好き好き愛してる
ずいぶん遅くなってスミマセン。
「へえ、糸、ね」
お姉さんの名前はサトミと言った。どういう字を書くのか分からないので、カタカナでサトミと脳内で覚えておく。
サトミさんは、ごみの中からカップを一つ拾い上げて、冷蔵庫から、ラベルの貼っていない謎のペットボトルを取り出して、なにやら白い液体をなみなみと注いで僕の前に差し出した。僕の顔が引きつったのは言うまでもない。
「あっ、結構、です……」
と言うとサトミさんは、ジッと僕を見つめてから、真顔で「遠慮しないでよ」と言ってカップを差し出した。サトミさん、その間、勿論瞬き一つしない。怖い。
怖いので僕はその謎の甘ったるい液体を一口口腔内へ流し込み、エイヤッと飲み込んだ。
「糸、ね~。私には見えないけど。そんなんあるんだ?フーン」
と言いつつ、サトミさんはごみ屋敷の中からカップを一つごそっと拾い上げて、ペットボトルの液体をなみなみと注いだ。どうやってごみ屋敷の中からカップを一瞬で探し当てたのかそればかり気になってしょうがない。
「それって、私ときみの間に縁があるってことじゃない」
そう言うサトミさんの瞳は光って見えた。
「えっ」
それってどんな縁なんですか、とぼそりと言うと、サトミさんは得意げに「わかんない」と鼻息を荒く鳴らした。
「とりあえず……」
と、何かを言いかけるサトミさんの側で、何かが鳴った。
それはサトミさんの携帯電話のようだった。普通の、何の変哲もない電子音。
「もうーしっつこいわね!これで何件目よ」
と、同時に、部屋の片隅にある電話機のFAXから、大量の買い物をしたレシートみたいにFAXが流れてきた。
そこには文字が書かれていた。ちいさい文字で、紙ビッシリに、
「好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き」と。
僕はサトミさんの表情を伺った。
携帯電話を見つめる彼女の顔はひどく疲弊していて、
そうしてまるで土塊のように鮮やかな色彩を失って、目は濁り、きれいだと思った茶色い髪もくすんでぼさぼさのように思えた。
僕の気のせいかもしれなかった。
コメディチックになってきました…どうか見放さないでくださいませ。