第45話.画期的、便利機能付き財布
鍵をかけて一拍後
「ちょっと!開けなさいよ!私にこんなマネしてただで済むと思ってんの!翔が黙ってないからね!覚悟しな!」
ドアをガンガン叩き、非常に近所迷惑な玩具である。多分使い込み過ぎて壊れたのだろう。買い替え時だと思う。
ガチャッ
「そうやって最初から素直に開けーーヒイッ」
近所以上に私に迷惑なのでドアを開け、穏やかな眼差しで見つめれば、何故かヒイッと言われた。
意味が解らない。
あ、そうか。今の私は本来の私じゃなかった。だから穏やかに見つめているつもりでも、そう見えずヒイッとか言われてしまうんだね。納得。
「今から食べるの。」
だから、どうして欲しいか分かるよね、と言う意味を込め見つめれば、何故か蒼白な顔が私を見てくる。
バタン
カチッ―
鍵をかけると、よろけてどこかに当たったような音の後、『いやぁあああーーー・・・』と言う叫び声が遠ざかって行った。
チラッと踞るーー、置かれている踏み台に目をやると、ヒイッと鳴った。
ヒイッてヤツがこの辺では流行っているようだ。頭悪そうな流行りだな。
蒼白に色を塗り替えた踏み台が逃げようとした為、踏んでやればグエッと音が鳴った。
「っ…て、めぇッ、汚ねぇ足を今すぐ退けぐぁふぉっ」
ちょっとグリッとしたら意味不明なメロディを奏でる踏み台。
なんとなく鍵を閉めたが、良く考えたら今から出掛けるんだった。
財布、財布。
「ちょっ、痛い痛いっ待っ」
踏み台からクラスチェンジした雰囲気イケメン財布を鷲掴み、アパートの階段を下りれば、賑やかな音が鳴ってるような気がするが空耳だろう。
「あだっ、うがっ、やめっ」
アパートから5分程の距離にコンビニが見える。良かった、近くにあって。
「ちょっ、マジ痛いから放せって!」
可笑しなことを言う。財布はしっかり身につけて置かねば、盗まれてしまうだろうに。多分、財布語の翻訳がちゃんと出来てないから意味が解らないのかもしれない。普通の人間に正確な財布語の翻訳は無理だから仕方ないね。
―ピポピポンッ―
「いらっしゃっ……い、ま……」
元気良く声を掛けてきた店員さんが、後半何故か微妙になり、店内に居た数名の客が、こっちを見た後すぐに目を逸らした。
おそらく髪の寝癖を見ない振りしてくれたのだろう。なんて思いやり溢れたお客さん達。
カゴに食べ物を入れまくり、レジで雰囲気イケメン財布をグイッと押し出せば、財布がお金を払う。お金を自動で払う財布って便利ですね。世の中は日々進歩し、いろいろ便利になったものだ。勿論財布は鷲掴んだままですが何か。だって盗まれたら困るし。
店員さんも私の便利財布をチラチラ見てたし、盗む気かもしれない。か弱い私には自衛手段がないから、後をつけられ奪われたらどうしようもない。
この街の治安に、若干の不安を覚えながらアパートへ帰宅した。