表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生トラック運転手は不憫  作者: あの日の僕ら
序章 前世の記憶
3/37

III ウラ①

こっちが主人公です。

 海沿いの道路、堤防の横を走る一台のトラックがあった。

 積み荷は新鮮な魚介類で、魚市場から仕入れて来て輸送している途中である。内陸部に輸送して、直接飲食店へと卸すのだ。


「海は♪ふふん~♪」


 このトラックを運転しているのはシワがついたシャツの男。

 無精髭が生えており、髪にも若干寝癖がついた顔は、お世辞にも世間体が良いとは言えないだろう。


 この男の名前は『天野(あまの)真凰(まお)』、年は27歳。可愛らしい名前だが、可愛かったのは幼少期のみだ。高校卒業時に定職に就かず、紆余曲折して今の仕事に就いている。ようやく生活に余裕が出来て、親に仕送りが出来るほどだ。


 今回の仕事を終えたら実家に戻るのも良いかもしれない。男はそう考えていた。仕送りが出来て自分に自信が出来たのかもしれない。

 男は片手で缶コーヒーを口に運び、口内で苦味と僅かな甘味を味わった。


「世界の♪ふん…んあ?」


 男が進路を確認した時であった。何も無かった空間に、突如として赤い服を着た女児が現れたのだ。

 その時に、景色そのものが歪んでから出現したように見える。

 見間違いだろうか。瞼をしぱたかせるが、ソレは変わらずそこに在る。


「…なんだ?気味悪ぃな」


 取り敢えずこのままだと女児を轢いてしまう。男はブレーキを踏もうと左足を踏み込もうとした。

 しかし、身体が思う様に動かない。


「が、ぐ、なんでだよっ…!」


 痺れたような感覚で、筋肉が硬直してしまっている。何が原因かは分からないが、今すぐ速度を殺さなければならない。

 左足を伸ばすのと並列して、サイドブレーキにも手を伸ばす。

 腕の方なら少しずつ動く、かもしれない。

 アクセルから右足をなんとか降ろし、ハンドルを別方向へと切ろうと試みる。だが、手が痺れて握れない。心臓や肺自体も痺れてきた。

 持病など無かったのだが、と酸素すら脳に行かなくなり、今必要のない考えばかり浮かんでくる。


「ぐ、そ、がぁ…!」


 それでも速度が落ちていかない。もう急ブレーキを踏んでも間に合わない距離だと悟った瞬間、女児の姿が男の視界から消えた。

 何とか避けてくれたか、と安心したのも束の間。学ランを着た青年が視界に現れた。


 ブレーキを僅かに踏むことが出来たが、それだけで速度は変わらない。

 男が運転するトラックは、そのままの速度を保ったまま青年へと吸い込まれていった。


「ぐぅ、痛てぇ…」


 男が顔を上げると、エアバックの白と、ひび割れたフロントガラスを通して海と堤防が見えた。

 未だ痺れの残る身体を動かして外に出る。さっきの青年の安否を確認する為に、後ろを向いた。


 青年は、青年だったモノは、四肢がもげていたり有り得ない方向を向いた状態で、車道に叩き付けられていた。頭も抉れて、顔は引き摺られたのか真っ赤であった。


「あ、ああ。き、救急車!救急車を呼ばないと!」


 ハンドルを切ることが出来たのは、青年を既に轢いてからであった。

 この男の人生は、その日から、真っ逆さまに堕ちていく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ