第70話.聞くんじゃなかった≪波多野≫【1】
帰り支度をしながら、この後どうするか喋っていると
「兄ちゃん聞いてよ!」
陸の弟、空が教室に乗り込んできた。
「珍しっ、教室に来るとか。どした空、誰かにいじめられた?」
ニヤニヤする陸。
「・・・い、いじめられてねぇし。」
一瞬言葉に詰まり目を逸らす態度が、いじめられたのを隠してるみたいで説得力がない。
「え、何お前、マジでいじめられたの?」
「ちげーよ!ーーただ、その・・・、俺の大事な物・・・・・・」
「大事な物がどうしたよ?盗られたのか?」
「う、あ、・・・何て言うか・・・」
大事な物とかっつうのを盗られて、兄貴に泣きつきに来てはみたものの、盗った相手をいざ申告するとなったら、やっぱ言いづらいってとこか。
「誰に盗られたんだよ。」
「ーーに・・・」
「声ちっさ!?聞こえねぇぞ。誰にだって?」
「じょ、女子に。」
「空君よ、女子に大事な物盗られたって何?童貞じゃないお前の大事な物ーーえ、お前もしかして女子に掘られ「ちげーわ!なんだよ女子に掘られるって!?」
「そういうアイテムがあってだな、女子でも男のケツ
「知ってる!知ってるから!万が一そういう意味で大事な物盗られたってことだったら、こんな人目のある教室とかで言わねぇよ!?」
「も~う、空君の声デカいから注目されちゃったじゃないか。」
うちの弟うるさくってごめんね~と陸がヘラヘラ笑う。なんかヒソヒソされてるし、女子に(後ろの)初めて奪われたって噂になるかもしれない。ーーまぁ、俺のことじゃないからどうでもいいが。
「んで、大事な物って?」
「・・・アレ。」
「は?アレってもしかして・・・、アレか?」
「アレって何だよ。」
何言ってんのか分からないから取り敢えず聞く。
「ん?ああ、アレってのはーー」
陸が耳打ちで教えてくれたが、コイツの弟顔に似合わず最低だなおい。
「兄ちゃん、俺どうしたらいい?」
「・・・まさかアレをネタに脅されてんの?」
「い、いや、脅されては・・・」
「相手女子だろ?アレをネタに付き合えとか言われてるとかじゃないの?」
「いや、そういうのは特に・・・」
「お前のファンとかじゃないの?」
「最初そうかなって思ったけど、そういう感じでは・・・」
「アレが手元に無いと困るんだろ?ならファンだろうとなかろうと、いつもみたいに丸め込んで惚れさせて、言うこときかせりゃいいだけだろ。」
「・・・・・・・・・多分、ていうか、絶対無理。」
「おいおい、自信家の空君が絶対とか、相手どこのどいつだよ。」
「名前は知らないけど、黒髪で金と銀のーーー」
聞くんじゃなかったと後悔しても時既に遅し。ーー後悔ってマジで先に立たねぇ!!
ヤツと初めて出会った日を、思い出したくもないのに思い出した。