罪状Ⅸ 真実へ The_Nature_Of_Friends
説明回が多くなりますがご容赦下しい
「やはり、あいつも『魔術』を扱える者なのか…?」
晴樹は単純に疑問を述べる。
沖が使っていたあの力が『魔術』だということは予想できていた。
重ねて、少女が述べた事実と重ねて考察する。
「ああ」
と、少女は簡潔に肯定し、続けて説明に入った。
「あの少年が扱っていたのは、おそらく北欧神話系だろう」
晴樹はそのような知識に長けていない。
ゆえに、そのようなことは全くの素人なのだが、親友のことは親友として知っておくべきだろうと晴樹は思う。
「あいつが、あの巨人になったとき、スルトという単語を口にしていたのを覚えているか?スルトは北欧神
話に登場する巨人でな。まあ、それはどうでも良いんだが」
「いや、もうちょっと説明してくれ」
「そうか、なら説明してやろうではないか」
晴樹は親友の、沖のことを知ることは重要であると判断したらしい。
スルトについての説明が入った。
これについては先の話で説明したので省略。
一通り説明を受けた晴樹は考えるしぐさをとる。
「なるほどな。ならあいつが炎を仕えていたことも納得できるな」
「あいつの場合、言うならば巨人モードか。それになれるのはある程度の体力を消耗するようだな」
そうなのか?と晴樹は返す。
「見えていなかったか、あの静電気の少年をやった時のあいつはかなり体力を消耗しきっているようだったぞ」
悔しながら、晴樹には沖がつかれているようには映らなかったようだ。
それもそうだろう。
体が大きくなればその分使うエネルギーも多くなる。
その身が長く持たないことも納得がいく。
それを知って、晴樹は何かつながったように頭を上げた。
(あいつが、あの少年を殺したのは俺の心を揺さぶるためだけのことだったのか…?いや、それじゃあまるで俺が何か、秘めた力を持っていて怒りを引き金として力が宿る、そんなことを全て理解していたみたいじゃないか。あいつは俺の何を知っている…?)
すぐに、疑問が生じた。
今考えても忌々しい自らに宿ったあの力。
自らも知りえないその得体のしれないモノ。
それを沖が掌握していたというのなら、目的はなんだ?
これ以降は、沖本人に聞かなければ分からない。
「つまり、あの巨人モードにはある程度の時間制限が必要なわけだ」
「なるほどな…もう一つ、気になることがあるんだが」
と、晴樹はアールダへ質問を投げかける。
「あいつが言っていた…委員コードだっけか。それにはどんな意味があると思う」
確かに、沖は委員コードというワード、そして312という謎の数列さえ口にしていた。
何かのキーワードなのか、そう晴樹は考えている。
「まあ、単純に考えてキーワード的なモノであろうな。詳しいことはあの『委員会』に属していないから分からないのだが」
ふと、晴樹は顔を上げる。
アールダの発言に意味深なワードが含まれていた。
「ちょっと待て、『委員会』ってなんだ?」
「おおすまない。少し話が跳躍しすぎたようだ」
曰く、その『委員会』とやらはこの世界に複数あるらしい。
『執行人』というくくりもその一つだとか。
そして、沖が属する『委員会』が『神々の黄昏』と言われる北欧神話に登場する者たちの力を宿す者たちが集う物があり、沖含め、北欧神話における火の力を有する者たちの集いを『ムスペル』と呼ぶらしい。
そもそも、『魔術』を操ることは鍛錬が必要で、『才能者』の育成同様世間に知れ渡ることなく、その者たちを育て上げてきたようだ。その観点で、いきなり『魔術』が使えたという晴樹はかなりの異端児らしい。
また、北欧神話の登場人物をモチーフとした力を身に付ける事には理由があるらしい。
一つは、明確な力の設定があるからだそう。
当てもなく力を習得することはほぼ不可能で、何か目標であったり、実在した人物であったり、伝承等に記された者などを模倣することが多いらしい。
そんな中、神から授けられた形で力を得た『執行人』たちは特異であるそう。
それでも、鍛錬は必要だとか。
二つ目は、生まれた家系に関係するらしい。
たとえば、キリスト教の牧師の子であれば、親の力が引き継がれたり、北欧神話に登場する者の力を宿す者の子であればその力がそのまま宿されたり。
説明を聞き、晴樹は頭に浮かんだ疑問を述べた。
「じゃあ俺の場合は、親が『第二計画』である可能性もあるわけか?」
「まあ、その可能性も無きにしも非ずという感じだ。だが『執行人』の力が宿るということはかなりランダム性が高いらしくてな。二つの『魔術』を扱えるようになっちゃったりすることもあるのだ」
「それは…?」
「もう貴様も逢っているぞ。『意識切断』だな」
そうか、と晴樹は納得したようにうなずいた。
あれほどの身体能力を獲得しているのは『意識切断』という『魔術』のほかにもう一つ違う『魔術』を扱えることゆえ。
では、何の『魔術』か。
晴樹が問う前に、アールダはその答えを口に出した。
「補足説明を行うと、あいつが使えるもう一つの『魔術』は『忍び』という物だな。日本人である貴様なら分かるだろう」
江戸時代に活躍していた、というイメージが強い忍びだが、忍びのような活動を行う者自体はそれ以前から暗躍していた。
忍びの活動自体は、そこまで善行とは言えない。
諜報活動や、破壊活動、暗殺などにまで手をまわし、個人で活動することは数少なく、大名や領主につかえながら仕事をこなしていたらしい。
「ああ。だからあんな早く動けたのか」
「まあ、正確にはあのように早く動けたわけではないらしいが、モチーフにするならばそっちの方がやり易かったらしいぞ」
忍者とて人間。
人間の域を超すスピードを叩きだせることは不可能であることに変わりはない。
だが、現代におけるそのような伝承の影響は大きく、モチーフにする分には十分だったらしい。
(そもそも『魔術』ってどうやって作りだすんだ?そもそも作り出すものなのか?)
先ほどから生まれては消える疑問符に翻弄されてしまう晴樹であった。
素人の晴樹にとって理解の追いつかないことである。当然の結果であろう。
それに重ねて、この少年馬鹿である。
頭ん中お花畑の少年に、新しいことを教えることがどれだけ大変か。
虱潰しに疑問符をつぶしていくこと以外道は無いのだが、少年が生み出す問いは収まることを知らず、溢れかえっていくのみ。
「ところで少年」
と、不意にアールダから声がかけられる。
「ちょっとばかし付き合ってくれないか?」
「…どこへだ?」
一瞬そっちのことかと思ったが、天地がひっくり返ってもそんなこと起きないはずなので、晴樹は適当に返した。
「『執行人』の会議に、だ」
行ったのは海淵市内のビル群の一角にあるホテルだった。
ロビーは一面大理石、置かれているソファーは最高級らしきもので、いかにも高級ホテルの面構えをしていた。
そんな光景を目の前に、小庶民晴樹は少々腰を抜かしながら今日も今日とてビキニで闊歩する少女に声をかけた。
「ほ、ほんとにここなのか?」
「ああ。ここの25階だな」
ひょえええええ、と晴樹は軽く目を剥いてしまう。
学校の4階以上は知りません、という晴樹にとって25階というのは天国と同じ領域であるがゆえ、少々足が震えてしまう。
もう少しロビーの光景を堪能したいところだが、少女が足早にエレベーターへと向かってしまうので、渋々ついてくことに。
ピンポーン、という音とともにその厚いドアが開く。
エレベーターへ乗り込むと、少女は早速25と書かれたボタンを押した。
マジで行くんだな…と身構える少年。
どこまでも小庶民だな、と心で少年を嘲る少女。
ぐん、と慣性の法則により体が引っ張られるような感覚が体を走った。
そんなことも束の間。数秒で25階へとついた。
またピンポーン、という音とともにドアが開く。
「ここの2504号室だな。もう全員集まっている時間だろうか」
「そういえば、なんでお前『意識移動』使わなかったの?圧倒的にそっちの方がよくない?」
まあそうだな、と少女。
「私の『魔術』にも限度があってな、25階ともなると、ロビーからの移動でも数メートルのずれが出てしまうのだよ。しかも、我々の会議会場にはそういう『魔術』をさえぎるためのものがあるのだ、『意識防御』作のな」
なるほど、と晴樹は納得したようにうなずく。本当に納得したかどうかは置いといて。
そんなことを話しながら歩いていくと、件の会議会場、2504号室の前に着く。
コンコン、と軽くノックをする少女。
すると、中から声掛けられる。
「はーい」
と、間延びした女の人の声が聞こえて。
がちゃ、とドアが開いた。
「あらー。アールダちゃんじゃない。しかも連れの人はうわさの『第二計画』君?」
出てきたのは、女性だった。それも若い。大学生くらいだろうか。
典型的な日本人の特徴が複数あり、アールダとは対照的に胸が大きく、長い黒髪に目元にはホクロがあり、おっとりお姉さんを絵に描いたのならこの人!と言わんばかりの顔立ちだった。
身長も晴樹と同じくらいで、なんというか、可愛いな、と晴樹は思った。
そう思いながらも、自分噂されてたんすか、そっすか…と街中で厄災を振りまき、揚句保険にされていたということもあり、面倒くさそうに晴樹は愛想笑いを浮かべる。
「こんなところで立ち話もあれだし、どうぞどうぞ、入って」
中に入ると、セミダブルサイズのベッドが二つ。
キッチンがあり、立派なクローゼットまで備わっているようだった。
うわぁ…すげぇ…と、その一泊するだけで一か月分の食費が持って行かれそうな部屋を見渡して感嘆を上げた。
そして、ベッドに腰掛けている6人の『執行人』たち。
その二つの顔には見覚えがあった。
『意識切断』と『意識防御』である。その顔を見て晴樹はばつが悪そうに目をそらしてしまう。
そんな晴樹の様子を見ると、晴樹の杞憂なんてなんのその、ガッツリ英語で『意識切断』が話しかけてきた。
「おうおう、気にしんくていいからさ。ほら、座れよ」
そういうと、彼の隣の場所をバンバンと叩く。
もちろん。
学校の底辺に位置する高校生晴樹君に理解できるわけもなく、その様子はまるで怒っているように見えた。
そんな顔面蒼白の晴樹を見て、アールダはため息を一つ吐き、『意識切断』の言っていることを翻訳し始めた。
晴樹はそれを聞くと、安堵をその顔に見せ、がっつり日本語で返した。
「いえ、大丈夫です。俺は立ったまんまでいいですよ」
愛想笑いを浮かべながらそんなことを言うと、『意識切断』の顔が蒼くなった。
もちろん。
日本語とかいうマイナー言語を軽々知っているわけもなく、晴樹の浮かべた笑みは作りものだということに気づき、何か脅しを言ってきているのではないか。そんな風に見えたらしい。
そんな顔面蒼白の『意識切断』を見て、アールダは重いため息を一つ吐き、晴樹の言っていることを翻訳し始めた。
『意識切断』はそれを聞くと、安堵をその顔に見せ、がっつり英語で…
「チッ…」
と、『意識切断』の発言を遮るように聞こえたのは殺意たっぷりの舌打ち。
アールダが放ったものだった。
二人は一瞬にしてその顔をまっ白にする。
ぎぎぎぎぎぎ…と錆びて動きづらくなった金属のように徐々にその頭を動かし、その御立腹らしき少女へ目線を向ける。
そこには、神をも振るいあがらせるような凄まじい表情をした少女が立っていた。
放たれる殺気が尋常でない。
そんな少女の様子を見て苦笑を浮かべる女子大生のお姉さん。
面倒くさそうに息を吐く『意識防御』。
と、そんな空気を一新するかのように、声がかかった。
「おい、始めるぞ」
そう聞こえると、アールダが放つプレッシャーとは違う、緊張が空間を駆け巡った。
おそらく、声を放ったのは『統率者』。
もちろん日本語ではないので、晴樹が何を言ったのか分かるはずがない。
ただ分かるのは、これから会議が始まるという事。ぴりっ、とした空気がそれを物語っていた。
「各々、収集した情報を提示してくれ」