第36話.だって男の子なんです≪三原≫
2棟並んだステーションビルと、隣接するように後方に建つビル3棟。
前後を繋ぐ通路、後方真ん中と片方だけ繋がっている通路。
3棟の4階から上は居住区になっていて、住人の半数以上が他国人というのもあり、このビル5棟に入っている店は、いろんな国の店が軒を連ねている。
もとはステーションビルが1棟だけだったが、新しく建てたり、横に、縦にと、継ぎ足し継ぎ足し建てていき、今の形になった。
入口を間違えると、目当ての店にたどり着けなかったり、ものすごく遠回りさせられたりと、かなり面倒な建物と言える。
入り組んだ通路、フロアを彩る雑多な店。意味は解らないが、響く陽気な言葉たち。一つ一つが異国感を漂わせ、5つのビルが架空の世界を作り出しているような、独特な空気。
気持ちをふわふわさせたりワクワクさせたりしてくれるから、俺は此処が好きだ。
因みに接客時は、この国の言葉でしてくれてるので、ちゃんと解る。
今日はそんなお気に入りの場所でもある、学校の最寄り駅――とは言ってもバスで20分くらいかかるが、ステーションビルに最近オープンしたジェラートショップ目当てでやって来た。
目当ての店の内装は、赤と黒のオシャレな感じで、ジェラートの並んだケース――店員さんの後ろのガラスの棚には、これまたオシャレな感じに、カップやコーンの入った模様の描かれた箱や、テイクアウト用の箱がディスプレーされている。
オープンしたてだからか、それとも店員さんの顔面偏差値のお陰なのか、店は大盛況だ。
女子がキャッキャしてるわ男子も鼻の下が伸びているわ。
店員さんを見れば色気のある美人だ。おまけに立派な2つのメロン――!?すばるさんや、な、なんで、このタイミングでこっち見るかな。
若干動揺してたのかもしれない。うっかり苦いジェラートを選んでしまった。あ~、失敗した。これは責められる気が。
もう一種類は、あげられるジェラートを選ぼう…。
「私が苦いの嫌いだって知ってるくせに、最低。これでは三原君のジェラートが食べられないじゃないですか。」
やっぱり責められた。
なんか理不尽なんですけど。
俺のジェラートが食えないってことから、イチャイチャ出来ないことに理由をチェンジしてきたけど、食えないことに舌打ちしたの解ってるんだからな。
「シャイな私はイチャイチャしたいなどとハッキリ言えず、少額で多種類食べたいと誤魔化して言ったのに、察してくれないなんて。結局、内心を赤裸々に語り、恥ずかしい願望を告げる羽目になった私に、E・狩場〈華麗なるマイマイの世界〉読書感想文を、原稿用紙20枚にまとめて捧げて欲しい。読まないけど。」
いや読めよ。万が一俺が真に受けて、書いてきたらどうすんだよ。原稿用紙20枚という大作を読んでもらえないとか泣くわ。勿論書かないけど。
でも、もし俺がホントに書いてきたら、どんな顔すんだろ?――いつもと変わらない顔で受け取り、なんの戸惑いもなくそのまま流れるような動作でゴミ箱行きだな。うん。
ジェラートを食べながら、ちょっと微妙そうだったから、美味くないのかと思えば、チョイスミスのせいらしかった。
何か食べる時、割りとよくやるミスだ。
俺の予想では、イチゴが好きで、イチゴが入ってるから注文して、注文した後に、他にもイチゴが入ってるのを発見して、『あ、イチゴ入ってる』ってなって注文する。
その時、既にイチゴ入ってるヤツ注文してるってことは記憶の彼方で、注文した後で、もうイチゴのヤツ頼んでたって思い出すってところかな。
アホの子か。
「人は過ちを繰り返す生き物。」
「うん、まぁ、そうだけど。」
どのジェラートが食べたいか聞かれ、ティラミスを選択。
そう言えば、気になる水族館があるって言ってたな。
本屋に寄っても良いって言われたら、隣のビルの本屋に行こう。