I オモテ①
拙い文章ですが、宜しくお願いします。
海沿いの堤防に一人の青年の姿があった。今時は珍しい学ランを着込み、水平線の上に乗っている船を眺めている。
「すっかり寒くなったなぁ」
青年は両手の赤い毛糸の手袋を擦り合わせ、頬に手を当てる。
「このままだと風邪引くな。早く帰ろう」
ウチに戻れば母親が暖房を付けてくれているはずだし、妹がクッキーを焼いてくれているはずだ。
妹は最近お菓子作りをするようになったのだが、みるみる上達していっている。このままパティシエになれるんじゃないか。
…いや、女性はパティシエールだったっけか。青年はそう考えながら、帰宅を急いだ。
青年が歩いていると、前方から一台のトラックが走ってくるのが目に入った。外見からしてそのトラックは鮮魚を積んでいることが分かる。
「トラック…漁協からか?父さん、帰ってるかな」
この青年の父親は漁師だ。
自分も将来漁師になるだろうが、大学を出るまで自由にしていいと言われている。それに、恐らく両親は自分が別の仕事に就いても文句など言わないだろう。
だとしても、自分の代で船を終わらせたくないから就職はしないが。青年はそう考えていた。
青年が視線をトラックから外した。が、ふと違和感を覚えて視線を戻す。すると、さっきまで居なかったはずの人影が、車道に立っていた。
顔は青年から顔は見えないが長い金髪を膝裏まで伸ばし、赤いワンピースを着た女の子だ。靴は履いておらず素足で、両手には紙袋やビニール袋を沢山抱えている。
「ちょっと君ッ!危ないよ!」
青年がそう言って手を伸ばし掛けるが、目眩を感じて大きくふらついた。目眩を無理矢理押し込み、トラックを見る。女の子が車道に居るのだ、流石に止まるだろうと考えていたが、全く減速しない。
「おいおい!マジか!ブレーキ付いてんのかよ!」
青年の声が聞こえていないのか、女の子はそのまま立っている。対するトラックも減速する様子はない。このままでは女の子は轢かれてしまうだろう。
「クソッ!間に合えよッ!」
足を踏み出そうとするが、上手く動かせない。人間は咄嗟のことに弱いものだな、と無駄な考えを捨てて身体を強引に動かした。
「ぐ、間に、合っ…た!」
青年が女の子を反対の歩道まで突き飛ばす。女の子は尻餅を付いて、青年を驚愕した顔で見つめる。
女の子は大丈夫だ。次は自分が車道から出なければ、と考えたが身体が動かない。
なんとか顔を上げてトラックの運転手を見る。運転手も驚愕したような顔だ。ブレーキは踏んでいるのかよく分からないが、もう遅いだろう。
…ああ、これは、死んだな。と青年は直感し、目を閉じた。
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