VIII ウラ⑥
「…真凰さんに、ご提案があります」
そんな天野を見ていた天使だが、暫くしてから口を開いた。
提案とは、何なのだろうか。こんな超常の存在が提案することだ。どうせマトモなモノではないのだろう。と、天野は思った。
「…そうです。マトモな提案では、ありません」
「…それを受けなかったら、処分されるのか」
「そんなことはしません」
「いや、信じられない。この変な空間に俺が居るのも、その提案を飲ませる為だろ」
天使の目が一瞬だけ悲壮に暮れる。しかし、直ぐに切り替わり、元の目に戻った。
正直怪しさしか感じない。聞くだけでも殺されたり、無茶な提案を提示されて拒否権が無い提案を受ける気はない。
もっとも、天野は既に死んでいる。なので殺される心配が在るのかすら分からないが。
「聞くだけでも、お願いします。ミカエルの暴挙を、止めることが出来るかもしれないのです」
「…あの女のか。どうやって」
「興味を持って下さったのですね。…まずミカエルが力を持った原因についてお話しします」
天野が止める間も無く、天使が語り始めた。それは事実を淡々と述べているようだ、と天野は思った。
「私達と同格の天使は、創造神様に創られました。どれくらい前かは、時間の流れが現世と違うので曖昧ですが、大体2000年前でしょうか。それから、名前がないことを不便に思った創造神様が、特に重用していた四人に名を与えました」
「それは、私『ガブリエル』。『ウリエル』『ラファエル』。そして『ミカエル』です。それから問題は起きなかったのですが、ある時、創造神様がお隠れになりました。理由は語られなかったのですが、私達に『権限』を分けて世界を管理するよう命令されました」
「創造神様はその権限を、ミカエルに渡してお隠れになりました。それが、いけなかったのです。元々、彼女は享楽的な所がありましたが、創造神様は個性として矯正なさりませんでした。…そして、彼女はわざと命令を曲解して受け取りました」
「権限は確かに分けられました。他3人にはごく少数しか配られず、彼女がほぼ全ての権限を保有することになりましたが。当然の如く彼女は世界の管理を放棄し、自分の好奇心を満たす為に活動を始めました」
「力自体は私達と変わらないのです。そこで彼女は信仰を得ることを思い付きました。少し複雑なのですが、簡単に言うと生き物に祈られると、その対象に力が集まる、という仕組みです。祈る側も簡単には出来ない技術であり、集めた力も消費すれば自然に回復することはありません」
「その力を絶対にする為に、彼女は更に信者を増やし始めました。信仰させやすい世界に絞って干渉し、力を集めていきました。そして、力、権限共に私達の頂点。実質的な神となったのです」