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大罪の執行人  作者: 明天日
4/12

罪状Ⅳ よくある喧嘩 The_Close_Friend

戦闘シーンは語彙力が試されますね...

 沖からは凄まじい殺気を感じる。

 戦いの意思があるととっていいだろう。


「こちらとしては、まず話がしたい」


 そういったのは沖だ。

 嘘だな、と晴樹は単純に思う。

(この殺気…隠していないようだ。これは明らかに宣戦布告行為)


 話す意思があるならば、もとよりその手にある危険物は持ってこないはずである。


「こっちも話はしてえが」

「んまあ、知っていたさ」


 

「「交渉決裂だ」」

 


 二人の声が重なり、

 ズドゥゥウウウン…と、夜の海淵市に衝突の音が響いた。

 

 その頃、異質な高級感に包まれた一室に身を置く男が息を吐いた。


「はじまったようだな」


 クー・フーリン。

 この海淵市を生み出した改革者の一人。


『あの少年には少々手こずったよ、少し荒い方法を使わなければいけなかったがね』

「かまわない、沖君に関しては正直どうでもいい」


 その部屋のソファには一人。

 声は二人。

 異質極まりない二人が注目する、友人同士の喧嘩。

 その火ぶたが切って落とされる。

 

 まず動いたのは晴樹。

 ひとまず、『魔術』が宿っていない状態のアールダを避難させるべく、自分の足元に前方向の爆発を起こさせる。

 その反動により、大きく晴樹が後方へ飛ばされ、アールダを掴み、今度は自分の後ろ側に横方向の爆発を起こさせる。

 転がり込んだのはビルとビルの隙間。


「待ってろ」


 と一言、少女に言うと物陰から姿を出す。


「これで思う存分やれるぞ」

「…」


 沖は無言で返す。

 その眼には様々な感情が宿っているように見えた。

 怒り、苦しみ、不安…自分の行方さえ分からない、その虚ろな目を見た晴樹はこう沖に声をかける。


「覚悟が決まってないようなら、軽く殺せるが」


 あくまで冷酷に、あくまで友人としてその身を案じ。


「…こちらとしてもやらなきゃいけないことがあるんだ」


 虚ろな目が、変わる。

 覚悟の決まった、キッとした目つきに。

 一瞬の静寂があった。

 ゴォオオ!!と音を立てたのは炎。

 ドゴォオ!!と音を立てたのは爆発。

 二者が攻撃のために動いた。


(沖の能力…分からないな、こいつ発火系統の才能なんてあったのか)


 沖の右手に握られた、ライターが、強く押されていた。

 だが、その噴出口から炎は見えない。

 代わりに。

 ピンポン玉程度の火の玉が、晴樹めがけて飛んでくる。

 続けて、沖はライターを付ける。

 カチカチカチと、連続してその引き金を引くと、ゴォォォオオオオオ!!!と、盛大に音を立て、一瞬の火柱が立つ。

 そして三つ。

 例の火の玉が飛んでくる。

 それに対して晴樹のとった行動は簡単。

 その火の玉に対して左手を使って払いのけた。

 簡単に、邪魔くさそうに。

 その掌は、機械じみた銀色に光る板と化していた。


「ッッ!?」


 驚いた様子の友人沖。

 科学では説明がつかない、体の一部が金属となっているこの現象を目の当たりにして驚くのも無理はない。

 今のは明らか『魔術』。

 新たに力を手に入れたわけではない。『統率者』の弱体化ヴァージョン『第二計画』であるからこそのオールマイティ。

 それを扱えるのは素の晴樹では無理。

 つまり一人歩きをしている『魔術』が意思を持ち、晴樹の体を操りながら、沖と対峙している。

 弾かれた火の玉は、あらぬ方向へ飛んでいき、近くの雑居ビルの窓部分にあたる。

 ドゴォ!!と、爆発音のような音が聞こえたかと思うと、ビルの鉄骨さえ溶かす、超高温の何色とも取れない色の炎が立っていた。

 流した時とはまた違う。


(まだ3発…今の様子から見ると、あれは着弾地点にてなにかの現象が起こってるな。さて、どう対応すべきか)


 イメージは大福。

 外側の生地は、あくまでサブ。

 メインは中にある摩訶不思議な炎。

 一定の衝撃が加わることでその生地が破れ、メインの餡が飛び出す、そういったイメージ。

 だが。


(…俺も『能力』についてはあまりわからん。だが、こんなことが出来るのか…?)


 純粋な疑問。

 それ故の難問。

 鉄を溶かすほどの高温を普通のライターは生みだすことが出来ない。

 もし、あのライターが引き金になっているとしたら、それについてまた『能力』をつかった何かを細工している、と考えるべきだろう。

 それでも説明がつかない。

 鉄の融点は約1500℃。その温度を叩きだせるとしても、自らの身を滅ぼしかねない。

 才能者の扱える『能力』はあくまで科学に則ったモノである。

 対して『魔術』というのは科学では説明のいかないもの。


(科学に則っているとかではない…こんなことが『能力』として出力できるのか?)


 これが意味すること。

 すなわち。

 

 沖も『執行人』の一人である可能性がでてくる。

 

 だが、それはあくまで可能性。

 晴樹も、『魔術』について詳しく知っているわけではない。

 と、思考を巡らせる晴樹だが、その前に対処しなければいけない物が。

 目の前の火の玉3個、対処の仕方次第では自らの命が亡くなりかけない、そんな危険極まりない火。

 その火の玉が、もうすでに晴樹と目と鼻の距離にあった。

 それに対して晴樹は。

 まず一発目、軽い爆発を目の前に起こし、つかの間の時間稼ぎをする。

 そして、足元に後ろ向きの爆発を起こし、火の玉との距離を取る。

 一拍。

 ドゴォォオオオオ!!と、火の玉の一つが大爆発を起こした。

 晴樹は驚きのあまり口を開けそうになるが、硬く結び目を閉じる。

 爆風を吸い込んでしまえば、肺は焼け、その爆発を見れば、つかの間の視覚を奪われる。

 目を閉じて尚、入り込んでくる光。

 肌から伝わる熱波。

 毛が逆立ち、危険信号を発しているかのようだった。

 その光が収まると、晴樹は目を開け、状況を判断する。

 しかし目の前には、そんな第6感が発する危険信号さえ無視してしまう、凄まじい危機が表れていた。

 いつの間にか、沖の手札である火の玉は増え、その総数十数個。

 そのすべてが沖の周りを漂い、今この瞬間にでも放たれようとしていた。


(くっ…この数、しのげるか!?)


 思考を巡らす。我が身を守るために。

 そして、来た。

 一斉に、晴樹を囲むようにその炎球が撃たれた。

 まず一手。上方へその身を移動させる。

 ドゴォ!と、その体が勢いよく跳ね上がり、十数という炎の群れが一斉にこちらへ方向を変える。

 その速度は異常だった。

 晴樹はその両手を銀色に輝かせ、二発弾き返す。

 ベクトルは見事に反射され、近場のビルへと円球がぶつかる。

 ドゴォォォォオオオオオオオオオオ!!!!と、2発がほぼ同時にビルを溶かした。

 続けて3発。晴樹はその炎球へ向け、自分の足元に下方向の爆発を起こす。

 それと同時に、自らの身を後方へと移動させる。

 二つの爆発音が続けて重なった。

 3発は空中で爆発を起こし、それに誘発するように続けて数発爆発を起こす。

 晴樹の身はさらに高度を上げ、残りの炎球たちはそれを狙い落すが如く、猛スピードで追いかける。

 一度その身を地面に下すべく、晴樹は自らの頭部に爆発を起こし、自らの移動のベクトルを下方向へ持って行く。

 これで、一度場面が整理された。

 と思っていた。

 舐めていた。

 その火の玉が今、この瞬間に。


 あの少女、アールダの元に届こうとしていた。

 

 二つ。

 先ほど、自分が少女を置いてきた場所に。

 待ってろ、と言ったのが命取りか。あの少女はまだあそこにいるのか。

 続けて聞こえる、カチカチカチカチという音。


「グッ!」


 怒りを全面に押し出し、苦しみをあらわにしていた。

 巡るべき思考も、まともに機能しない。


(どうする…まだ俺の方は時間がある。ならまずあいつをッ!!)


 第三者から見てみれば、その考えはあまりにも愚かなものだった。

 あの少女も、自分も助からない道を選んだのと同じ。

 話を聞かなければならない。

 沖を正気に戻さなければならない。

 感情と、考えが思考を乱す。

 そして。

 ドゴォオオオ!!と、音が響いた。

 続けて。


「きゃあああああああああああああああああああああ」


 と、何故か聞き覚えのある少女の悲鳴が聞こえた。

 あ、と間抜けな声を晴樹は漏らす。

 その音は間違いなくあのビルの隙間から。

 少女は死んだか。

 なぜ自分は行動に移さなかったのか。

 なんで自分は生きているのか。


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 感情を押さえられなかった。

 悲しみと、怒りが混ざった。

 どうしようもない、自分への憎しみが溢れた。

 自らの感情が何なのかさえ忘れた。

 自分の非力さに打ちひしがれた。


(力がァァ…力さえあればァァああああああああ!!!!)


 晴樹は、『自ら望んで』力を手に入れようと願った。

 その瞳は、時機に怒りへと呑みこまれる。

 しかし。それはなかった。

 それを断ち切る、声が聞こえた。

 


「なーんてな」


 

 一瞬。

 止まった、世界が。

 その晴樹を馬鹿にするような声には。


「まったく、いきなり叫びだすな。まだ勉強の杞憂何ぞしているのか?それとも私の演技が上手かったか?」


 その声には、聴き覚えがあった。

 まだ幼い、小学生と中学生の合間くらいの声。

 その体には、見覚えがあった。

 先ほどまで自分が着ていた服、その下には布面積が小さいビキニ。

 アールダが、いる。


「すまないな、『離れる』のが久々すぎて出遅れてしまった」


 自分の心配をよそに話している少女を見て、自分の杞憂はなんだったのだろうと、心の中でため息をつく晴樹であった。

 そして内心アールダに怒りさえ覚えてしまった。

 こうも簡単にあしらわれるとちょっと一発殴ってやろうかとも思う。

 そして。


「それより少年、気づいているか?」

「…ああ。やっかいだな」


 晴樹はそう呟いた。

 カツンカツン、と複数の足音が聞こえてくる。

 一方は上から、一方は横から。


「やっかいな横槍が入りそうだぞ」


 そう晴樹が言うと、ビュウゥン!!と盛大に風を切る音が聞こえた。

 咄嗟に晴樹は足元に爆発を起こす、回避のための行動である。

 そして、元いた場所には一人の人間がいた。

 その手は異質なモノだった。

 言い表すならば、剣。

 なまじ手首より先が剣と化している、明らかに腕が長くなっていた。

 こいつは。


「『意識切断』…ッ!!」


 アールダが何か怒りを込めた瞳をその人物へ向ける。

 科学では説明のつかない現象を操る者。

 『執行人』。

 その一人である、『意識切断』が親友同士の喧嘩に横槍を入れる。

 それと同時に、晴樹から見て下の方向から音が聞こえた。


「あひっ☆」

「ッッ!!?」


 間抜けな声とともに飛んできたのは、少年。

 空中で体当たりをしてきたのだ。

 一瞬の思考の空白が生まれる。

 が、それでは駄目。

 体当たりをしてきた少年の攻撃、晴樹の身を引きずることなく、晴樹の身を少し吹っ飛ばした程度であった。

 少年はその勢いのまま、晴樹からすこし距離の開いたところでその勢いを止めていた。

 状況を視覚で確認すると、晴樹は作戦を立てていく。


(血はなるべく流したくはなかったんだがな…仕方がない、自分の身が一番大事だ)


 空中で体勢を崩されながらも、まず晴樹は手に鉄の感触を感じ、思いきり引き金を引いた。

 方向、下。

 ドガガガガガガッッッ!!!と、連続した大きい音が鳴った。

 狙いは『意識切断』。

 空中戦に置いて、下方向からの攻撃というのは死角からの攻撃。

 まずは下から。

 そして、発砲の反動により晴樹の体が少し上に浮く。

 そのすぐ下を。

 ゴォォォオオ!!と、あの恐怖の火の玉が通っていった。

 すべて計算通りだった。全て作戦。

 晴樹の思考は常人の域を遙かに越していた。

 次に。


「ふひひひっ☆」


 と、声が聞こえたかと思うと、晴樹から少し離れた場所から光が見えた。

 場所は空中である、できる事は限られているが…

 ッどぉぉぉぉ…と、低い音とともにまるで光線のようなものが少年から放たれる。

 その数、およそ30。

 一方からではあるが、範囲がとても避けられるものではない。

 その少年を中心に、およそ50メートル。

 『気化操作』を使った移動を用いても、回避は不可能。


(どうする…流石に作戦外だ)


 そんな焦りをよそに、凄まじい速度ともに光線が飛んでくる。

 次の瞬間。

 ズバチィィ!!!という、電気の音がした。

 光が視界を埋め尽くした。

 その電気は、晴樹の体を焼き尽くした。

 …はずだった。

 その光の弾幕の中から。


 バゴォォォォオオオオオオオ!!!!と、凄まじいと音が聞こえ。

 電気を一斉に薙ぎ払った。


 その中心にいるのはもちろん晴樹。

 その大爆発を起こしたのは、晴樹の能力である『気化操作』によるものだった。


「…放電の方向を一定に保つためには、電子の動きを制限する物が必要になる…」

「ふひひ…」


 簡単だな、と晴樹は息をついた。


(あいつが操れるのは電子の方じゃない…空中にはなった原子の動きを制限する、それこそがあいつの『能力』)


 徐々に重力の枷を背負うようになりながら、晴樹はなお口を開く。


「光が見える瞬間、お前の方向へ光が走るのが見えた」

「ふひひひひひひひ☆」


 足元に爆発を起こし、体にかかる力の向きを少年の方へ向ける。


「厄介だな」


 と、一言。

 ズバァア!と、雷のような光線が走った。

 一本。狙いは晴樹、高電圧をもろに浴びれば死に至ることもあるが、それに対して晴樹はいとも簡単に対処して見せた。

 右手を前に、その掌を中心に。


 パシィイ…と、ガラスが割れるような音がして。

 電子の流れる方向が変わった。

 つまり、攻撃が逸れた。

 

 成程な…と一言晴樹がつぶやいた。

 自分の体を下方向へ流すように、頭上へ爆発を起こして。

 そうして、また考察を始める。


(ざっと、電子を受け取る何かしらを操っていると見てみるのが正しいか)


 下では、『意識切断』と『意識移動』の喧嘩が起きていた。

 両者の姿は街灯に照らされ、まるでコマ送りの画像を見ているかのよう。残るのは銃声と銀の剣筋のみ。

 『意識移動』はともかく、『意識切断』のほうは凄まじい身体能力を備えているようである。何か、他の『才能』か『魔術』でも備わっているのだろうか。

 そちらに意識を向けていると、横から火の玉が5つ飛んでくた。

 あくまで晴樹は冷静だった。

 周囲に爆発を起こし、自分の体をコントロールしながら回避を。

 敵の放電を使って、誘爆を起こし。

 払いのけて、その軌道を変え。

 混沌とした戦いの領域。

 そんな地獄のような領域が、さらにヒートアップしようとしていた。


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