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【2】



耳をすませても静寂が存在するだけで、まるで世界が滅び、あたしだけが取り残されてしまったかのような気持ちになった。




ふと、昔観た映画を思い出す。



平穏で刺激とは無縁だけど、愛する家族と親しい仲間達に囲まれて、ささやかな幸せのある普通の日常を送っていた主人公。けれどそれは、主人公の寝かされていた装置が見せていた夢で、世界は当の昔に崩壊してたってストーリーだった。



そういえば、その映画の主人公は記憶が曖昧で、何故自分が装置に寝ているのかとか、解ってなかったな。



もしもあたしの日常が全部嘘だったら?



何かの装置が見せてた幻で、ちょっとした不具合が起きて就寝した記憶を見せないままになった結果が、今のあたしの状態だったら?




カーテンの向こうは終わった世界かもしれない…




すごく…怖い…。



確かめるのが怖い。




思い付いてしまった恐ろしい可能性に、気付かなかった振りで、ふわふわの布団を頭から被って夢の世界に逃げてしまいたい。




…だめ。


だめだよ。それじゃ…。



怖いから見て見ぬ振りなんて、何の解決にもならない。





例え世界が崩壊していようと、ゾンビで溢れていようと、確かめなくちゃ。




あたしは意を決し、正面のカーテンまでゆっくりと進んだ。




カーテンに手をかけ、開けようとして躊躇する。



何度それを繰り返しただろう。




自分の置かれてる状態を確かめるって決心したはずなのに、いざカーテンを開けようとしたらこれだ。臆病風に吹かれ、ぐずぐずと、少しでも先伸ばしにしようとする。



あたしは何時だってそうだ。決めた決めた言うけど、決心なんてしちゃいない。口先ばっかり。



訳の分からない状態になっても、ちっとも変わらない。



少しでも時間を稼いで誤魔化してれば、そのうちヒーローが現れて、何とかしてくれるかもって心のどこかで思ってる。



あたしは捕らわれのお姫様じゃない。


助けられ要員のヒロインでもないのに、都合良くヒーローなんて現れるわけないじゃない。




ええ、ええ、解ってます。解ってますよそんなこと。


だけど行動を起こせないんだから仕方ないじゃない。




物語の主人公なら、いつまでもぐずぐずしてないで、さっさと状況を確認して相応しい行動を取るんだろうな…。




これが小説で、あたしがこんなウダウダした話読んでたら、絶対、いい加減カーテン開けろって突っ込むわ。苛つきながら。




ああ、嫌だ。ほんと嫌だ。


カーテンなんか開けたくない。




あたしは主人公じゃないもの。このまま何もせずにいたい。ただ時間の流れるままに身を任せたい。




嫌だ嫌だ。



出そうになる溜め息をこらえ、今度こそ覚悟を決めカーテンを開けた。







と見せかけてやっぱ開けなーい。開けると思った?残念でしたー。わははははー…はぁ…。ふざけてみたけど全く気分は晴れなかった。



そして今度こそ本当に開けた。



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