罪状Ⅱ 衝突そして話し合い Way_Of_War
今回は短めの戦闘シーン入り
その長い銃身から放たれる数発の銃弾。
それが正確に晴樹の頭を貫こうとしていた。
絶体絶命、銃弾の速度に追いつき、対処することなど不可能。
だが、その速度に追いつき。
ドゴォォォオオッ!と、晴樹から前向きに爆発が起きた。
その爆発は空気を切り裂いていた銃弾をすべて弾き、あらぬ方向へ飛ばしてしまう。
「ほぅ…なかなかに骨があるやつだな」
「何のつもりだ、友人を傷つけるようなら容赦はしねえぞ」
晴樹は一段と声を低くして目の前の少女を見据える。
「察しはついているか?」
「そう言葉を濁すようなことか?てめぇにはそれが軽々言えそうだがな」
「わかった分かった、そうカッカするな。簡単に説明してやる」
と、一拍。
少女が間を置くと。
「貴様らは私たちに関わった。だから死ね」
冷酷に、あくまで無表情に。
最悪の言葉が放たれる。
次の瞬間、ドガガガガガガガッッッ!!!と連射音が、日の傾き始める街に響いた。
その手に握られているのは軽機関銃。
それを少女は片手で操っていた。
すさまじい反動故に、両手で扱ってもまともに照準が合わない弾幕用の銃。
それを、まるで手品のように軽々と操っていた。
だが。
銃弾の先には誰もいなかった。
「ッッ!!?」
焦りを前面に見せる少女。
(馬鹿な、気配はそこにあったはずッ!!)
と、そこで少女は気付く。
その上、さっきまで少年がいたその上に。
両手に友人を抱えた少年がいる。
「甘い!!」
と、少女。
「そうか」
と、少年。
言葉を交えるのも一瞬。
ドガガガガガッッ!!と又も連射音が響く。
だが、しかし。
再びその少年の姿を見失う。
後に残るのは『モヤモヤとした雲のようなモノ』だった。
(…水蒸気、なるほど。あの少年も器用なものだな)
と、気づけば足音が。
カツン、と場を静まりかえす一つの音。
その少年が、ゆっくりと少女を見据えながら歩いてくる。
「貴様の友人は何とかなりそうだな、私としても無駄な労力は使いたくないところだが」
「…」
晴樹に言葉は無かった。
それが合図となり
ドオォォッ!
爆音とともに。
その少年の体が飛んだ。
前傾姿勢のまま、その少年は少女めがけて飛んで行く。
それに反応する少女。
手にはさきほどよりコンパクトな銃が握られていた。
回転式拳銃、またの名をリボルバー。
引き金に指をかける、かすかに聞こえる金属の音が死の恐怖を植え付ける。
その恐怖を振り切るかのように晴樹は攻撃の算段を立て、実行する。
ドズシャアッ、と晴樹の左足が地面に着く。
それを軸に晴樹は右拳を前へ。
いや、それは拳ではなかった。
まるで『包丁』。
刃渡り15センチ程度の刃物のようなものが。
手にしているわけではない。
手と『一体化』している。
咄嗟に、その不気味な右拳を見た少女は目の前から姿をくらました。
後ろ、晴樹が振り返るとその少女がいた。
およそ10メートル、その手にはさきほど握られていたリボルバーではなく、長めの銃身、殺しの行進を食い止める弾幕を作る、軽機関銃が握られていた。
だが、その弾幕が作られる前に晴樹が動く。
ドンッ、と晴樹が上へ飛んだかと思うと、晴樹から前方向へ爆発が起きる。
晴樹の能力『気化操作』。
水が気化する際に急激に体積が膨張するのは有名だ。
それの応用、つまり身近にある水分を気化させ爆発を起こし、本来の晴樹の身体能力では出来かねる動きさえ実現させてしまう。
更に、晴樹はその爆発の方向さえも操ってしまう。
それ故に自身の能力の制御がしやすくなる。
これを晴樹は自身の体内の水分等を使い、爆発を起こしている。
その爆発に煽られるようにして、少女は銃を手放してしまう。
つまり無防備。
この機会を逃すまいと、晴樹は落下しつつある体を強引に爆発で前方向へ移動させる。
その右拳は包丁。
身近にある刃物とは言えど、殺傷力はかなりのものである。
だが、またもや少女の姿が霞む。
幼き声は後ろから聞こえた。
「なかなかだな…というか見覚えのある『魔術』が出てきて驚いている次第だが」
「すまない、俺も動揺している。俺はこんな能力『使えた覚えがないぞ』」
「うむ…宿り主がいなくなって貴様に宿ってすぐなのか、それとも」
「小難しい話は分からん、今は戦いの最中だ」
少女の独り言を遮るように晴樹が言葉を発する。
あくまで戦いは続いている。
「戦いは止めにしないか…と言いたいところだが、こちらとしてはその『魔術』を扱える者を放っておけないのだ、力ずくでも話を聞いてもらいたいからな」
「殺し屋の話を今この状態で聞ける訳が無い、それはわかっているだろ?」
「それ故の戦いだろうが」
また緊張の度合いが一段階上がる。
殺気が辺りを支配する。
「あくまで『殺し』は無しだ、それだけは両者同意のもとでいいか?」
「別に構わん、俺もてめぇから話をいろいろ聞きたいからな」
一拍。
そして。
ゴオォッ!と晴樹は飛び。
スッ…と少女は霞んだ。
方向。上。
咄嗟に、晴樹は体の前に横方向の爆発を起こす。
その爆風に煽られるように晴樹の体が横へ。
転がるように、その中で体勢を立て直すと、少女が元いた場所にクレーターができていた。
そして爆風が吹き荒れる。
(炎が上がったな…グレネードか)
思考一瞬。
晴樹の視界の端、丁度映りかけのその姿は少女。
反射反応のように、晴樹は後ろへ下がる。
ガシャア!!と盛大にビルのガラスを割りながら、宝石店らしき店内へ避難する。
先の騒動により、客、店員ともに誰もいなかった。
警報がただ鳴る中、晴樹が元いた場所に火柱ができる。
立て続けに、乾いた銃声が連続して聞こえる。
(グレネードランチャー付きアサルトライフルといったところかッ!)
身を伏せ、ガラスのようなやすっちい宝石が飾られている棚に身を隠す。
ガガガガガガッ!!と、死を呼ぶ連射音が鳴った。
自動ドアのガラスが軽々砕け散り、破片となって店内に入ってくる。
晴樹は思考を巡らせる。
(隠れているだけでは駄目だ、なにか打開策を)
とりあえず、こんな場所にいるだけでは埒が明かない。
注意を引くため、身を乗り出し爆発を起こす。
だが、それは罠であることを考慮していなかった。
待っていたかのように、
目の前に、
少女がいて。
「ッッ!!?」
パン。
と乾いた音一つ、冷酷に死を告げるその音が。
晴樹から放たれた。
不意を突かれた一撃、咄嗟に姿を霞ませる少女。
近くのビルの屋上へと逃げる。
少女の頭の中は疑問符で埋め尽くされていた。
何故あの少年は拳銃を持っていた?
なぜあの少年はあの状況で正確に自分の頭を捉えていた?
疑問がよぎる。
そう、晴樹が顔をだし少女が目の前にいること、それはすべて予測済み。
全て晴樹の作戦の内にあった。
少女の頭が混乱し始める。
あの少年はどこまで予測している?
この行動さえ作戦の内なのか?
(何故少年は銃を…ッ!?)
不意に思考が途切れる、原因は明快。
その少年の気配がいつの間にか自分の背後にあるではないか。
ドガガガガガガッ!!!と低い、腹に響く銃声が放たれる。
だが、少女はこれを好機と見た。
(今の音はちょいとばかし重い機関銃…まともに態勢は整えられてないだろう!)
すっ…と少年の目の前から姿を霞ませ、少年の死界に回る。
だが。
その少年の腋から。
その悪魔のような銃口が。
こちらを向いている。
ドガガガガッ!と、今度は短め。
だがその銃弾は明確に、少女を捉えた。
今度は回避不可能。
パスパス、とその少女の肩を射ぬいていく。
「グゥッ!!」
痛みが口から洩れる。
負傷した右肩を抱えるように左手を伸ばし、真正面から恐怖の塊であるその少年を見据える。
「あーあ、今ので仕留めたと思ったんだけどなあ。どうやら機関銃の扱いには長けてないんだわ」
「貴様ッ!!私を殺す気だったのか!!?」
あ?と、晴樹は量産型DQNのように返す。
「殺人鬼を生かせておく理由なんてねえ、俺に不都合があろうと俺の大事な友人を傷つけようとしたてめぇを俺は絶対許さねえ!!」
距離数メートル。
そこは死の領域と化していた。
「わかった、私の負けだ。だからいい加減な話を聞く気になってくれ」
「…チッ。わかったよ」
晴樹は銃を『消し』戦闘態勢を崩す。
その様子を見て少女は目を見開いて驚いていた。
「聞いたことがある…私たち『執行人』には『第二作戦』があると」
「あ?何のことだ?」
なるほどな…と困った様子の少女。
とりあえずここでの立ち話もどうか、ということで近くの喫茶店へ向かうことに。
「…っつーか。あんた水着で出歩いてて大丈夫なのか?」
「ん?私は構わんが」
「他者から見たらの話だわ!こんな少女が水着着て危険物抱えながらまな板みせつk」
ズドゥン!!と、晴樹の顎から音が鳴った。
「…殺すぞ」
「まじでごめん」
少女から戦いの際とは比べ物にならないくらいの殺気が放たれている。
晴樹もこれには怖気づいた様子。
顎を青くしながら、少女の様子をうかがいながら、喫茶店へ入った二人。
チリン、と入店を知らせるベルが鳴るが、店員の声が聞こえない。
それもそうだろう、先の騒動で皆逃げ出しているに決まっている。
ここで晴樹は重大なことに気付く。
街の被害?いや違う。
カラオケ?いや違う。
置き去りにした友人?いや違う。
勉、強…?
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
吠えた。
少年が、吠えた。
「うるさいぞ少年。いきなり退化するな」
「うあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「うるさいって言っているだろうッ!!」
ドスッ!!と、低い音が晴樹の腹から聞こえた。
腹を抱えて喫茶店の床を転げまわる晴樹。
この少年の退化の原因は、この少年自身にある。
圧倒的勉強不足。
この少年、毎回の模試において全教科赤点。
追試など3回以上が当たり前。
(うぉおおおおおおおおおっ!!もうあんな地獄は見たくねえええええ!!!)
ならカラオケなんぞ行ってないで勉強しろという話なのだが。
娯楽があれば迷わずそれを取る阿保な少年にこれは通じない。
しかも来週は期末試験。
ここでまた赤点を取ってしまえば、留年という選択肢さえ出てきてしまう。
「落ち着いて話はできんのか」
「たぶん無理ッ!!」
そういって喫茶店から駆け出そうとする少年を少女はその腕をつかんで引き戻す。
「なにするんだよぉ!離してくれよぉ!!」
「とりあえず座れ」
ポイッ、とごみを捨てる要領で晴樹を席に着かせる。
晴樹が席に座ると、場を静寂が支配した。
先程の晴樹の退化現象がなかったかのように。
緊張が高まった。
「とりあえず説明会と行こうか」
「…手短に頼むぞ」
そうだな…と少し少女は考え込む。
「まずは貴様について少し話が聞きたい」
「まあ、いいだろう」
と晴樹が言うと、一つ息を吐いて説明に入る。
「さっきの戦い、明らか俺の『能力だけ』では説明のつかないことだらけだった。しかもほぼ無意識のうちに戦いが進んでいた」
分かりづらいかもしれない、だが晴樹は自分の意識であの戦いを進めていたわけではないらしい。
では何か。
その答えを口に出したのは少女だった。
「貴様が先程使っていたアレ、貴様ら海淵市民が知る『能力』とはかけ離れている。というか全くの別物だ」
「答えを出してくれ」
「『魔術』」
先程の戦いからそのワードは出ていた。
悪魔の字を使うが故、その言葉からは忌々しさが出ている。
「確かに、貴様の水蒸気を使ったアレは海淵市製の『能力』だ」
『気化操作』。海淵市の能力の中で中の下程度に位置する能力。
「本来ならその水蒸気を使った『能力』とやらはそこまで使い勝手がよくない訳だが…」
「ああ。明らか俺がその能力を使っていたとは思えない」
爆発の方向をミリ単位で操作し、的確に敵の攻撃を防ぎ、回避すること。そんなことが一般男子高校生にできる訳が無く、それはつまり『晴樹ではない晴樹』がそこにはいたことになる。
「で、その『魔術』とはなんなんだ」
「簡単に説明できるものではないのだがな…これはまずはこの海淵市製の『能力』について説明していくか」
…海淵市民以外のほかの地域からやってきた輩が海淵市の『能力』を説明できること自体、一大事なのだが。
「簡単に言えば、海淵市製の『能力』はあくまで科学に則った物。貴様らはそれを実現するための『射出点』を備えている。まあ、この街基準で言うならば才能者か」
「射出点…?」
「そうだな、貴様で言えばどうだ?体全体とかか?」
晴樹の爆発が起きた範囲はおよそ体に近い部分。
爆発の中心点が射出点となるのであろう。
「だが、『魔術』は明確な射出点がなく、そして科学では全く説明できない物だ」
「それではこの世界にその『魔術』とやらは出力されないんじゃないか?」
よくわかるじゃないか、と少女。
例えば、科学がいくら発展したからとは言っても、タイムスリップができる機械ができないことと同じ。
つまり妄想。
「それについては、まだ詳しくわかっていないのだが…」
「なんだそりゃ」
軽くつまずく晴樹だが、説明できない物は仕方ない。
「で、てめぇはその『魔術』を使いこなしてるやつってことでいいな?」
「まあ、私の『魔術』はいたって『能力』的なのだが。貴様も貴様で『魔術』は使っていたぞ?」
「それについて聞きたい。なんで俺は『魔術』とやらをつかえたんだ?」
「本人に自覚がないと説明がいかないのだが…」
少女は困った様子。
だが仕方ない。今さっき晴樹は初めて『魔術』をつかえたのだから。
「そうだな」
と少女。
「まずは『我々』について話さないとな。貴様に似たやつがいるんだ」
我々…?と小首をかしげる晴樹。
「我々『執行人』の役割についてな」