識から『執行人』を守るためにある。それゆえに、私たちを精神関与から守り、私たちを信頼し共に戦っているのだろう」
「と、なると」
「まあ、予想通りだろうな。貴様は『執行人』である可能性が高いが、あいつとはほぼ関わってはいない。おまけに罪の意識という側面すら見せてしまった」
晴樹が攻撃を仕掛けなかったら、味方になる可能性もあった。
しかし、その行動は明らかな私欲。
「面倒くさいことになるぞ…四つ巴の戦いになる」
防御専門という、イレギュラー。
そして、今。
ドンっ!と、その人物が晴樹たちに向かって飛んだ。
すぐに構えを取る晴樹。
その内心は不安であった。
(ここでの最優先事項は生きて帰ることだ。だれも殺しちゃいけねえ…枷がついてるな)
話がしたい、そう晴樹は考える。
何故沖が喧嘩を売ってきたのか。
何故『意識防御』が『執行人』同士の喧嘩に入ってきたのか。
謎が多い。
だが今はそのようなことに思考を取られる余裕はない。
もう衝突する。
まずは上方へ回避だ。と晴樹が思った次の瞬間。
ガギィィイイン、と金属が火花を散らす音がした。
晴樹の視覚が正しければ。
(上からの奇襲?明らかに不意を突くようなものだったな…)
刃を『意識防御』へ入れていたのは『意識切断』だった。
いつからかその姿は見当たらなくなっていた。ビルの屋上などの場所でタイミングでも見計らっていたのだろうか。
その手はハルバード。先端は槍、その持ち手と槍の間には斧がついている。
今の一撃は突き出すような槍での攻撃だった。
間髪入れず、次の一撃が放たれようとする。
今度は斧。短めにハルバードを構え直し、その左から薙ぎ払うようにして振るう。
ゴォォォン!と、今度は鐘がなるような重い金属音が鳴った。
見れば、その人物の右腕部分は銀色の金属光沢を発し、なまめかしいまでのその表面は少し削られているようにもうかがえた。
これが意味すること。
(…あいつの防御は完全じゃない。いや違う…沖のあの炎さえ防いでしまうあの肌がそう簡単に削れるわけがない。…成程な。つまり『魔術』か?いや、沖のあの火の玉も『魔術』と推測できる、ならば)
刹那の思考で導き出した答え、いやそれにつながるモノ。
晴樹の予測なら、『意識防御』による守りの強度は今ある攻撃手段ではほぼ破れない。
できるとしても傷を入れる。その程度。
それを打開することが出来る一手、それは一つしかない。
(正面突破だ)
とはいえ晴樹とて馬鹿ではない。
作戦がないわけでもないし、行き当たりばったりで作戦を組み立てていくわけでもない。
(つまりそういう事だろう?『意識切断』が何故傷を入れれたのか。それはつまりその『魔術』を見てきたからだろう)
『意識切断』は次の一手に出ていた。
その右腕をハルバードより、ロングソードへと変え、左手を糸鋸のようなものに変える。
一瞬の手札の入れ替え。
そして間髪入れず、攻撃の波が『意識防御』を襲う。
ロングソードが上から振り下ろされれば、右手を掲げその攻撃を防ぎ、お返しと言わんばかりに銀色に光らせた右足をまっすぐ『意識切断』へお見舞いする。
が、それは予測済みであった。
左手の糸鋸を体の前に構えていた。
そして払いのけるように、その左手を押し出すように、銀色に光る右足を切断せんと言わんばかりの攻撃が放たれた。