第72話.私の朝は
「はぁはぁ・・・主、主の香り・・・香り、堪らない・・・。はぁ、はぁ・・・主・・・香りを存分に楽しめたのでそろそろお目覚めになってください。」
私の朝は葛城の荒い息を耳許で聴きながら始まる。
「主、もうお昼です。」
朝じゃなかった。
なんてことだ。灘流が起きる前にベッドに潜り込み、灘流の匂いを存分に堪能した後、何食わぬ顔で起こすという崇高な目標が達成出来なかった。
それだけでも重大な過失だというのに、既にお昼ということは、大事なエネルギー源の朝食を食べ損ねたということだ。
生涯で物を食べられる回数などたかが知れてるというのに、貴重な一食を食べる機会をみすみす逃すとは。
朝食を食べると脳の働きが暫く鈍るとかで、朝の仕事の効率性を重視するなら食べない方が良いと言う人もいるが、朝食抜いても抜かなくても対して頭の回転とか早くないので、私は朝食しっかり食べる派です。
因みに食べないことによるメリットはあるが、抜くことにより健康面でのデメリットもあるようで、一概にどっちが良いかは言えないとか。
食べ損なった朝食はもう諦めるしかないので、その分昼食いっぱい食べよう。ーーというようなことを、このところ起きる度に思っているのだった。
長期休暇に入りすっかりだらけてるから仕方ない。
学校に行くために朝起きなくていい毎日最高。だがしかし、朝食が犠牲になるのが悔やまれる。
やはり早寝して朝ちゃんと起きよう。朝食のために。ーーそんな決意虚しく、結局早寝など出来ないのだった。
朝確実に起きなければならない時は自制出来るが、そうじゃないと自制出来ないのが私というヤツです。
「灘流は?」
「出掛けました。」
昼食食べたら一緒にプール入ろうと思ったのに。
チッ。
プールに入りたいという建前のもと、堂々と灘流に日焼け止めを塗るというトキメキイベントが中止に。ーーもしや灘流は女子とプールに?
自宅にプールが三ヶ所ほどあるのに、人がゴミみたいに浮いてるプールに出掛けたのだろうか。女子と。
今頃「俺が塗ってあげる。」とか言って日焼け止めを手にし、女子の肌をくまなくエロい感じにサワサワしているのだろう。そんな抜群のエロいシチュエーションをエロい気持ちで私がガッツリ盗ーー女子とのアレコレを微笑ましく見守れない場所で。
自宅プールではなく、ゴミゴミプールを態々選ぶということは、つまりそういうことなのだろう。
そう思い至ったら非常に切ない気持ちに。私の目の届かないところで、エロい感じに日焼け止めを塗る灘流。そしてプールで泳いで火照った身体を、次はベッドという名の海で泳いでさらに火照らすんですね分かります。
エロいことは必ず私の目の届く、撮影機材がしっかり整った場所でして欲しい。私のために。