【3】
キッチンに立つ彼を見ると、慣れた様子でお茶の準備をしている。
家族が集まった時とか、彼がコーヒーや紅茶なんかを振る舞ってるのかな。
リビンクで彼の入れたお茶とお菓子を楽しみながら、話に花を咲かせる一家が目に浮かんだ。
そんな素敵な仲良し家族に、将来私も加われるのかと思うとちょっと顔が。
「・・・なんか良いことあった?」
「へっ!?」
手を止めた彼がこっちを見ていた。うわぁあっ、やだ!私ったら顔に出ちゃってた!?
「いや、あの、お、美味しいお菓子を想像してたの!そう!お菓子を!」
「もうちょいだから待ってて。」
「う、うん!」
優しげな微笑みで言われた。瞳は見えないけど、多分ものすごい優しい眼差しをしてそう!
うわぁあ、今のですっごい食いしん坊だって絶対思われた!!恥ずかしい!
恥ずかしさを誤魔化すようにソファから移動して、リビンクに置かれてる大きな水槽を眺める。
石柱に支えられた半壊した神殿、その横に立つ女神像。周辺には沈没船があり、海に沈んだ忘れられた神殿がテーマっぽい水槽の中を、熱帯魚が泳いでいる。
熱帯魚は誰の趣味なんだろう?彼なのかな?それとも家族の誰かだろうか。
少しだけ熱帯魚を眺めソファに腰をおろした。途端、暫く忘れ去っていた緊張感が甦ってきた。
気持ちを落ち着かせるため、今度は室内を眺める。ーー棚を飾るシンプルだけどセンスのある置物や観葉植物、落ち着いた色合いの家具。壁に嵌められた大きなテレビ・・・
何気ない顔した品々からは、高額の香りが立ち込めてる気がする。多分気のせいでも何でもなく、庶民が気軽に買えない物ばかりなんだろうと思う。ーー万が一壊しても、弁償なんて出来る気がしない。
この場所じゃなく、彼の部屋に今すぐ行きたい。彼の部屋ならリビングよりも多分高価な品が少ないはず!
彼の家に二人きりってだけでも緊張感がものすごいのに、高級品がそこかしこにあるってことが、更に私の緊張感を高める。
ふと室内に螺旋階段を発見。上階まであるの!?いったいここには何部屋あるの!?
「お待たせ。」
紅茶と焼き菓子を運んで来た彼が、ついに私の隣に腰をおろした。