第64話.設楽三兄弟【1】
我が校はお金持ちのお嬢様お坊っちゃまが90%くらい、残りは一般家庭のお嬢ちゃんお坊っちゃんである。
お金持ちなら楽器の1つや2つ奏でられなきゃねという偏見なのか、授業には楽器を弾かなければならないものもあり、上手く演奏出来なければ勿論テストに合格出来ない。
家に楽器が既に有る、もしくは授業のために新たに買える家庭は問題ないが、一般家庭では厳しい。
将来音楽家目指しているなら兎も角、我が校は別に音楽学校なんてものじゃないので、一般家庭の生徒が家で態々楽器を買うことは皆無だ。
じゃあ家に楽器がない生徒はテストどうすれば良いのかと言えば、楽器のない生徒のため、ちゃんと学校に練習する場所が設けられている。
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楽器など触れたことがなかったとしたら、奏でるメロディーは聴き苦しいものになるのは仕方ないにしても、他人からすればそんなことは知ったことではなく、雑音以外の何でもない。
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練習する側としても、こんなに頑張ってんだぜ的姿勢を見せつけ、頑張りやさんだね(ハート)等の言葉を欲しがりなタイプを除き、たどたどしい音色を他人に聴かれたくないと思うのが普通だと思うので、そんな普通の人々と、雑音聴きたくない人々のため、しっかり防音対策がされているわけで、間違ってもヴァイオリンの音が廊下に漏れ出すことはない。ーーちょっぴりドアや窓を敢えて開けておくとかしなければ。
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いやらしい。実にいやらしい細工である。
ちょっぴり開いたドアからは淀みなく流れるヴァイオリンの調べ。思わず『誰が?』と音色に導かれて顔を確かめたくなるレベルの巧さ。
ああして誘き寄せて罠に嵌まった獲物を喰らうんですねわかります。
曲が終わり拍手が聴こえてきた。
どうやら獲物ゲットらしい。やりおる。
「すごーい設楽君!」
「…たいしたことないよ。」
密室には男女が居る模様。
「たいしたことあるって!誰が弾いてるのか気になるくらい上手だから!見に来て良かった。ふふっ、設楽君がヴァイオリン上手って知れたもん。」
ドアの前を通る時にチラリと室内を見ると、設楽 空の姿が。
我が校のイケメンの一角を担う三兄弟の末っ子だ。
一瞬目が合った。