運命の糸?
「行ってきます」
僕は殆ど教科書なんて入っていない通学鞄を持って、家を出た。
糸は幽霊のようなもので、壁もドアもすり抜ける。
触れようとしても、触れられない。
ぼんやりとした朝日のある空は白く濁っている。
色のない街の風景に溶け込んでゆく。僕は、これから雑踏の一部分になるのだ。
その中で、糸だけが鮮やかに伸びている。
時折たわんだり、伸びたりしながら、どこかへと繋がっている。
駅に向かう道はまだ人もまばらだ。
まだ頭には眠気が強く残っている。
視界にフライパンが目に入った。
フライパンだけではなくて、鍋、新聞紙、中身の中途半端に入ったペットボトル……いわゆるゴミだ。
それが古びたアパートの一階のある部屋の周りから、固まってなだれるようにこちらに流れてきているのだった。
そうして、ふとぼくの体を見ると、一本の糸がその家に向かって伸びているのだった。
僕と何か関係があるのだろうか。
そう思ったが、なにやら危険な香りがしたので、放っておくことにしよう、そう心に決めて、通り過ぎようとした。が。
急に、僕と干渉しなかった筈の糸がぴんと張って、ぼくを引っ張ったのである。