第51話.地雷の10や20は誰にだってある
「「お待たせ」」
三原君に声をかけたら横の人と被った。
ベンチには三原君しか居ないのですが、エア待ち人ですか。
「俺も今来た「この娘も一緒なの?」
エア待ち人に声をかけてるのかと思ってたら、三原君と待ち合わせだった模様。私と一緒ですね。
自分の言葉に被せるように発言され、一瞬固まった後三原君が相手を見た。
「ええと…、誰ですか?」
待ち合わせじゃなかった。
「やだっ、冗談言わないでよ!」
待ち合わせだった。
拗ねた顔で肩パンされた三原君が、呻きながらよろけた。
ゴリラだ。メスゴリラが居る。
ゴリラとも友情を育める三原君の交友の広さに驚愕。
「ちょっと!大袈裟なリアクション止めなさいよ!ほらっ、シャンとしな!ーーごめんね~、コイツひ弱なんだよね!」
ゴリラと比べたら皆ひ弱だと思う。
「…あの、ほんと誰ですか?会ったことないですよね?」
「それまだ言うか!もういいよそのノリは!」
また殴られそうになり、今度は避けた。
「知り合いなのか知り合いじゃないのかはっきりしてほしいのですが。」
「全然知らない人。」
「もう!いい加減しつこい!ーー怒ってたのは知ってたけど、だからって知らないとかグダグダ言い続けるって酷くない!?そもそも私のせいじゃないの!私だって出来ることなら同じ中学行きたかったよ!でも子どもの我儘で片付けられて無理だったの!でも高校は同じだし、あの頃みたいに毎日側に居てあげるから安心して!」
「安心らしいよ。」
「安心の要素がまるでない件。」
このメスゴリラ、俺を誰かと間違えてるんだろうけど、人の話全然聞かず自分の都合の良いように脳内変換してそう。誰だか知らないが、付きまとわれてた人御愁傷様ーーと三原君は思った。
「いや、ゴリラとは思ってない。」
エスパーか。
もしくは私と三原君の思考が似ているーー何故今ちょっと嫌そうな顔したのか問いただしたい。
「ゴリラがどうしたの?ねぇ、そんなことより、私気がついちゃった!この状況って私の気を引くためでしょ。ふふっ、変わらないね。わざと他の女子を使ってヤキモチ焼かせようとするとこ!」
「そうなんだ?」
「違います。ーー予定の電車に乗り遅れたけど、次の電車ってすぐ来るかな。」
「次はー」
話ながら移動を始めたら、当たり前のようにゴリラが着いてきた。
このまま行くと『申し訳ございませんお客様、当館はゴリラ連れのお客様の入場はお断りしております』と、万が一ゴリラお断りルール適用だった場合お断りされてしまう。
訪問を楽しみにしているのにそれは困る。
「ねぇどこ行く?あ、もう出かけるとこ決めてある?まだなら私が決めたい!てか、この娘どうすんの?当たり前のように私達と行動してるんだけど。帰れって言いなさいよ。まさか言えないとか?もうっ、まったくヘタレなんだから!ちょっと聞いてる?ねぇ!ちょっと支配者!」
その瞬間、三原君の雰囲気が変わる。
「あ゛?」
支配者ーー名前欄にそう書かれていたら、おそらく大抵の人は二度見することだろう。私だって見る。
そしてクラスに居たら、確実に弄られるだろう。ーークラス替えの度に。
支配者と書いてレクトルと読む。それが三原君の名前だ。
三原君は自分の名前が好きではない。レクトルと名乗ったところで漢字のインパクトに負け、結局支配者の方が人々の心に残り、支配者とわざと呼ばれ弄られるのだ。
そんなわけで名前を書く時は三原レクトルと書くようになった三原君なのであった。
「どうしたの?支配者。」
まるで恫喝と暴力を生業にしている人のようなものを発し始めたので、ソッと三原君の袖口を握ると、何故かビクッとした。
「三原君。」
「…な、何でしょうか。」
「ここ、人目があるから、ね?」
言いたいこと解るよね?
暑いのか若干汗をかき始めた三原君は、目を逸らした。
「あ、あれは!」
「え?」
三原君が指差す方をゴリラさんが見た瞬間、私達は猛ダッシュしたのであった。