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大罪の執行人  作者: 明天日
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罪状Ⅰ はじまり Now_Loading

がんばります

海に囲まれた都市、海淵市は街を津波などの被害から守るため、巨大な壁に覆われている。

 鳥取県の3分の1程度の面積にもかかわらず、人口は200万人程度。

 年齢層を問わず、様々な人々が暮らしている。

 海淵市を代表するもの、それはさきほど紹介した壁だろう。

 その壁は自然災害から街を守る用途の以外に、街の機密事項の保護にも使われているそう。この機密事項こそが、『世界の謎』の一つである。

 この海淵市はもともと、内陸部の開発などにより出てきた土砂によって海が埋め立てられてできた、埋め立て地である。

 日本最大の都市、東京からおよそ2時間。

 相模湾の一部がコンクリートジャングルと化していた。

 表向きには、『第2新宿計画』としてすさまじい速度で経済が発展した都市、と言われているが、この海淵市にはもう一つの『計画』の中枢として機能していた。

 

 その名を『才能開花計画』という。

 

 ここで言う『才能』とはスポーツが得意、勉強が得意などではなく、常人の身体能力とはかけ離れた新たな人材の発掘…表向きにはそういわれているが、発掘し育成するのがこの計画の真の目的。

 発掘、もともと人が生まれもつ表向きの才能とは違う、言うならば裏側の『才能』、それを発掘することである。

 そもそも、ここでいう『才能』とは表向きの才能と似て非なるものである。

 表向きの才能ならば、おのずとその才能を自覚するであろう。それは周りの環境がそうしているからだ。

 例えば、勉強なら義務教育やらなんやらで嫌でもやらされる。そこにおいて才能という物が発揮される。

 では、裏側の『才能』は?

 それは普段気付くことができない...気づく機会がないことである。

 普段生きていて気づくことのできない常人の身体能力とはかけ離れたモノ、それを海淵市の才能開花計画では自覚させ、その育成を育て上げる。

 常人の身体能力とはかけ離れたモノ、それは何か。

 例を挙げると、炎を出せることや、電気を操る等。これは身体能力などの話ではない。本来人間にはないモノである。『新人類』とでも呼ぼうか。

 この『新人類』を海淵市では才能者と呼んだ。

 もちろんこの『新人類』の育成方法は国家機密並の機密事項。

 仮説はさまざまな国の機関が調べ、実践しようとした。

 だが、それらはすべて失敗。そもそも無理なのだ。

 人間にはふつうありえない、『いままで』の常識ならば。

 これは生まれたばかりの赤ん坊に東大入試を行わせるようなものである。結果は火を見るより明らかだろう。

 だが、ほぼ100%無理な所業をなす者が現れたのはおよそ30年前。

 名をフーリンという。

 その男はいかにも高級そうなカップに口をつけ、紅茶を愉しんでいた。


「ふぅ…」


 カチン、とわずかな音を立て、カップを皿へ置く。

 防壁に囲まれたコンクリートジャングル、海淵市のその中心部のビルにその男はいた。

 クー・フーリン。

 ケルト神話における半神半人の英雄と同じ名を冠す男。

 典型的な高級マンションとは違う、異様な雰囲気を放つ一室に彼はいた。

 そばには誰もいない、もう外は夕暮れ時、窓の外から差し込む夕日が美しい。

 そんな孤独を象徴するかのようなシチュエーションの中、彼は口を開いた。


「遅いぞ、『フェンリル』」

『すまないな、すこし「面倒事」が起きたのでな』


 相変わらずフーリンのそばには誰もおらず、一室に声だけが響く。

 フェンリル、そう呼ばれたのは北欧神話におけるオオカミの姿をした怪物である。

 また、その名の意味を『地を揺らす者』。

 この二人(一人と一匹か)がこの街のある種改革者である。


「件の少年の動きはどうだ」

『ふむ…正直不安だ』

「あれは今まで見た中でかなり特異性がある、というかありすぎる」

『重々承知している。彼は危険だ』

「…」


 この街の改革者たちをも黙らせる少年、それが世界とともに動き出す。


 西晴樹は海淵市の最南端にある高校に通っていた。

 補足説明を行うと、この海淵市には約30の小学校、13の中学校に6つの高校、

そして一つの大学がある。

 何でもそろっているのがこの海淵市である。

 最南端にある高校の名を、海淵南部高校。晴樹はそこの2年生だ。

 海淵市の中では中くらいの学力。

 南部には商業施設も多いということで、生徒数はかなり多い。

 そんな海淵南部中学校2年C組西晴樹は血走った目で問題集とにらめっこ、右手はシャーペンと切っても切れない縁となっており、その左手には10秒で栄養をチャージできる超画期的栄養補給ゼリーがあった。

 ジュジュジュジュジュ…5秒でそのゼリーを飲み干すと、亡骸をサイドにかけてあるカバンの中へすさまじい勢いで突っ込む。

 その様子を見ていた晴樹の友人の沖仁志が心配そうな目をし、こちらへ来た。


「だいじょうぶ?晴樹、そんなテストの点数まずかったっけ?」


 突如かけられた声に晴樹は…


「うるせえ黙れぶっ飛ばすぞ」

「うっわあ…怖えぇ、なんとなく察したわ」


 挑発交じりに沖がそう言うので晴樹は無言のまま、その左手を沖の方へ出した、それだけだった。


 ゴボォ!!と、その手のひらを中心に軽い爆発が起こった。



「アッツ!!おいっ!ゴルァてめえ!」


 爆発をもろに食らった沖はそう叫んだ。

 だがその声に怒りはない、まるでいつもこんな調子だと言わんばかりに嬉しそうにも聞こえた。


「…はぁ。無駄にうるさくするなよ、察しがついたなら死体蹴りなんてやめろ」

「晴樹がいつもの調子でよかったわ。ま、無理しない程度にがんばりや」


 クラスメイトも特に爆発を気にする様子もなかった。

 これが『才能』である。

 軽い爆発を起こす、正確にはその射出点を作る。

 この才能のある場所。それは人間の奥底、いやもっと正しい表現をするならば『裏側』である。

 どれだけ深く掘り進めても出てこない物は出てこない。

 『才能』は一つ壁を隔てたその裏側、そこにあった。


「…フッ」


 そんないつも通りワイワイガヤガヤやっている馬鹿どもの影で、薄く笑う者が一人。


 放課後、家へ帰るべく、下駄箱へ向かう晴樹。

 晴樹は顔も性格もいたって平凡、ありふれた高校生だ。

 そんな晴樹が下駄箱にラブレターなんて鉄板中の鉄板を引き当てるわけもなく、反射動作のように上履きを入れ、下履きをだし、さびれた扉を閉める。

 靴を履き、校門を出ると、さっきまでの騒音がなかったかのような静寂が待っている…わけもなく、今日も今日とて昼休みに問題集とにらめっこしていたバカは同じく赤点ギリギリ、というかすでに赤点を取っているであろう馬鹿どもとともにカラオケへ向かうのだった。

 おや?家へ帰るつもりではなかったか?そんなくだらない疑問は今の晴樹に通用しない。

 今の事象は今の自分に、未来の事象は未来の自分に任せる未来がない晴樹君は目の前にある選択肢の中で一番楽しいことだけを選ぶのだ。

 そんな家へ帰って勉強なんて片苦しいことは優先順位最下位である。

 だが、すべての選択肢が選べるわけではなかった。

 カラオケに向かう途中のことだ。

 ブルリッ、と背筋が凍るような感覚に襲われたのは晴樹。

 本能的に危険を察知したのか、体温が急激に下がっていくのがわかる。


「まずっ…!?」

 

 警告を口に出そうと思ったが間に合わなかった。

 ビルとビルの隙間から何かが飛んできた。

 その『モノ』は歩道と車道を分けるガードレールを軽々と壊し、そのままの勢いで車道を突っ切り、向かいのビルへ突っ込んだ。


「なん、だ…今の」


 そう呟いたのは沖だ。

 目の前での出来事をまだ処理できていないらしい。

 晴樹はそんな友人の戸惑いをよそに件の『モノ』が突っ込んだビルを見据えていた。

 まだある、なにかがある。

 そう晴樹の本能が言っている。

 と、突如『モノ』が突っ込んだビルから何か銀色のものが見えた。

 いや、ものとは言えない、それは物体ではなかった気がする。

 嫌な予感をガッツリ本能が捉えている中、誠に不幸なことに嫌な予感は的中してしまう。


 ボゴォォォッッッ!!!と、ビルの一階部分が爆ぜた。

 


「おおおおおお!!?」


 突然の爆音に通行人たちが本能的に叫ぶ。

 だが、事態はそれだけでは済まない。


 ビルが。

 その一階と二階部分が。

 すっぱりと切り離され。

 こちらに倒れてくる。



「ッく…!!!」


 晴樹は奥歯をかみしめる。

 およそ10階はあるビルだ、倒れれば少なからず晴樹たちは死ぬ。

 それだけで済めばいいが、必ずと言っていいだろう、二次災害の方が巨大になる。

 そして今は下校時間帯。下校中の生徒や晴樹達と同様放課後遊びに行く組がわんさかいる。


(どうする、ここで倒れれば...あ?)


 と。不意に、晴樹の思考が途切れる。

 その原因は現在進行形で倒れてきているビルにあった。

 

 ゴゴォォォッッ!!!!!という爆音とともに。

 その『巨体』が丸ごと吹き飛んだ。


 晴樹の視覚が正しければ、そのビルは後1、2秒で晴樹達を下敷きにしていたはずだ。

 それがいきなり…?

 軽々5000tは超すであろう巨体を…?

 一瞬で…?

 思考が追い付かない、どう考えても自分たちだけでは無理だ。

 晴樹はもう一度状況を整理する。

 自分たちはカラオケへ向かっていた。

 突然ビルが降ってきた。

 ビルが消えた。

 そうだ、到底自分たちだけではできない…


(自分たち…だけ、では?)


 晴樹は気付いた、まず前提条件が間違っていると。

 そう、誰が決めたのだろうか。こんな混乱に横やりを入れる奴がいないということを。

 そもそも横槍を入れられない方がおかしい。

 だんだん冷静さを取り戻していく晴樹は予想を立てる。


(たぶん、これは誰かと誰かの戦い、その一部。あくまでよそうだけど、さっきビルをぶっ壊したのは多分喧嘩を勃発させてる張本人だろうな)


 と、思考を巡らせる晴樹に思考を断ち切る声が聞こえた。


「おい、大丈夫か」


 まだ幼い、小学生か中学生かの境目くらいの女子の声だ。


「いやーまいった、混乱に乗じて逃走するとは」


 晴樹には何を言っているかわからなかった。

 そもそも声の主はどこだ?

 どこを探しても見当たらない、こんな時の定番である背が低すぎて見えなかった、ではないか?と晴樹は思い、腰を屈めて探してみるも、どうも見つからない。


「おい少年、地上を探しても私はいないぞ。失礼なことをするな」


 どうやら少女は自分を観測できる地点にいるらしい、どこだ?


(ビルを吹き飛ばせて、俺のことがよく観測できる場所…ハッ!)


 晴樹は首を思い切る跳ねさせるような形で、上を勢いよく向く。

 そこには首だけをひょこっ、と出し下を向いている少女がいた。


「やっと気づいたか」


 と少女が言うと、ビルの上にはもうすでに少女はいなかった。


「…?」


 晴樹が疑問に思うと、また幼い女の子の声が横から聞こえてきた。


「いやー済まないな、巻き込んでしまって」

「え、あ、はい。え…?」


 いまいち状況を呑み込めていない晴樹。

 それもそのはずだ、この少女、なんとビキニ。

 茶色がかったショートヘアに、蒼い眼。

 少し日焼けしている肌に、布面積がかなり小さいビキニを着ている。

 その肩にはあほみたいに口径がでかいバズーカを担ぎ、(まったくと言っていいほどない)胸を張って、目の前に立っていた。


「いつの間にここへ移動した?なんで水着?なんでそんな不似合いな武器を抱えてんの?」

「質問攻めにしてくれるな…一つ一つ説明しないといけないのか?この街は『こんなやつら』がたくさんいると聞いたがな」

「才能者のことか?いまいち俺はそういうのに詳しくないんだ」


 晴樹自身が才能者だというのに把握していないとは何事か。

 だが、仕方ない所もあるだろう。才能者は数十人に一人いるかどうか、それ故に才能者同士の接触というのは限られた場合でしか起こらない。

 話を戻そう。この子の少女、どうやらさっきの口調振りからこの街の住人ではないらしい。そしてある種の能力を使えることも把握できた。


「…まあいい。説明するのも面倒くさいが『やる』しかないのか」

「どういうことだ?なにをやるんだ」


 貴様らが知る必要はない、と少女が呟くと…


 少女から。

 そのバズーカではない、そのショットガンから。

 銃弾が、晴樹に向かって。

 撃たれた。


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