エピローグ
本日二話目。一つ前をまだ読んでない方は戻ってください。
最終話になります!!
アリスが消えて、一週間が経った。戦乱が終わった世界は平和な物だった。だが、一つだけおかしなことが起こっていた――――
誰も、アリスのことを忘れ去っていた。ただの一部だけを残して。
今まで起こったことは、全て魔物の大量発生に起こったことで済まされていた。一つの街が消えたことも、同じように世界へ報道されていた。何故、そんなことが起こっているのかは、本当のことを知っている一部の人物だけが知ること。
人間側で、ただ一人だけが知っている人物。
「リント、これからどうするんだ?」
「次の街へ向かおうと思っているが、どうだ?」
「そうね、魔物の大量発生は終わったみたいだし、いいじゃない?」
「そうだな……」
リントは苦笑していた。本当は、魔物の大量発生が起こった訳でもないのを知っているからだ。そう、人間側で知っているのはリントだけだ。一緒に行動したガロも覚えているようだが、ガロは魔物側としてで、人間側はリントだけ知っていることになる。
何故、世界はアリスのことを忘れられているのかは、一週間に時を遡らなければならない。そう、二つの爆発が起きた後――――
「アリスのこと、俺達のことを忘れて貰う。それが、世界の為だ」
そう決定したのは、ゼロだ。魔王だった筈のアリスが神になり、邪神を倒し、死んだ筈の元魔神ゼロが現れたなど。色々と不味い情報が世界中へ知ることになると、後のことが大変になるのが見えているので、世界中にいる人の記憶を改竄することにしたのだ。それをしたのは、情報操作に長けるレイ。
ただ、アリスに戦いを挑んだゼロ、レイ、魔王達、大天使、リント、ガロ、エリーナだけが忘れないことにして、もうその歴史を繰り返さないようにと。リントもそれが世界の為だと同意し、世界中の人から、アリスのことを忘れて貰ったのだ。
魔王が神になれると知られたら、間違いなく、人は魔王を見逃さないだろう。魔王を殲滅しようと動く筈だ。そうなれば、永年も戦争になり、最終的には人間側が負けるのはわかりきっている。魔王側も人間が全て消えるのは望ましくない。だから、魔王側も承知した。大天使も同じ理由で、同じくに同意した。
「エリーナ、アリスのことを忘れないのはいいが、このことは他の人には伝えないこと。未来から攫って悪かったが、これから、帰そうと思う」
「……はい」
「……約束を守れなくて、すまない」
「いえ、アリスは私と一緒にいたことが幸せだと言ってくれました。それだけでも、充分です……アリスと会わせてくれて、ありがとうございました」
エリーナは悲しいことを心の奥に押し込み、ゼロ達にお礼を言った。今回のことを皆に伝えないことを条件に、アリスのことを忘れることも無く、元の時代へ帰って行った。
それが、今回の結末だった。
「ねぇ! リント! 何をボーっとしているのよ!」
「え、あぁ、すまない」
「大丈夫か? 調子が悪いなら、出発は明日に延ばしてもいいじゃないか?」
「あ、いや。大丈夫だ。前のことを思い出していただけだ」
「前のこと?」
「あぁ、英雄になると豪語していたことを覚えているか?」
「えぇ、リディア王国の言ったことね。今はその王国は無くなっているけどね」
「そうだな」
リディア王国は強力な魔物が現れたのが原因で消え去ったということになっている。
「あぁ、……今は平和だよな」
「そうね。魔物も変に大人しいし」
「被害が出ていると聞かないしな」
「だったら、その平和が続くなら、俺は英雄にならなくてもいいやって思ってな……」
「「へっ?」」
いつも英雄になりたいと言っていた人が、急に英雄にならなくてもいいやと言うとは思わなかったので、二人は驚愕の表情を浮かべていた。
「えっ、リント、熱あるの?」
「な、なら! 宿に戻ろう!!」
「へっ、うわっ!? いやいや、熱はないから!!」
「あのリントが、そんなことを言うとは思えない! 熱があるに決まっている! それか、脳が死んでしまったんだ!!」
「そうしか、考えられない!!」
「ちょっ、それは失礼過ぎないか!?」
二人に両手を捕まえられ、さっきまで泊まっていた宿へ無理矢理に連行されるリントであった――――
魔王側、皆はミディの住む館へ集まっていた。ゼロ、レイも一緒に椅子に座って、ロドムが準備した紅茶を飲んでいた。
「レイ、お疲れ様だったな」
「……疲れた」
レイは一週間を掛け、記憶を消した後の綻びが無いか確認をしながら、世界の動きに注意をしていたから、疲労が溜まっていた。ゼロも手伝っていたが、細かいことはレイが全てやっていたので、疲れるのは仕方が無いだろう。一人一人の記憶を確認をする作業とか……
「お疲れ様でした」
「凄いですね。レイ様は」
「シルには無理――」
「シルは……そうね。細かいことが出来るような子ではありませんからね」
「その通りだけど、そう言われると――」
むーと頬を膨らませるシル。
「うははっ! まるで、家族のようじゃないか! なっ、ゼロ?」
「家族か……そうだな。それよりも、まだ完全に回復しないのか。ミディ?」
今のミディは車椅子に乗って、ロドムに押してもらっている状態だった。
「流石に、無理したツケが来ただけだ。まぁ、あの化物相手に生きていられるだけでもマシだわ」
「そうね、誰一人も欠けずに生きられたのは奇跡に近いね」
「……アリスが遊んでいた、舐めていたからだと思う。それに――――もしかしたら、魔王達は殺さないようにと考えていたかもしれないよ? トドメを刺す時は、私が現れるのを知っていたし」
ミディ達にトドメを刺す時、アリスはレイが来るのを知っていたように見えたのだ。レイが攻撃を全て逸らせたことには驚いていたが、現れたことには驚いてはいなかった。レイが魔王達を助けるのを見越して、トドメを刺す振りをしていた可能性も出てくる。
だが、アリスがいない今、それを知る術はない。
「アリスか、強かったな……久しぶりに満足の行く戦いが出来たな」
「それで死んだら、意味がないでしょう」
「そうだな。無理した分、一ヶ月は車椅子の生活になりそうだが、戦えたことは後悔してはおらんぞ」
「戦闘部族のようなことを言わないで下さい。ミディも家族のような物ではありませんか」
「家族ね、長く生きて、これだけ増えるとは嬉しい事だな」
ミディは今まで一緒に生きてきた魔人達のことを家族だと思って、扱っていた。それが、更に増えたことに嬉しく思っていた。それ程に、ミディは孤独に恐れていた。孤独の恐怖は誰一人も耐えれるような感情ではないだろう――――
「もしかしたら、人間を殲滅しようとしたアリスは、自分の存在を認めてもらいたかったのかな? やり方は無茶苦茶だけど」
「かもな。人一倍以上に孤独を恐れていたように見えたな。それが、人間を殲滅しようとした動機とは完全に言えないが、僅かにはあったかもしれん」
アリスの目的、人間の殲滅。言い方を変えれば、自分達のような存在が人間の脅威に怯えない様にする為に動いたとも言える。世界は、ここ一つだけではない。人間側が強く、魔人や魔王が弱い世界も沢山ある。それを知っていたアリスが動いた可能性も出る。人間への復讐だけで、人間の殲滅と大きな目標を掲げたとは思えなかったので、その推測も出るが……
「……もういない人のことを話しても仕方が無い」
「それもそうだな――――ずずっ……「ゼロぉぉぉぉぉぉ!!」ぶっ!?」
紅茶を飲んでいた時に、扉がバン! と開かれ、ゼロを呼ぶ声が上がってた。紅茶を噴出してしまい、前にいたミディに掛かってしまった。まともに動けなく、スキルも殆どがオフになっているミディは熱い紅茶を顔に掛かってしまい、「熱い! 熱っ――――!?」と叫んでいたが、それよりも、扉から現れた意外なお客の姿に注目していた。
「ごほっ、ミカエル? なんで、大天使が地上に来ているんだよ――――」
意外なお客とは、慌てた様子の大天使ミカエルだった。普通なら、地上に現れるようなことは無い筈だったが――――
「ゼロ!! あの時、何をした!?」
「え、えっ? あの時?」
「……落ち着いて、説明をして」
大天使ミカエルは興奮しながら、ゼロの襟を掴んでいた。これでは、話にならないと言うように、落ち着かせようとしたが――――
「アリスが異世界で転生しているぞ!! 言え、爆発する時に何かしたんだろ!?」
「……へ?」
「「「えっ?」」」
アリスが転生している、それを聞いた皆は驚愕していた。何も知らないゼロも目を丸くしていた。それに気付いた大天使ミカエルは今まで興奮していたことを恥ずかしく思い、ゼロから離れた。
「…すまない。興奮していたようだ」
「ちょっ、待て! アリスが転生しているって、どういうことだ!?」
「それは、私も聞きたいことだ。ゼロが何かしたと思っていたが、その様子だと、何も知らないみたいだな……」
「……説明して。どうやって、知ったの?」
「普通なら、教えるのは駄目だが――――仕方が無い、もしもの時は手伝って貰うぞ」
大天使級の存在は、別世界の様子を確認することができると。本来なら、創造神の仕事だが、今はその存在がいないので、代わりに大天使級の存在が別世界を管理していた。偶然だが、大天使ミカエルが管理する世界に、アリスと似た魂がいたのを見つけたことが起因になる。調べてみると、なんと、事を起こしたアリス本人だったことに驚き、慌てて転生させた可能性を持つゼロへ聞きに来た訳だ。
しかし、ゼロ本人も知らないことであり、どうして、アリスの魂が異世界にいるのかわからない。
「アリスの魂は爆発の時に消え去ったよね?」
「そこまでは確認できなかった。魔力が消えたから、消えたと思っていたが……」
「……それが、消えることもなく、異世界に転生したと? そんな爆発に耐えることが出来る魂があるの?」
「いや、神であっても、それは無理だ。創造神のような上級神の魂ではない限りは――――まさか?」
今、創造神はいない。その爆発に耐えるような魂は創造神のような上級神の魂ではない限り、不可能の話になった時、大天使ミカエルはもう一つの推測に思い立った。
アリスの魂は、元々創造神の魂だったのでは? と。創造神が存在をなくした時、ミカエルもその場にいたが、その魂は確認できなかった。もしかしたら、その魂が人間へ転生して、そして、アリスへ。神になれて強かったのも、その魂が、元は神であったからと考えれば、繋がる。しかし、もう一つだけおかしい事がある。アリスだけではなく、もう二つの魂が一緒に転生した事案も見つけられている。
実は、その世界に転生した魂が、アリスだけではなく、この世界にいた魂が二つもあるのだ。それも、アリスの配下であったバトラとマキナの魂だ。
その魂も、アリスの魂と一緒に、ほぼ同じ時に生を受けていた。三つ子として――――――――
『リガルム』と言う世界にて、夜明け前で一つの村から抜け出す三つの影があった。どの三つの影も美少女で金髪、黒髪、茶髪と彩りのある三人の少女が村から出て行き、行き慣れた丘へ集まっていた。
その少女は三つ子で全く似てないが、間違いなく姉妹である。その長女になる金髪の少女が丘に着いた瞬間に、武器を抜く。
「着いた。ここからが、俺達の旅出発点になるぞ!」
「その口調……まぁ、いいわ。アリーはそれが似合っているわね」
「うん、アリー姉様はそれが、似合っているよ!!」
呆れるような声を出したのは、茶髪の次女でハトと言う少女。元気な声は黒髪の二女、マナの少女。もう一回言うが、この三人は全く似ていないが、姉妹である。そして――――――――同じ世界から転生した、転生者でもある。
「あの世界からこの世界へ転生してから、13年! 長かった!!」
「そうね。まさか、この三人が三つ子として、転生するとは思わなかったけどね」
「でも、また一緒になれて、嬉しいよ!!」
「俺も同じだ。このメンバーで旅が出来るのは嬉しいことだ。どうして、魂が消える事も無く、転生出来たかわからないが、俺達だったから、出来た事だと、そう思うことにする!!」
「アバウトな。でも、それがアリーだからね」
「うん、アリー姉様が言う事は絶対に間違ってはいないよ! 私達だったからだよ!!」
三人とも、また一緒になれたことは幸福だった。何故、そんなことになったかは、13年経ってもわかっていないが、新しい世界を楽しむことには不満はないので、この世界でも、自分がやりたいことをやることに決めていた。
「この世界でも、アリスだった頃の目的を達する?」
「私達も手伝うよ?」
目的とは、人間の殲滅。転生しても、その目的を達する為に動くと、二人は思っていたが――――
「いや、それはもういい。もう全てを殺す必要は無い」
だが、元のアリスであるマリーはその目的を撤回した。
「いいの?」
「あぁ、もう俺は満足している。まぁ、俺が嫌いだと思うクズは殺すけどな」
「なら、悪人退治だね!!」
「そうね、前の目的よりは楽かな」
この世界でも、マリー達が好き放題に生きることにした。マリーが嫌いだと思う人を消し、好き放題に生きると決め、旅に出る。
「武器を上げろ」
「こうか?」
「誓いだね!」
「あぁ、この三人はいつでも、何があっても、一緒だ。それをここに誓う!」
三人は丘の上で、剣と大槌と杖を合わせて誓う。いつまでも一緒にいると。その誓いが更に、絆を強めていく。三人だけの少女達が織り成す歴史を作り出していく。
「さぁ、一緒に行こう。俺達の新たな旅へ――――」
新たな旅へと、三人は第一歩を踏み出して行くのだった――――
END
終わりました!
今まで、読んで頂いた方、ありがとうございました
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よろしくお願いします!!
後、これからも別の小説を載せていくので、今後もよろしくお願いいたします。




