XIII ウラ⑪
「あちらの世界『エトルワール』には、魔力と呼ばれる力が存在します。他の世界にも似たような力はありますが、信仰によって力を集めやすかったので彼女はそのエトルワールを選んだようです」
「また、彼女が管理を放棄してから、管理外の世界から干渉を受けています。元々存在していた空間を侵食し、一部を塗り替えてしまっており、それが地上に顕現したモノをあちらの住人は『迷宮』『地下』『異界』等々と呼んでいます」
「ですが、ソレによってもたらされた恵みも存在します。植物、肉、鉱石。道具。それらは人々の生活を豊にします。ですが、もたらされるのは、押さえきれない災厄の方が多いのです。住人や原生動物は抵抗する為に魔力を利用した魔法や魔術で抵抗しています。これが、真凰さんを転生させる予定の世界、エトルワールの現状です」
思ったよりハードな世界であったことに、天野は驚いた。
もしかしたら、転生した直後にその溢れ出てくる災厄とやらに殺されることもあったかもしれない。聞いといて良かった。
…いや、こんなことを教えないで転生させようとしていたのか。
「それでは転生させます」
「いや、途中で出てきた魔法と魔術についても教えてくれ」
「…はい。分かりました」
天使が露骨に嫌そうな顔をして、説明を始める。
いや、説明する必要はあるだろ。いくらミカエルを引き摺り降ろすという大義名分があろうと、これの本質は詐欺と変わらない。
「詐欺、ではないです。決して」
天使が少し苛ついたような表情を見せた。
それは直ぐに引っ込めてしまったが。天野はそれを見ていた。見ていたからと言って、天野の腕では交渉材料にもならないだろうが。
「魔法と魔術。どちらも魔力を利用した現象です。魔法は意識して組み立てることが出来ますが、自然に利用している者が多いようです。当然ですが、人間以外も普遍的に使用しています。魔術ですが、本質的には魔法と大差ありません。詠唱や触媒を用意し、魔法を誰でも扱いやすく定型化した技術です」
「魔法の欠点ですが、使うこと自体難しいということです。ですが、意識しなくとも自然に利用することも出来ます。魔術の欠点、という程では無いですが、大抵の魔術は貴族によって隠蔽されています。広めてしまっては自身の権力が薄くなるからでしょう。どちらが良いのかは一概に言えませんが、魔術は応用が効きません。習得するのなら融通の効く魔法でしょう」
魔法、それと魔術。未知の技術なので、使いこなせるがどうかすら分からない。それどころか、使いこなせない確率の方が高いだろう。
だが、異世界だ。生き残るには、使えるモノは使いたい。
「では転生を」
「少し、聞きたいことがあるのですが」
天使が「まだあるのかよ」と言いたげな表情に変わる。
…誤魔化しもしなくなってきたな。