第82話.プール【1】
そうだ、水泳選手目指そうーー朝目覚めたらそんな気分だったので、今日は泳ごうと思う。ーーという体で灘流を誘い、日焼け止めを塗るイベントを開催する所存です。天才か。
朝から頭脳が冴え渡り、名案が浮かび、朝食を食べ終わり灘流をプールに誘ったまでは良かった。
ウキウキしながらプールサイドで待っていた私の目の前に現れた灘流は、パーカータイプのラッシュガードを着ていた。酷い。
期待に胸膨らませていた私に謝って欲しい。あと、速やかにラッシュガードを脱いで滑らかな肌を余すことなく私に晒し、テンションの大幅アップに貢献してください。
全く灘流は今まで何を人生から学んできたのか。
この世に生を受け、十年とちょっとの若造だから仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないが(前世は除く)、灘流は何一つ理解していない。プールや海に行った時の若者としての正しい楽しみ方を。
プールや海での正しい楽しみ方ーーそれは異性の、普段は服の下に隠されおいそれとはお目にかかれない場所を、舐めるように眺めたり、日焼け止めという大義名分のもとイヤらしく撫で回したり、周辺を闊歩する水着姿の若造たちが居れば、取り敢えずイヤらしい目付きがバレないように注意しつつ舐め回すようにじっくり鑑賞したりするのが正しい楽しみ方です。
「日焼け止め塗ってあげる。」
ニコニコしながら私に日焼け止めを提案してくる灘流さん。
何よりも灘流を撫で回すーー違った、日頃の感謝とちょっとした会話を楽しむ為に日焼け止めを塗ろうと思っていた私のささやかな願いを奪うとは、いつからそんな非道な美少年になってしまったんだ。
私は恨まれるような何かをしただろうか。ーーちょっと考えてみたが全く全然これっぽっちも思い当たらない。