IV ウラ②
「えーっと、天野さん?もう一度最初からお願いしますね」
男の、天野の姿は病院の一室に在った。彼から話を聞いているのは私服の警官だ。
天野が病院に居る理由は、左腕の骨折と頭部を3針縫合したからだ。あの大事故で奇跡的に、と言うべきか。その程度で済んでいた。
天野はもう一度、自分の身に起きたことを話した。それを警察官は怪訝な表情で聞き取り、メモしていく。
「……以上です」
「…うん、確認するよ?女の子が車道に現れて、身体が動かなくなって、女の子の代わりに男の子が飛び出してきて、轢いてしまったと。ここまでで相違点は?」
「ないです」
「はい。そしてハンドルを切れたのは、轢いてからだと。ふむ、時間が経ったら、もう一度聞かせていただけますか?」
「…事実です。本当に」
当たり前だが、天野の証言は信用されない。天野自身も幻覚であったかと何度も思い直していたが、事故当時の記憶はしっかりと残っている。
「まあ、まだドライブレコーダーも確認していないですから。後日一緒に確認していただきますので、お大事に」
「…はい」
それから数日間、天野は入院していた。入院期間には上司や友人が見舞いに来ていたり、久しぶりに親と再会した。
まさか、こんな形で再開するなんて、と天野は苦笑した。
退院して直ぐ、天野とその上司の姿は警察署にあった。
故意でなくとも、事故。それも人が死んでいるのだ。危険運転過失致死傷罪か、業務上過失致死傷罪、もしくはそれに準ずる罪か。自分は何らかの罰は受けるだろう。
天野と上司は窓口に事故の件で来たことを告げ、担当の警官に取り次いで貰った。
「天野さん、お待たせしました」
「いえ、大丈夫です。…それで、自分は何の罪に問われるんですか?」
「うん?単独の事故でしたから、罪とか大層なモノには問われませんよ」
「え?」
どういうことだ。単独の事故?この警官はあの時病室で話していたのと同一人物だ。それは間違いない。
ならば、別の事故と勘違いしているのだろうか。
「あの、別の事故と間違えていると思うのですが…」
「…○日に潮の目通りで発生の事故ですよね?」
「えぇ、それです。自分は青年を轢いてしまったと記憶しているのですが」
警官は数秒考え込む仕草を見せる。だが思い至らなかったのか、頬をかきながら顔を上げた。
「事故のショックで記憶が混じってしまったのかもしれませんね。レコーダーを確認させていただきましたから、間違いはないかと」
「何で」
「オイ、天野。用事ってのはソレか?」
「…先輩」
何かがおかしい。どうしても会話が噛み合わない。自分と警官に認識の相違があるのだ。
上司ならば、分かるだろうか。天野は意を決して聞いてみた。
「あの、先輩」
「何だよ」
「病院で俺が言ってた事故の状況、覚えてますか?」
先輩は怪訝な顔をしたが、すぐに返答が帰って来た。
「事故の状況って…ハンドル操作を誤ってぶつけたんだろ?早く怪我治して仕事復帰してくれよ。皆待ってッからよ」
結局、何一つ分からないまま。家に帰った。
事故の描写は想像です。