IX ウラ⑦
「絶対の存在に成った彼女は、世界を渡り歩き、その欲望を満たす行動を取り始めました。真凰さんの世界には、度々訪れています。目的はお菓子のようです。当然ですが、対価、お金は払っていません。すべて無断です」
「…チッ、害悪だな。金くらい払えよ」
「確認出来た強奪は、私達が料金を補填しております」
「そうかよ」
それが出来るならば、事故を事前に止められなかったのだろうか。
身内の尻拭いならばその身内がするのが筋だろう。
「…はい。ごもっともです。ですが、私達にはそのような力はありません。…このような暴挙を到底許容出来ません、そこで、彼女を引き摺り降ろす算段を立てました」
「…?あの女は絶対的な存在なんだろ?無理じゃないのか?」
「力の源は大勢の信者です。その繋がりを遮断するか、信者自体を消せば力は衰えます」
「なら、それをとっととやればいいんじゃないのか?」
「彼女もそのことには気が付いているはずです。なので、一度に実行、成功しなければ、私達が彼女に消されるでしょう」
「身内の情とかあるだろ?」
「彼女は、仕事を私達に全て投げています。私達が居なくなれば困るのは彼女の方でもあるのです。ですが、自分の立場と天秤に掛ければ、どちらに傾くかは明白です」
ここまで聞いていても、現実味がない。
天野は何の信仰もしていなかった。
宗教のイメージなど、一部を除けば胡散臭い詐欺だとも思っている。
宗教を理解していない訳ではないが、天野はそういう考えであった。
なので、創造神がどうとか、世界がどうとか言われても、いまいちピンと来ない。
「それで、結局ソレを俺に話したのはどういう目的なんだ?どうにも出来ないだろ」
「真凰さんが運転していたトラックに轢かれた青年。ミカエルはその青年を異世界に転生させることにしました」
「…は?」
「彼女は気紛れで、行動を起こします。様々な特典を付けた青年を送ることに決めた世界は、特に信者が多い世界の1つです。恐らく青年を信者で囲い混み、勢力を増させる為だと思われます」
「はぁ」
「彼女は青年の身体を創ってから、私に処理を投げました。そこに座標を紛れ込ませて送れば、彼女を追い落とす足掛かりになるでしょう」
「座標さえ送り込めれば、ピンポイントで転移することが出来ます。その座標を、真凰さんに頼みたいのです」
「…………は?」
何故そこで俺の名前が出てくるのだろうか。
転移に座標がいるのもよく分からないし、それなら俺である必要は無いのではないか。
その『座標』がなんなのか知らないが。
「座標、というかマーキングです。石板でも鉄柱でも、なんならビー玉でも処置すれば問題ないのですが、今回送るのは人です。送る魂が2つでもなんとか誤魔化せますが、異物は目立ってしまうでしょう」