XXII 最底辺⑤
そのチグハグな光景に、天野は恐怖を感じて板を元に戻した。
若干汚れてきたベッドへ潜り込み、今見た光景への考察を始める。
大通りを歩いていた人影。服装は鎧やローブといったモノを着ており、いかにも異世界っぽい。そこは問題ない。
天野が不気味に感じたのは、少し視線をずらした時であった。裏路地でリンチされていた人影は、大通りから明らかに見える場所であるはずなのに、誰も助けていなかった。
助ける所か、反応すらしていないようにも見えた。
この場所は、あの大通りのような活気のある場所があるのに対して、少し移動すれば人がゴミのように転がされているのが当たり前な場所なのだろう。
眩しい位の活気、それと人の悪意が混在している土地。光と闇が無理矢理捩じ込まれた無理のある空間に思える。
そして、自分が居る空間も、どちらかと言えばその闇に近い場所なのだろう。
…ここがどんな場所だと分かった所でやることは変わらない。このまま閉じ籠っていても、餓死するだけだ。
天野は、外へ出るための準備を始めた。
あんな治安が悪そうな場所では、出来るだけ視線を悟られないようにするのが良いはずだ。動物も視線で喧嘩を売るとか聞いた事がある、気がする。
そこで、黒パンの下に敷かれていたボロ布をローブのように加工して羽織ることにした。
背が低いのは隠せないが、何かやらかして顔を覚えられる心配も少しは減るだろう。
そして、一番大きな問題はどうやって部屋から出るか、だ。
この部屋は、少なくとも三階位の高さにあるようだ。
薄い毛布を裂いてロープに加工出来なくないかもしれないが、細くなりそうで危険だし、何よりそれで窓から降りれば当然目につく。
その案は最後にするとして、別の案を考える。
キョロキョロと馴染んだ部屋を見渡すが、画期的な案は浮かんで来ない。
視線は自然に扉へと集まっていく。
鍵さえどうにか出来れば。あるいは。
…鍵が無いのならば、鍵穴に合う鍵を造ってしまえば良いのではないのだろうか?
石を魔法で造りだし、鍵穴の中で動かして…。いや、無理だな。
自分にはそんな技術も無い。それに石どころか土を生み出す魔法も使えない。
扉は木製だ。木製なら、燃やしてしまえば部屋からは出られる。
…いやいや、駄目だ。下手したら窒息してしまうし、万が一の時に部屋に戻って来ることが出来ない。
というか、水を出す魔法以外はまだ使えないのだった。
自分ではどう考えても良い案が浮かばない。
やはり、最初に浮かんだ窓から出る案しかないのだろうか。