表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/15

天罰 (5/6)

 全世界に夜明けが来た。希望の朝だ。イコール俺の朝だ。控えおろう。

 俺はこれでも記憶力には自信がある。当然、ウサちゃんにぶっ飛ばされてのび太の俺は、あの怪しい施設の床に転がり、ウサちゃんの膝枕でキャハウフフと目が覚めた、はずだ。だがどうだ、此処は見覚えのある地獄の一丁目、俺の部屋ではないか。ウサちゃんの膝枕だと思っていたのは俺が積んでいた攻略ノートだ。俺は何に攻略されたというのだ?


 まあいい。深く考えるのはまだ早い。俺が自宅の部屋にいるということは誰かが俺の宮殿に侵入したということ。ならどうやって堅牢な我が城に? それは玄関のドアを開けたのだろう。では誰が俺を此処に拉致・監禁したのだ? 俺はその犯罪の手口を知る為に部屋中のあらゆる場所を捜索した。特に髪の毛が重要な手掛かりになるはずだ。それは長く、トリートメントの仄かな香りが残っているはず。犯人は、ズバリ、俺のストーカーだ。愛というベールに包まれ、善悪の区別がつかず人生を踏みはずそうとしている乙女の気持ちは十分に理解できよう。しかし、俺にも心の準備が必要だ。


 だが事件はそんな余裕は与えてはくれないようだ。俺の友、魔法の箱にトイレットペーパー1回分が挟まっている。犯人は、いや彼女は一体そのペーパーで何がしたかったのか、いや、トイレットペーパーだから使用目的は決まっている。だがここで新なる疑問が沸騰した。ファイア。そのペーパーは使用済みなのか否か。では、使用済みと仮定しよう。するとそれはアレなのか? アレがまだそこに。俺はそれに恐る恐る勇気を絞り出して掴んでみる。これが愚かな行為でなければ良いのだが。


 クンカクンカ。まずは匂いで危険度の判定だ。だが俺の高性能な鼻が生憎と昨夜の攻撃で正常に機能しないようだ。仕方ない、目視で観察しよう。そこには得体の知れない象形文字が記されていた。古代文明の発見だ。すると俺は時空を飛び越え過去に来たということか。俺は走って窓の外を覗き込んだ。う〜ん、何時もと変わらぬ風景。だがそれが偽りだとしたら。それは十分考えられる現象だ。あの空も雲も鳥も猫もエロいお姉ちゃんもデジタルで再現した精巧なCGだとしたら。なら俺は超未来に来てしまったのか? まあいい、象形文字の解読に挑もう。驚くのはそれからだ。


 象形文字には最初201と書いてあった。何になに、新記録を達成した。超光速タクシーで10分の壁を破り9分99秒で到着、とある。一体、どこが10分の壁をぶち壊したというのだ? まあいい。何になに、タクシー代、5億5千万請求する、とある。何だ、それポッチか、大した身代金だ。これで俺も5億の借金首になったようだ。鼻でもかんで捨ててしまおう。


 事情を知る唯一の証人であるウサちゃんに確認したいところだが、生憎、人質になった俺には連絡する手段がない。まして延々と歩いて行くのも面倒だ。こういう時は偶然にも向こうから来てはくれないものだろうか。しかし俺のアジトは世間には公表していない。仮に来れたとしたら、それは何者だ? 天使か神か、はたまたウサちゃんか。俺の後頭部にはまだウサちゃん膝枕の感触が残っている。


「ピンポーン」


 せっかく残っているウサちゃん膝枕の感触だ。それが気のせいだろうが夢だろうが、それは関係ない。俺はそう認識している時点で俺の勝ちなのである。この感触が消える前にそれを何度でも再生し一時の幸せを噛み締めようではないか。


「ピンポーン」


 思えば俺とウサちゃんとは切っても切れない『縁』があるのだ。ドラマティックな出会いと激しいスキンシップ。それは時に血を見ることもあった。歳こそ離れていはいるが、そんなもの、ほんの数ミリでしかない。そう、愛という魔法はどんな不可能でも可能にする。だから魔法なのだ。

 だが考えてもみよう。先程から聞こえる『ピンポーン』は人の声である。我が城の城門にはインターフォンなどという不便な装置は無い。あんなもので気軽に衛兵を呼ばれては経費がかかってしょうがない。そう、節約こそが美徳であり大富豪への第一歩なのである。

 だが考えてもみよう。どこかで聞き覚えのある音声だった。周波数的にも俺の記録に一致するものが存在する。なら逆再生して解析してみよう。『私よ〜、開けて〜』これでようやく理解することが出来そうだ。これでパターンマッチングすれば特定できる。


「ピンポーン」


 ほいきた! 俺はダッシュをキメ、城門をぶち破った。いちいち開けている暇はない。『ピンポーン』=『私よ〜、開けて〜』はウサちゃんの声と断定したからだ。


「おお、やっぱりいたかい」


 俺の目の前に立つその存在は、中途半端にハゲた頭にランニングシャツ、白いステテコに草履は履いた典型的な隣のおっさんだ。

 だが、おっさんのことなど、どうでも良い。いい歳こいてピンポンダッシュするおっさんなど相手にしている暇など無いのだ。


「ピンポーン」


『ピンポーン』=『私よ〜、開けて〜』はウサちゃんの声、の正体は、おっさんが手にする古風なラジカセが音源のようだ。なに? ラジカセとはなんだ? そうきたか。ラジカセとはラジオとカセットテープレコーダーが合体した複合装置のことだ。なに? カセットテープとはなんだ? いやらしい奴だな。カセットテープとは音をテープでぐるぐる巻きにして蹂躙し、それを小さな箱に詰めたものだ。それを転がすと程よい鳴き声が聞こえる仕組みになっている。勿論、あの声もバッチリだ。超古代文明が残した数少ないシロモノである。嘘だと思ったら検索してこい、嘘だから。

 では、尋問を始めようか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ