第7話
4月初旬は多忙で、疲労のせいか夢を見ることがほとんどなくなっていた。
4月19日。この日は久しぶりに夢を見た。
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ー「あら、久しぶりね。」
誰だっけ。
ー「忘れてしまったの?今思い出させて上げる。」
目の前の女性に肩を叩かれた瞬間、走馬灯のように記憶が蘇った。
ああ、どうしてこうも夢の記憶って簡単に忘れてしまうのだろうか。
自分の生死がかかっているかもしれないのに。
本当に実現するのであれば、だけど。
「今日はかくれんぼじゃないのかい?」
ー「久しぶりだからよ。全く覚えてないのに、ゲームに参加させるわけないじゃない。」
この人は敵なのか、味方なのか?ここまでで悪い人のようには思えないが。
そういえば、この前彼女見つけたような。いや確かに彼女だった。
「この前の夢は正夢になってないんだけど、やっぱりこれはただの夢だったのか?」
ー「そうすぐに実現するとも限らないわ。気長に待ちなさい。」
ー「ちなみに実現される夢は、友達が運命の女性と出会うこと。」
や、焼肉のほうじゃないのか。まあ再現が簡単すぎるもんな・・・・。
ー「嬉しそうじゃないわね。あなたの望んだ夢よ。友達想いなのね。」
そう言うと、優しく彼女は笑った。
たしかにあいつには幸せになってほしいと思ってたけど、いざとなると嫉妬も・・・。
次は俺のために願おう。うん。
「そういえば、君の名前を教えてくれないか?」
ー「あら、口説いてくれるのかしら?私は”サヤカ”よ。」
「・・・サヤカさんは何者なのかな?」
苦笑いですこし口が引きつってしまった。
ー「私たちは、”ディーラー”。夢の住人なの。とはいってもあなたと同じ人間よ。ほとんどはね。」
サヤカさんは意味ありげに答えた。ただ、それ以降さまざま質問してみたが、それ以上はたいして教えてくれなかった。
とはいえ、かなり整理出来てきた。
こう何度も同じ人が夢に出てきて、整合性がとれていると、ドリームゲームってやつも本当だと思っていいようだ。
しかしながら、こう目覚めるたびに記憶が欠落するというのは不便だ。朝起きたら、メモをしておかないと。
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目が覚めた俺は、メモに『ドリームゲーム』と残した。これで思い出せるはず。
この日を境に、”夢のかくれんぼ”には積極的に参加した。条件はわからないが、時々サヤカが鬼になっていることがあった。どうやら、見つかってしまうと逆転の内容が、現実になるらしい。
今のところは回避できてるようだが。
それともう一つ、分かりやすいように、見つけた、もしくは見つかった時点で一度目が覚めるようだ。
これに関しては何度も経験出来た。そして、見つけたという実感が残る。
あとはポイント制、自分には分かるようになっているらしいが、まったく自覚がない。
本当にこれだけは勘弁してほしいところだが・・・。
5月10日。
「今日さ〜。女の子に契約しようっていう夢見たんだよね。」
ユウマの口から、身に覚えのある言葉が出てきた。
「なんだよそれ、魔法少女にでもなるのかよ。魔法少年か。」
笑いながらそう答えたが、心の中に一抹の不安はあった。
あいつも同じようなことに巻込まれたとしたら、悪夢だけは見ませんように。
「お前の深層心理は厨二病か。」
からかいながら、自分を鎮めるように、ユウマの背中を叩いた。
「いって〜!ただの夢だからいいだろ〜」
本当に心配してるんだよ。いい夢見ろよ。