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停電

 飛ばされて行くおっさんの記憶を辿ると、何やらその先が真っ黒で何も思い出せないでいる。これはもしや記憶が飛んでいるのか、それとも消えてしまったのか。俺のお楽しみは此れからだというのに、なんてこったい。一層のこと、おっさんの事は飛ばしても構わないと思うのだが、どうしたものか。


 そんな困った俺に一通のメールが届く。それは物理的にメールが届いたわけではない。そのメールを読んでいる記憶が突如として割り込んできたのだ。俺は忙しい、それどころではないのだが、もしや差出人は、と内容よりもそっちの方が気になるものである。


 だがしかし、差出人の項目などは無く俺をがっかりさせる。仕方ないのでそのまま削除すると、またメールが舞い込んでくる、しつこい迷惑メールだ。因みにメールを読んで欲しい場合、それも相手が自分よりも立場が上の場合、何度も送るのも有りらしい。それは送ったメールを無視しているのではなく、単に気がついていないかもしれないからだ。ということは俺の方が立場が上なのだろう、どの位高いのだろうか。


 仕方あるまい。送り主の情熱に勘弁して読んでやろうではないか。その前にウィルスチェックは重要だ。添付ファイルは無い、完全に文字だけのようだ。感染予防の注射も幼い頃に打った覚えがある。では開封だ。オープン。


 文面は個人情報に当たるので晒せないが内容は、こんな感じだ。

 よう、元気かい。俺か? 俺のことはよせ、深く詮索しない方が身のためだ。ここで訂正したいことがある。そうだ、例の件だ。奴が雷を受けて部屋を出た、と記憶しているようだが、それは間違い、俺は無実だ、何もしていない。以上だ。尚、何も無いことを証明することは出来ない、分かるな、分かるよな。


 こんな感じと言いつつ、全てを紹介してしまった。まあ、問題のある文では無いので良しとしよう。


 例の件とはアパートの一室でおっさんが上司からの最後の一撃で逃げる場面だ。この『上司からの最後の一撃』が、そんな事象は無かったと申し立てをしている。そんな事は俺にとっては、どうでも良い事だ。されどそれを解消しない限り俺の記憶が正しく再生されないらしい。という事はメールの差出人は上司となる、おっと、詮索してはならないらしい。では仕方ないので記憶のバグ取りを始めよう。


 攻略ノートから文字列を追う。既に所々判別不能で読めなくなってはいるが、これは俺の字が汚いからではない。違う文字を書き込んだせいである。それでは先を急ごう。『最後の一撃』とはズバリ雷のことではないのか。それが違うというとは何だろう。おっさんの部屋の屋根は半分しかない。よく空が見えるものだ。そこを見上げて光るもの、光るもので探すと、あったぞ。雷ゴロゴロで暗い部屋なのに、というのは俺の先入観だ。何せ俺の部屋は日が暮れたり天気が悪いと暗いものだ。その延長線に考えていた俺のミスらしい。おっさんは屋根が半分だというのに照明を点けていたのだ。成る程、そうか。


 電気という危険要素を排除した俺の宮殿と違い、おっさんの部屋は無防備だ。そこに雷ゴロゴロでは油に火を投げ込むようなもの。雷と言うより、それに伴う雨が半分の天井を濡らし、それに我慢できなくなった照明が不満を一気に爆発させたようだ。上の方でビシバシ火花が散れば、それを雷と誤認しても誰も罪には問えないだろう。ということで謎は解け、俺は無罪放免だ。


 これで俺の記憶も元に戻ることだろう。さあ、目を閉じその先の世界へ……が、まだ真っ暗なままだ。どうしたんだこの野郎、と思った瞬間、記憶が勢い良く飛び出してきた。早速、攻略ノートにペンを走らせる俺だ。

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