X ウラ⑧
「…少し考えさせて下さい」
「はい、どうぞ」
相変わらず天使は透き通った目で天野を見つめている。異世界に自分を送り込むなど、話について行くことが出来ない。
必要あるのか分からない呼吸を整え、天使に疑問を投げ掛ける。
「…なんで、俺なんだ。別に誰でも良さそうだが」
「真凰さんを殺した女性は、青年の幼馴染であり彼女です。座標としては不適格です。それに、青年が最後に見た人間が真凰さんであり、縁があります。そして何より、ミカエルに人生を狂わされた恨みがあるからです」
「あの女は、そういうことかよ。…クソが」
「…言っていませんでしたね。ついでですが、少し見ますか?」
突然、天使の目の前に大きな球体が出現した。
そこには、街の景色が映っているように見える。
…いや、俺が最期に居た街だ。
「実はかなり時間が経っています。真凰さんが死んだあと、青年の彼女は自害しました。事故の関係者の記憶は処理したはずですが、ミカエルは天野さんと青年の彼女だけ記憶を残したようです。…理由は、ただの戯れかと」
「そんな身勝手な彼女の行動に、真凰さんの上司は黙っていられませんでした。よほど真凰さんに思い入れがあったようですね。彼は真凰さんの葬式の後に酒を浴びるほど飲み、暴れてしまいました。現在は留置場です」
「彼女に真凰さんの存在を伝えた、言わば犯行の切っ掛けになった青年の家族は、離婚されたようです。妹が1人居たようですが、学校に通わず、引きこもるようになってしまったようです」
「そして、…真凰さんのご家族です。真凰さんのご遺体の前で、何時間も泣いておられました。葬式には、沢山のご友人が集まっていたようです」
俺が死んだことで、泣いてくれる人が沢山居る。
それは理解出来たが、何なんだ、コレは。無茶苦茶じゃないか。
全部、あの女のせいなのか。どうしてこんなことが出来る。人でなし、いや人では無かったな。
天使に今必要なことを問い掛ける。
「……おい、時間を戻す力は、あの女は持ってないのか?」
「時間を自在に操る権限は、存在してないのです」
「…俺を生き返らせることは?」
「権限も、力も足りていません。不可能です」
「なら、手紙を送るくらいは…」
「最悪、計画が彼女にバレてしまいます」
「………そう、か」
肩の力が、全身の力が抜けていく感覚を、天野は感じていた。
全てを拒否されて、希望も失った。このまま、言われるがままになるのは嫌だ。
…いや、あの女への、『ミカエル』への復讐となるのならば、悪くないかもしれない。
天野がそう考えた瞬間、天使が笑顔になった。
「おい、勘違いすんじゃねぇよ。元々といえばお前らの身内がしでかした問題だ。お前らのことも恨んでいる。だが、あの女の方が何十倍も憎いだけだ」
「…どんな理由があろうとも、その気になって下さり感謝いたします」