俺のギターが全く別物になってるんだけど
神代は不思議な森の中に迷い込んだようですよ
「母様ー起きたみたいだよー」
俺はかわいらしい銀色の子狐に爪でチクチクされながら起こされた。
まぁ太陽の光で銀狐というのかはわからないけど、なんだか太陽の光に反射して銀の毛並みが神々しさを放っていた。
「あなたがカミシロ ユウですか?」
そのかわいらしい銀狐の後ろにはアニメやゲームなどで中ボスとして出てきそうな威圧感を放つ九本の尻尾をもつ狐が俺の名前を口にした。
……えーと。ここはどこなんだろうなぁ? 周りをみても木ばっかりっていうか。
意識がある時は夜だったはずだし、それにダウンを着ていると暑苦しいぐらいだなぁ。
てかギターを背負ってるせいでうつ伏せだし、口に土が入るし。
ってかさっきまで東京の都心の方にいて地面はアスファルトとか人口的な道路のはずだったんだけどな。
「ちょっと。無視しないでもらえますか?」
目の前の化けも……いや九尾と呼ぼう。九尾が困ったように目を細めている。
「ええっと、無視していたわけではなくて……急な環境の変化に頭が追い付いてないっていうか……あ、俺は神代優っていいますよ」
まぁなんで俺の名前を知っているのかわからないけどね。
「あぁ……人違いじゃなくてよかった」
「もー母様。こんな珍しい恰好してるんだから間違うはずないよ」
ホッと一安心している九尾に少しあきれる子狐……なんだか立場が逆のような気がするな。
俺はいつまでも寝っ転がっているわけにもいかないのでとりあえず起き上がり、ギターを下ろして暑苦しいダウンを脱いだ。
正直パーカーも脱いでしまいたいが、あまり手荷物を増やしたくないので我慢した。
「さて……ようこそカミシロ ユウさん」
九尾はお寺に置いてあるお稲荷さんのように背筋をピンとする。
まじまじと見てみると、本当に神様とあったような気分になった。
「そんなにまじまじと見られると照れてしまいます」
逆光で顔がよく見えないが、きっと照れているのだろう。
声の感じからして女性? なのかな。あんまりジロジロと見るのはよくないな。
「あぁすいません。それで……ここは?」
「えーっとですね。なにも説明を聞いてないのですか?」
九尾が困ったようにあたふたしているのがわかる。
「なにも聞いてないですね」
「そうですか……私も今日異界の旅人が来ると聞いただけなので」
「異界の旅人ですか」
なんだか中学生が夜中に思いついたような名前だな。
「まぁ異界の旅人と言っても……脅威になるスキルなど持ってないようですし。そのよくわからない黒いものからも脅威を全く感じないですし」
九尾はそう言って俺のギターや地面に転がっているエフェクターボードなどを爪で軽く突いている。
まぁギターに脅威はないだろうし。脅威なんてギターで物理攻撃とかしかないだろうしなぁ。
「まぁ危険なんて無いと思いますよ」
「そうですか。でしたら……フィル、カミシロ ユウさんを町に連れて行ってあげてください」
「はーいって母様はいかないの?」
「私は……守護で忙しいので。 カミシロ ユウさんもまた会えたら」
九尾はそう言い残して森の奥へと歩いて行ってしまった。
……もうちょっと話してみたかったけどなぁ。
「それじゃあカミシロ ユウ。案内するからついてきて」
子狐……九尾はフィルと呼んでいたけど。
「えーと、そんなフルネームで呼ばなくも……そうだね神代ってよんで。君はなんて呼べばいい?」
あんまりフルネームで呼ばれるのは慣れてないし呼ぶ方も大変だろうし。
まぁ苗字なのは……ただの気まぐれだけどな。
「うん! カミシロだね! わかったよ! 私のことはフィルって呼んで!」
フィルは元気いっぱいな自己紹介をする。
年相応って感じだな。
まぁ見た目が人の姿じゃないから何歳なのか検討がつかないけどな。
「それじゃあカミシロ、いこっか」
フィルは九尾と真逆のほうへ歩いて行った。それもかなりのスピードで。
「ちょっとまって……」
俺はギターを背負い、地面に転がっている機材を拾って手に持っていたダウンを肩にかけた。
「おいてくよー」
かなり遠くに行ったのか、フィル自身が小さいからかわからないけどとても遠くに行ったように感じる。
「まって……せめてダウンとか持ってって無理だよなぁ」
するとフィルはテトテトと俺のところに戻ってきた。
「仕方がないなー」
仕方がないって持ってくれるのかってどうやってもつんだろう。
フィルは宙で一回転をする。するとその姿は人間の女の子になっていた。ただ人間にはない狐の尻尾と耳がついていた。
それに丈が長いオレンジ色のワンピースを着ていた。それに見たことのない花のような首飾りが太陽の光にあたって……とても似合っていた。
「その黒い箱代わりに持つよ?」
「あ……あぁ」
俺は言われるがままエフェクターボードを渡す。女の子に荷物を持たせるのは最低かもしれないが。ただそんなことを考える前に……俺はただ唖然と人間になったフィルを見ていた。
「うわ! 結構ずっしりくるね。これ、なにがはいってるの?」
「えーと、その前にいまのは?」
「え? カミシロはしらないの? 人型に姿を変えるスキルだよ?」
まるで知っていてさも当たり前のような言い方をしてくる。
スキルか、魔法じゃないんだな。
「スキルかぁ。 うーん、いや凄いなぁ」
「そんなことよりさ。これって何が入ってるの?」
俺にとってはそんなことで済まされないのだが……フィルにとってはこっちの方が気になるみたいだ。
「これ? エフェクターボードって言って、この後ろに背負っているギターの音を変えるものなんだ。 そうだ、実際に弾いてみようか?」
「うん! 聞いてみたい」
公園などでギターを弾いたことはあるが……こんな山の奥で弾いたことは1度もない。
なんだかミュージックビデオの撮影みたいな気分になる。
「ちょっと待ってね」
そう言って俺は背負っていたギターをケースから出す。
すると思いもよらない……なんだか禍々しいと言うか……そんなオーラをギターが放っていた。
ギターをあけた瞬間、突然突風が吹いた
「カミシロ ユウ! それはなんですか!」
するといきなり背後から九尾の声が聞こえる。その声はとても焦っているような感じがする。
「えっとこれは……」
俺は背後にいる九尾の姿を見る。
すると九尾は白銀の毛を逆立てて、俺の事を睨んでいる。それに敵意のようなものを向けている。
「はっ母様!? なんでそんな怒ってるんですか!」
「先程は何も感じなかったのに……それにここまで強いオーラを放つ魔装は見たことがない! やはり人族の手先ですか!?」
九尾は随分と荒ぶっている。先程までの穏やかさはなく何か恐れているような……それに答えなさいと言いながらもしゃべらせる気などないかのような……
「これは……俺もよくわからないですけど。別になにか悪さをしようとしているわけじゃ」
俺はそういいながらギターに触れて安全と伝えようとする。
「でしたらその禍々しいオーラを消すことができますか?」
九尾が淡々と言ってくる。
「できないようですね。……失礼ですが私にはこのコルスの町を守る使命がありますので!」
九尾が吠える。そのせいで空気が震える。
……うわー、これはなんか死ぬ気がするってか……もしかしてこのギターに危機を回避する力でもあるのかなぁ? まぁこのギターのせいで色々困ったことになっているんだけど。
俺はギターのボリュームの所を無駄にいじったりする。しかしあたりになにか変化が起こるわけでもなかった。
「貫通氷柱!!」
九尾がそう叫ぶと肌が少し痛くなるような風が吹いてつい目をつむってしまった。
目を開けたらあたりには大きなとんがった無数の氷が九尾のあたりを浮遊している。
「これもあの方との約束のため……行きなさい!!」
九尾が号令をかけたとたんに無数の氷が俺をめがけて飛来する。それもギリギリ目で追えるほどの速さで。
こんなん当たったら……一発でお陀仏じゃん! 多分。
「母様! ごめんなさい! 吹雪」
しかし、九尾が飛ばしてきた氷は一発も当たることはなかった。……一発俺の顔に当たりそうだったが。目の前に氷の竜巻がおこり、九尾が飛ばした氷は粉々になった。
俺はこの一連の光景を前に情けなく腰が抜けてしまった。
……なんのアニメだよ。
「この人は異界の旅人なんでしょ! なら敵かわかんないし! なにより殺す必要はないよ!」
フィルが俺のことをかばうように立ちはだかる。
殺すって……やっぱりやばかったのか。
「あなたが私にそこまで言うとは…………わかりました。どうやらその魔装からオーラは消えているみたいですし」
すると俺の目の前にあるギターはいつも通りのギターに戻っていた。
「しかし、人族の疑いが晴れたわけではありませんしね。フィル、この人を見張りなさい」
「わかった!」
フィルは元気よく返事をする。
「いいでしょう。……カミシロ ユウ、もし町やフィルになにかしたら……わかってますね」
九尾は俺のことをぎろりと睨みつけてきた。
「はっはい」
ついつい声が裏返ってしまった。
「……では、わたしは守護の仕事があるので。 カミシロ ユウ、いつでもあなたを見ていますからね」
そういうと九尾はここから姿を忽然と消した。まるで忍者のようだった。
「……あー、こわかったぁ。初めてあんなに怒ってるの見たかも」
フィルはそう言って地面にへたり込んだ。
「うーん。ただのギターのはずなんだけどな」
俺はもう一度ギターを見る。もうさっきのような禍々しいオーラを放つことはなかった。
「また今度の機会にしよっか」
「うーん、そうだね」
俺はギターを素早くケースの中にしまった。
「じゃあ行っか……って立てないや」
そういってフィルは苦笑いをする。
見た目はまだ十二歳ぐらいの子に……怖かっただろうに。
俺はさっき会ったばかりの人をこんな風に助けられるかな。
「どうしたのカミシロ?」
フィルが俺の顔を覗いてくる。
「あぁいや。ありがとう」
「ううん! 気にしないで!」
そう言ってフィルは元気よく立ち上がった。
「立てる?」
俺ばっかり情けない恰好はできないしな。
「大丈夫だよ」
俺は”よっこらせ”と言って立ち上がる。
「それじゃあいこっか!」
フィルはエフェクターボードを持ってくれている。
本当にいい子だなぁ。
「そうだね」
俺とフィルは町に向かって歩き始めた
今回はエフェクターボードについて!
エフェクターボードと言うのは中にエフェクターを入れて持ち運ぶためのものだと思っています!
見た目など多くありますが基本はアルミ製のアタッシュケース……よく100万円とか入ってそうなバックみたいなやつです!
これが重いんですよね。
なので電車で見かけても優しくしてあげてください。