XXI 最底辺④
『…くぅ』
身体を起こし、記憶を整理していく。
魔法を使った後に昏倒してしまったのは、魔力を使いすぎたからだ。
魔力はこの世界では重要なエネルギー。余分には生成されるが、それほど多くはない。まして自分は子供だ。
初の魔法で張り切り過ぎてしまったが、これからは魔力を絞っていく必要があるだろう。
硬い床で寝ていた為か、身体が痛い。
天野は身体を強引に動かし、暗くなった部屋のベッドへ向かう。
その日はそのまま眠った。
翌日、自分の出した水で喉を潤し、干し肉を口の中で転がす。
水は生命力を削って絞り出している。これは効率がかなり悪いが、水は大切だ。
心許なくなってきた食料を尻目に、教本を読みふけった。
それから二十数日後、とうとう食料が干し肉一片だけになる。
結局、水以外の魔法は習得出来ずにいた。
また、文字は粗方理解出来るようになったが、話すのは機会が無かったので上手く出来ない。
今の自分の身体は小さいので、燃費はいい方だと思うが、水だけでは生きていけない。
こんな自分は親の庇護なしでは生きていけないだろう。
外へ出て、親を探すのが目標。
親が見つからないのならば、生きていく方法を探す。
まあ見つからないだろうが。自分は親の名前も知らないのだ。それが分かれば手掛かりにもなったろうな。
「『こういう時は…』外、行く。肯定」
…と扉の方へ向かった瞬間、便意を感じて足を止めた。
壁の近くにある壷に便を垂らして、水魔法を穴付近に発動して大雑把に洗浄する。
あんまり衛生的ではないが、トイレがないので仕様がない。
便を済ませた後、扉の前に天野は立っていた。
黒パンが入っていた空き箱を足場に、ドアノブを引いた。
だが、想定していた通り鍵が掛かっており「ガチャガチャ」と音を立てるだけだ。
鍵を無理矢理開ける技術なんて持ってないし、扉を蹴破る筋力もない。
あんまりやりたくなかった手段だが、と天野を真後ろを向き、窓を見上げた。
窓の高さは空き箱を2つ重ねれば届きそうだ。
天野は重ねた箱の上でフラフラしながらも、窓枠へとすがり付いた。
蓋をしている木の板を押し、淡く光の漏れる隙間を押し広げていった。頭をその隙間に押し込んだ。
その目に移った景色は、壁、であった。
どうやら別の家の外壁のようだ。
別の景色を見るために、視線を横にずらす。
すると、大きな通りを行き交う人影と、一軒家を縦に積んだような建物が並んでいるのが目に入った。
売り子らしき人影が通行人らしき人影に声を掛けている。その喧騒が天野の耳にまで届いていた。
何の音か分からない雑音が聞こえることがあったが、これが発生源のようだ。
色々な柄の服を着て、道を通る人影は皆笑顔であった。
そんな時、ふとその奥の路地裏が目に入った。
一人の人影が、二、三人の人影に囲まれ、何かをしている。
よく、見ると、大きな通りの影には、ゴミらしきもの、倒れたまま動かない人影、赤黒い大きな地面の染み。
光だけではなく、隠しきれない大きな闇が、天野の目には映っていたた。




