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天罰 (4/6)

 せっかくなので、例のおっさん……ではなく、俺とウサちゃんとの馴れ初めの話をしよう。俺の使命であるおっさんの話は後回しだ。

 そう、あれは冷たい風が吹く夜の公園で、俺が地面に這いつくばって寛いでいる時だった。何故地面かって? その方が風が当たらなくて都合が良いだろう。そんな時だ。


「お爺さん、大丈夫ですか?」


 そんな俺に声をかけてきたのがウサちゃんだ。ちなみに俺はお爺さんではない。暗がりでそう見えたにすぎない。ウサちゃんは今と同じ、シスターの格好をしていた。見えそうで見えない、そんなレベルを遥かに超えた遮断の武装だ。何人たりとも手出しは無用、そう、何も言わなくても分かる、一目瞭然、絶望レベルだ。


 俺は高みを望んだ。そう、見上げたのだ。普通、地面に横たわっていたらそうするだろう。だが、俺に情けは不要だ。何せ『希望』そのものなのだから。ということは『希望』を擬人化したのが俺というわけか? 否、俺は人から進化した究極の存在だ。いや、話が逸れてしまった。俺はギブミーチョコレートよろしく右手を差し出した。おい、さっきは情けは不要だと言ったばかりではないのか? バカをいうんじゃない。レディーの無償の愛を無下に出来る程、俺は腐ってはいない。どんなことだろうが俺は希望を見出す。だから俺は『希望』なのか。


「大丈夫だ。心配いらない」

「そうですか」


 ウサちゃんの性格はとてもアッサリとしている。そこが長所でもあり弱点でもある。俺の言葉を信用し切ってしまったのか、『あらそう』と行こうとするではないか。俺の遠回しの遠慮が誤解を生んでしまったようだ。誤解は直ぐに解かなければ大怪我をする、不幸への片道切符だ。そいつを手にする訳にはいかない。断固、乗車拒否だ。


 俺はウサちゃんの足首をガッツリと掴んだ。どんなに武装していようが、大抵足首は無防備のはず。完全武装で夜の公園を歩く者なぞいないはず。だが、大抵の事には例外がある。これがいい見本だ。足首をガッツリと掴んだの両手から血がファイアした。何てことはない、ウサちゃんはトゲトゲのブーツを履いていやがった。


 勝ち誇ったウサちゃんの顔が俺を蔑んでいる。正確には俺はまだ地面に這いつくばったままだ。まだ負けを認めたわけじゃない。俺はウサちゃんの安全を心配し、装備の点検を無料で行っただけだ。その結果、問題ないことが明確になった。これで俺も一安心というものだ。そのご褒美として勝利宣言を承った。


「お爺さん、お腹が空いたら施設に来てくださいね。ご馳走しますよ」


 これが俺とウサちゃんが交わした約束の全貌だ。おいそれと誰もが交わせる約束ではない。これを思い出すたびに手の内がうずきやがるぜ。


 ◇◇


「おい! 退けよ、おっさん」


 威勢のいい馬鹿者が俺に挑戦してきた。せっかく俺がウサちゃんと目と目を合わせている最中だというのに気の利かない奴だ。

 ちなみにだが、『ウサ』というのは俺が勝手にそう呼んでいるだけだ。本名は知らない。それではそれほど親しくないのかというと、そうでもない。俺が『ウサちゃん』と呼べば『は〜い』と応えてくれる間柄だ。ウサちゃんの名前は、あれだ、職業上の秘密になっているらしい。色々と各方面に知られると今の仕事がやり辛いそうだ。おっと、この辺に関しては俺の想像だ。

『ウサちゃん』の『ウサ』はその姿から取った。さっきも言ったように、ここにはバニーガールのような恥ずかしい格好をした者は居ない。当然、場所が場所だけに厳粛なイメージ作りが大切だ。その証にシスターの服を着ているのだが、一点だけ、ウサギ耳のカチューシャを身につけている。これが実にマッチしているではないか、この野郎。


 俺は威勢のいい馬鹿者を睨みつけ、おととい来やがれ、と念じた。だが俺の優しがが通じないらしい。執拗にその小汚い体を押し付けてくる。これが威勢ではなく異性であれば問題はない。だがお前は異性ではない、ただのゴミクズ野郎だ。俺はそいつの持つ食物を瞬時に平らげた。これで奴は並び直す必要がある。だから、おととい来やがれといったではないか。


「何すんだよ! おっさん」


 確かな教育を受けていないであろう馬鹿者は熱り立っている。この、全人類の希望である俺と交戦しようというのか。


「は〜い、そこ。喧嘩しないで〜」


 ウサちゃんがこの戦闘に待ったをかけてきた。ちなみにウサちゃんは背が高い。それが上げ底なのか実測なのかは知らんが、並の男達よりも高いだろう。そのウサちゃんがいつの間にか両手にタッパーを持ち、俺達の鼻を摘んでいる。これはかなりダメージがある戦法だ。それも上からなのでかなり効果的だ。おまけに摘んだ鼻を捻ってくる。一体その高度な技はどこで、どんな必要に迫られて会得したものなのか? ウサちゃんの悲しくも辛い過去が俺の中に流れ込んでくる。威勢のいい馬鹿者も同様なようだ。その目から汁がほとばしっているじゃないか。なんだ、こんなことぐらいで感動したのか。俺はまだこの位の揺さぶりには屈しないさ。だが、心と体は同調しないようだ。俺の負けん気もウサちゃんのパワーには勝てないらしい。捻られ押され、最後の突きで俺達は仲良く吹き飛ばされた。これが喧嘩両成敗というやつか。


「喧嘩したら、お預けですよ〜」


 ウサちゃんの無双ぶりは半端ないようだ。そのスマイル、その笑顔、その微笑み、油断も隙もあったもんじゃない。それで思い出した事がある。俺がウサちゃんの名を呼べはウサちゃんはそれに応えると言ったのを覚えているだろうか。つまりはそういう間柄なのだが、その実、俺はウサちゃんの名付け親だということだ。それは親子関係が構築されているということである。だが本当の親子ではない。義理の親子だ。つまりは、そういう美味しいポジションを俺は獲得している。何が美味しいのかは想像に任せよう。おっと、もう時間のようだ。頭がクラクラしてきたので、そろそろノックアウトしよう、お休み。


 ◇

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