短剣の約束
ドギマギしてます
俺とフィルは着々と酒場の洗い物をかたずけていく。
キッチンには水浴び部屋と同じ水を貯めておくタンクとその水を出すためのホースがあった。
スポンジは……これかな?
貯水タンクに引っ掛けてあった硬い毛が丸まっている、黒いタワシが置いてあった。
これで皿とかって洗っていいのかな? なんか傷つきそうだけど。
「なぁフィル。お皿ってこれで洗うの?」
「え、えっと。そうだよ!」
フィルが慌てて俺の方を向いて答える。
その間も目が合うことはなくフィルは照れ臭そうにうつむいていた。
と、とりあえず皿洗いでもしてるか。
フィルと会ってまだ三日……一日が濃すぎて実感なかったけどまだ三日なんだよな。
その中でこんなフィルは見たことないし、でも年相応って感じなのか。
マランさんに何されるか……恐ろしいな。
「カ、カミシロ! 私先に水浴び部屋に入るね!」
フィルはそう言って地下に行ってしまった。
「うーん、どうしようかなぁ」
こっちの世界では分からないけど、前世だったら犯罪ギリギリのことをしている気がする。
てかフィルって何歳なんだろうな。
意外とロペさんとか見たいに年齢が見た目より上だとかあるかもしれないし。
でもそういう軽い問題でもないしなぁ。
あ、ロペさんに同じ小刀を持っている意味を聞くの忘れた。
ほんと……どうしようかなぁ。
俺はそんなことを考えながら洗い物をしていたらすぐに終わった。
とりあえず片付けは終わったし。俺も地下にいくか。
俺は持ってきたギター一式を担ぎながら地下に向かった。
「おーい、フィル?」
俺は地下に入ってまずフィルに声をかける。
だが返事は帰ってくることはなかった。
まぁまだ水浴び部屋にいるみたいだし。
「さて、どうするかな」
俺はギターを本棚の横に立てかけてロペさんの図鑑を一冊取り出して読んでみた。
といってもこの世界の文字が読めるわけでは無いので絵を眺めながらペラペラとめくることしかできないけど。
いつかこういう風に、俺の場合だったら様々なところで弾き語りしながら旅してみたいなぁ。
でもそうするとこの町を去らなきゃいけないし、部隊の人とも離れ離れか。
いいことばかりじゃないんだよな。
でもその時に誰かついていてくれると嬉しいんだけどな。
俺はロペさんの図鑑を眺めながら図鑑となんにも関係ないことを考えていた。
「うーん、どうするかなぁ」
俺は図鑑を閉じて大きく伸びをした。
「ね、ねえカミシロ」
するといつの間にかフィルが俺の隣に立っていた。
「そのさ、カミシロは待っていてくれる?」
フィルは緊張しているからか喋り方がいつもと違った。
だから俺は黙ってフィルのことを見る。
「私は絶対にあの短剣を壊さないから……だから大人になったらさ……」
……短剣を渡したらそういう感じの意味になるのか。
ただ……フィルはまっすぐな目で俺のことを見てくる。
それに断る理由がないっていうのはちょっとクズっぽいが……大人になったらマランさんも認めてくれるだろうか。
まぁ何にせよもう少しお互いのことを知らないとな。
「……そうだな。それまでにお互いをよく知らないとな」
「うん! そうだよね! あ、後今日はごめんね。ちょっとびっくりしちゃってさ」
フィルが照れ臭そうにしている。
なんだか学生時代に戻ったような。
まぁ何とか仲は戻ったけど。
いい加減短剣を揃える意味を知りたいな。
まぁでも今じゃなくてもいいか。
「全然気にしてなよ。さて、俺は水浴び部屋に行こうかな」
俺は図鑑を戻してクローゼットから寝間着替わりのバスローブとタオルを取り出す。
「わかったユゥ……カミシロ!」
今、下の名前で呼ぼうとしてなかった。
……なんかいいなって思ってる俺がいるな。
てか俺もむずがゆくなってくるな。
俺はそんなことを考えながら水浴び部屋に入った。




