第6話.ガーディアン萩原の天使守護日記
まだ好きだった頃
○月×日
今日も天使を守護するため側に控える。
勿論、優しい天使に余計な気を使わせないように、気付かれないようにだ。
天使の移動に合わせ行動。
生憎隣の個室が使用されていて、側で守護が出来ず、出入口が見え、且つ、出て来た相手に悟られない位置で天使が出て来るのを待つ。
天使が無事に教室へ戻るのを見届け、自分の教室へ戻った。
本日三度目の移動は、運良く個室を確保。
後から入って来たらしい女子数名が、天使が居ることも知らず、天使の悪口を言い始めた。
悪口を聞いている天使の心が、酷く傷付いたと思うと怒りが沸く。
後でどこのどいつか割り出し制裁してやろう。
放課後、天使の守護続行。
帰宅途中、天使が他校の男と合流。
誰にでも分け隔てなく、優しく出来、すぐに誰とでも仲良しになれてしまう尊敬すべき天使は、親しみを込め男の名を呼び、眩しい笑顔を惜し気もなく見せている。
少し抜けたところのある、どこか頼りない天使は、迷子になるのが怖いのか、男と手を繋ぎつつ歩き、とあるアパートへと入っていった。
男が天使に酷いことをしたり、または、命を狙う暗殺者の可能性もあり、人目につかない位置でアパートを見張り、耳を澄ます。
二人が入った部屋からは、ギシギシという音と荒い息づかい、そして圧し殺しつつも、漏れる天使の声。
漏れる天使の声を聞きながら、初めてこの声を聞いた日を思い出す。
男のアパートに入り暫くした頃、聞いたことのないような声を出す天使。
近くに控えていながら、天使を危険に晒したことを悔やみ、すぐさま部屋に突入した。
焦ってはいたが、敵に察知されるような愚は犯さない。
物音ひとつたてず、男の近くへ。
俺に背後を取られたことにも気付かず、男は
「…?」
何故か全裸で腰を振っていた。
天使はと言えば、四つん這いで、男に背を見せる形で、俺が外で聞いた声を出している。
「…」
暫し俺の中の情報を検索した結果。
ああ、これが所謂合体という行為か。
親密度MAXの相手と二人きりの時におこなったり、親密度をあげてる相手としたりする儀式だ。
それが分かった途端、何故か、重要な部分をガン見しなくてはならないような気がした。
ガン見しておかないと、後でなんだか恐ろしい目に合わされそうな、居てもたってもいられない、そんな気持ちに駆られ、俺は二人にバレないようにガン見し、フィニッシュまで見届けてから部屋を出た。
これできっと満足してくれるだろう。
…誰が?
その後二時間ほどしてから天使が出て来たのだった。
今ではアパートから天使の声が漏れ聞こえても、焦ったりしなくなった。
あれは天使なりの、人とより一層仲良くなるための儀式だと心得ている。
許されるなら、俺も天使と儀式をしてみたい。
間近で俺のために歌う、天使の喜びの歌を聴きたい。
けれど、いくら親密度をあげようと、俺にその資格がないことは分かっている。
出来ないことを嘆き悲しむつもりはない。
出来ないことがあるのなら、出来ることをすれば良い。
俺は、俺の出来ることで、天使と親密になろうと思う。