第35話.人は何故同じ過ちを繰り返してしまうのか【1】
この世に生まれ落ち、人生という長い道を進む過程で、必ず訪れるのが選択の時だ。
真面目に道を進む者、楽な道を選ぶ怠け者、他者に犠牲を強い、道を行く者。
どんな風に歩もうと、平等に訪れる選択。
私達は常に、数在る選択肢から、最善を選らばねばならない。
選択ミスをしても、後戻りは出来ないのだから。
だが、細心の注意を払っても、何時も最善を選べる訳もなく、誤った選択をしてしまうこともある。
寧ろ、選択を誤る方が多いかもしれない。
私達は、過ちを犯す生き物だ。
喉元過ぎればなんとやらで、過ちを犯したことなど、直ぐに忘却の彼方へ。
それでも、願わずにはいられない。
最良の選択肢を選びたいと。
目に見えることだけに惑わされず、奥に隠された真実をきちんと掌握し、その場その場で最善を尽くしたい。
「…三原君にはガッカリだよ。」
「何ですか急に。」
「ピスタチオは良いとして、何故、カカオソルベをチョイスしたのか。」
「なんでって、食べたい以外に何かあるとでも?」
「私が苦いの嫌いだって知ってるくせに、最低。これでは三原君のジェラートが食べられないじゃないですか。」
「自分の金で自分の食べたい物を選んだら、ちゃっかり人のジェラート食べる気満々のヤツに、責められるという理不尽。」
「三原君、ジェラートショップの醍醐味は、他人のジェラートを貰い、少ない金額で、いかに多くのフレーバーを食せるかにあるんだよ。」
自分のジェラート3種、三原君のジェラート2種の、計5種類食べるという当初の目的が駄目に――チッ
「てっきりカップルが『あ~ん』し合うのが醍醐味だと思ってた。」
「…三原君。三原君は、全然乙女心が解ってないね。『俺のヤツ美味いよ』『私のも美味しいわ』という前振りのもと、如何にも、自分のジェラートが美味しいから食べてほしいだけで、別にイチャイチャしたいんじゃないからね。という空気出して『じゃあ、ア~ン』的流れに持っていき、食べさせ合いたいのが乙女なの。ヤりたいからと言って、ダイレクトにヤりたいと言えないシャイな存在が乙女なの。だと言うのに、相手の嫌いな物を選び、イチャイチャへの道標をへし折るとは、男として如何なものか。」
「道標はイチャイチャじゃなく、確実にジェラート食いたい方に向いてましたよね。」
「シャイな私はイチャイチャしたいなどとハッキリ言えず、少額で多種類食べたいと誤魔化して言ったのに、察してくれないなんて。結局、内心を赤裸々に語り、恥ずかしい願望を告げる羽目になった私に、E・狩場〈華麗なるマイマイの世界〉の読書感想文を、原稿用紙20枚にまとめて捧げて欲しい。読まないけど。」
「読もうよ。頑張った俺が報われないです。」
「大事なのは、三原君がE・狩場のことを想いながら本屋に行き、E・狩場のことを想いながら棚を探し、E・狩場を想いながらE・狩場の本を手に取り、レジでお金を払う時『これ読む時、アイツどんな顔するかな』とE・狩場のことを想いちょっと笑みを浮かべそうになり、慌てて口元を引き締め家に帰り、机にE・狩場の本を置き、E・狩場の顔を思い浮かべながら、E・狩場の読書感想文を書く。そうして書き上げた感想文を見つめ、三原君は優しく微笑み、満たされた気持ちでベッドに入る。そういうE・狩場を想いながら過ごすことが大事なの。ああ、三原君は、1日E・狩場を想って過ごしてくれてたんだなって。E・狩場はそれだけで幸せな気持ちになれる訳だよ。E・狩場が幸せな時点で、三原君の頑張りは報われてるから安心すると良い。」
「そっか…。そう、だよな。俺がE・狩場を想いながら行動したって過程が大事であり、買いに行くのめんどくせぇとか、欲しくもない本の出費がかなり痛いとか、厚さ7センチで、内容が小さい文字で二段に分かれてミッチリ書かれているのを、読み終わるだけでも時間かかるのに、原稿用紙20枚てお前は鬼かって思った俺が間違ってた。」
「解れば良い――」
カカオソルベを口に突っ込まれた。
…………にっが。